見出し画像

好きなものをあげてみる。Vol.3音楽(中編)

前編はこちら

はい、待っていた人がいるかどうかはわからないけど、お待たせしました中編です。
早速、大学卒業後から。

3.「ストリートライブに衝撃を受けた」22歳

大学を卒業したあと、僕にとってものすごく大きな出来事がふたつあった。
ひとつは就職とそれにともなうひとり暮らし、そしてもうひとつが……失恋だ。

卒業直後、大学時代を通してつきあっていた恋人にふられた。
まぁよくある話なんだけど、当時の僕にとっては青天の霹靂だった。その恋人は僕にとってほぼ初めてつきあった人だったので、本格的な失恋も初めてで、立ち直るまでにはかなりの時間がかかった。

そしてほぼ同時にはじまった、全く新しい生活。新卒で東京のメーカーの営業として採用された僕は、慣れない営業の仕事、慣れない東京での生活、慣れないひとり暮らし、おまけに慣れない車の運転……といきなり慣れないことずくめの日々に放り込まれた。

このふたつの出来事が、僕の音楽への接し方に大きな影響を与えたのは間違いない。
仕事はうまくできず、上司や先輩に叱責され、「自分は営業に向いていない」とひどく落ち込んだ。
一方で、時間とお金には急に余裕ができた。
大学時代の僕の休日はほとんど元恋人とのデートに費やされていたので、ぽっかりと空いた一人きりの休日、僕は時間を持て余した。初任給は多くはなかったが、元々お金のかかる趣味もあまりなかったので、自由にできるお金もできた。

いきなり孤独になってしまった僕は、学生時代以前の友人に手当たり次第連絡してみたりした。
「彼女に振られたし仕事もうまくいかないしさびしいよ~」って。
そんななかで僕よりはるかに音楽好きで、仲の良かった高校時代の後輩が「私がつらいときに助けられたバンドです」と言って教えてくれたのがLOST IN TIME。
彼らの歌はまさに「言葉を心に届ける」という感じだった。飾らないむきだしの歌詞。歌うというより叫ぶような声。
これまで耳触りのいいポップソングばかりを聴いてきた僕の耳には、衝撃的だった。
LOST IN TIMEというバンドと出会ったことは、それからしばらく、僕の支えとなる。

そしてもうひとつの出会い。
最初のゴールデンウィーク頃、僕は職場の研修でひとり、大阪にある工場に行くことになった。確か2週間くらいだったと思う。
大阪に行くのは初めてで、研修とは言ってもそんなに拘束時間は長くないから、半分観光気分。
とはいえ僕は元々そんなに旅行が好きな方じゃないし、あまり人の多いところには行きたくない。
そう思って僕がふらりと訪れたのが大阪城公園。公園内の広場では「城天」と呼ばれるアマチュアバンドによる無料ストリートライブが間を開けずに行われていた。

僕がそこで偶然ライブを観ることになったのが、firmという今は解散してしまったロックバンド。
ストリートライブとは言え、ちゃんとドラムセットまで設置して、ドラム・ベース・ギター・ギターヴォーカルの4人が目の前で演奏する本格的なライブ。
有名曲のカヴァーなどではなく、作詞作曲から編曲までオリジナルで、アマチュアと言うよりはインディーズバンドと言うべきだろう。
一目見て、虜になった。少し前から「音楽を聴いて、楽器の音を追う」ことを覚えていた僕だったけど、実際に目の前で演奏されている音の迫力は、圧倒的だった。
もちろん、firmがプロにも劣らない演奏技術と曲の良さがあってこそだけど。
たまたまそのとき演奏されていた曲が失恋ソングで、思いっきり自分の境遇と重ねてしまった僕は不覚にもちょっと泣いてしまったりして……。
たどたどしい言葉で、ヴォーカルのお兄さんに「東京からたまたま来ているが、演奏を観て感動した」と告げると、「来月、東京でライブがあるから是非来てほしい」と言った。

それが、僕のライブハウスデビューのきっかけだった。(まだまだ長くなりそうなので後編に続く)

いいなと思ったら応援しよう!

文月 煉
文章を読んでなにかを感じていただけたら、100円くらい「投げ銭」感覚でサポートしていただけると、すごくうれしいです。