マガジンのカバー画像

てのひらの物語

15
さらっと読める短い物語集。 昔書いたものの再掲載がメイン。
運営しているクリエイター

#掌編小説

「こんぺいとうのあまさ」(お題バトル0516参加作品)

「こんぺいとうのあまさ」(お題バトル0516参加作品)

【使用したお題】

日本語、隕石が墜ちる、低気圧、峠道、愛、金平糖、ワイパー、空、飴、雨

 「100年後に地球を壊滅的に破壊する規模の巨大な隕石が墜ちる」
 それを告げたのが雑誌『ムー』ではなくて、世界各国の主要メディアのほぼ全てであり、予言でも予知でもない「95%以上確実な科学的な予測」であることを人々が理解したとき、文明というのはいとも簡単に崩壊した。
 最初の50年間は、世界はかろうじてそ

もっとみる
音楽小説「ハンマーソングと痛みの塔」

音楽小説「ハンマーソングと痛みの塔」

==================================================
以下の内容で記事を投稿します。よろしいですか?
-------------------------------------------------------------
キョウコのヤツサイアク!!
もっと人のキモチ考えた方がいいよとか偉そうに人に意見しやがってあん
たなんかにあたしの気持ちがわか

もっとみる
かけっこがとくいなアリさん

かけっこがとくいなアリさん

 ある都会の住宅街の真ん中の小さな一軒家の、ネコのおでこほどの小さな庭。
 そこに、とってもかけっこの速いアリさんがいました。
 仲間のなかにはだれ一人、彼とかけっこをして勝てる者はおりませんでした。
 仲間たちは彼をうらやましがって口々に言います。
「君はいいなぁ。そんなに速くかけることができたら、きっと、とても遠くまでいけるだろうに。この広い草原のずっとずっと向こうまで見に行くことができるのだ

もっとみる
音楽小説「アイネクライネ」

音楽小説「アイネクライネ」

 雨が音もなく降る夜は、誰だってセンチメンタルな気分になる。私にとってもそれは例外じゃない。いつだって暗く沈みこんでいる私に、センチメンタルなんていう感情は似つかわしくないかもしれないけれど。
 私は部屋のガラス窓を小さく開けて、暗闇に閉ざされた外の世界をのぞき見る。古ぼけた街灯が照らす小さな空間に、雨粒が線を描いていた。目をこらさないと見えない音のない雨は、確かに、この町をじっとりと包んでいた。

もっとみる
彗星祭り

彗星祭り

 夏の日の、金曜日の夜。午後六時といってもまだ闇夜にはならず、空は絵具を溶かしたような鮮やかな紺色だ。
 いささか空調の利きすぎた上り電車。帰宅ラッシュとは逆方向だが、鼠色のビジネスマンとは別の客で、車内はごった返していた。
 狭い室内に、とりどりの和風な色彩が並ぶ。色の正体は、浴衣の生地だ。競うように着飾った若い女の子(一部の男の子も)が、思い思いの浴衣を身にまとい、慣れない下駄や足袋に歩きにく

もっとみる
潮騒の夏

潮騒の夏

 高台にあるその部屋には、無音の時間が存在しなかった。
 いつでもはっきりと聞こえるのは、窓の下に一面に広がる海の、波の音。
 それは「潮騒」というのだと、夏希(なつき)は教えてくれた。潮の流れが、騒ぐと書いて潮騒。
 耳を澄ませてみれば、なるほどそれは海の水の中に無数に溶け込んでいる潮の粒たちが、賑やかにおしゃべりをして騒いでいる様子にも聞こえてくるのだった。
 拓海(たくみ)は、通っている中学

もっとみる
ジャスミン

ジャスミン

 ジャスミンは久しぶりに上機嫌だった。
 ママが、ジャスミンに新品の靴をプレゼントしてくれたから。
 もこもこした布でできた、ふわふわな手触りの真っ赤な靴。靴の横に縫い付けられた、小さな黄色いボタンがとってもおしゃれ。
 ママは今日はとても機嫌がいいらしく、鼻歌なんかを歌いながら、久しぶりにジャスミンの髪の毛をお団子に結んでくれている。
 こういうときのママは大好きだ。
 機嫌が悪いときのママは、

もっとみる
太陽を探すネコ

太陽を探すネコ

 どこかの時代。

 世界は、闇に包まれていました。

 そこでは、どんなに待っても朝はやってきませんでした。

 というのも、世界を照らし、朝を生み出すはずの太陽がどこかへ隠れてしまったのでした。

 生き物たちは手を取り合って、再び朝が来ることを願いましたが、太陽はもう戻ってはきませんでした。

 長い長い夜が、世界を包み込みます。

 厳しくも優しい朝の光を失った世界では、全ては眠りにつき、

もっとみる