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地図博士 ノノさんの鳥の目、虫の目⑤

このnoteでは、『月刊不動産流通』の過去の記事を紹介しています。

「地図博士 ノノさんの鳥の目、虫の目」では、地図にまつわるエピソードを毎号紹介しています。執筆は、(一財)日本地図センター顧問の野々村邦夫氏です。

★2019年5月号
「目黒川には人がいっぱい」


暦の上、ではなくて本誌(5月号)の上では新緑の候だろうが、実際には私の職場の近くの目黒川(東京都目黒区)の川面は今、舞い降りた桜吹雪の花びらで覆われている頃だろう。国道246号(玉川通り)に近い目黒川のこの辺りは、今でこそ都内有数の桜の名所になっているが、50年ほど前の私の印象では、ただのドブ川だった。当時、社会人になって間もない私の職場も、
この近くにあった。

学生時代から酒は好きだったが、建設省(現・国土交通省)国土地理院という役所に就職してから、酒量は格段に増えた。職場の上司、先輩、同僚とよく飲んだ。約50年前のある日の晩、若手数人と職場の近くで飲んだ帰り道、1人の男が目黒川に向かって立ち小便をした。私たちの見ている前でその男は、ツツツッと急な斜面を前のめりに下った。ザブーンと水音がした。

その現場は現在、岸までコンクリート3面張りで、地上から水面まで5mほどあり、岸に近いところは、コンクリートが水面すれすれになっている。落ちれば、一命を落としても不思議ではない。しかし、当時の目黒川は、水こそ清らかではないものの、春の小川の風情が残っていた。図らずも飛び込んだ当人は、立ち上がって岸のほうに戻って来たし、私たちも急な斜面を下って
手を差し伸べた。全身ずぶぬれにはなったものの、怪我一つなかった。

目黒川は、流域面積45.8キロ平方メートルある。100年前の地形図(1919年9月30日発行)を見ると、目黒川の流域は田畑が多く、市街地といえるところはほとんどない。しかし、約50年前の地形図(下に掲載)では、ほとんどが市街化しており、その様子は、現在とあまり変わらない。

全国には、109の一級河川がある。流域人口という観点からこれを見ると、1位利根川、以下淀川、荒川、多摩川、信濃川と続いた後に庄内川が来て、石狩川を挟み、鶴見川、大和川となる。大都市を流れる河川が上位に位置しているのだ。流域人口73.8万人(2015年国勢調査)の目黒川をこのリストに当てはめると、第19位矢作川と第20位天竜川の間になる。目黒川は、身近に
ある小さな川だが、ある意味大河川である。

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