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『すきだよ』A面

「すきだよ」って言ったら、ぜんぶが伝わると思ってた。
この言葉さえもちゃんと目を見て伝えることすら時間がかかったのに。

体の奥の奥から怯えながら地上を目指し、細く険しい喉を通り、この声でこの唇で形成された「すきだよ」をあなたはまるでそんなの知ってるよって顔をした。

「オレも」
まるでおはようという挨拶を誰にでも言ってしまうような軽さですぐに返してきた。

嬉しいはずなのになんでだろう。絶対にそれはおはようと同じ返しかたでしょ?
でも私は自分の体からやっと出てきた「すきだよ」に体力を奪われてしまってこれ以上は何も言えない。

あなたはなんて幸せそうな顔をしてるんだろう。
私がその言葉で満たされるとでも思っている?

「私たち付き合う?」
体の奥の奥からやってきた「すきだよ」よりも、突発的に生まれた言葉が唇を勝手に使って声になる。
「え?なんでそうなるの?」

ああ、やっとあなたの正体が現れたね。

私は本当のあなたが知りたかったんだよ。
好きなんだから、付き合いたって思うの普通じゃない?
あなたはまるで話が違うって顔をしている。

「すきだよ」って言ったら、ぜんぶが伝わると思ってた。


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