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何の役にも立たないことがしたい。

今日、体験教室を終えて、晴れて音楽教室に入会してきました。

習うのは、アコーディオン。まったくの未経験です。というか、楽器自体ろくにさわったことがない。記憶にあるのは、ハーモニカとリコーダーと音楽の授業でやった木琴。どこに出しても恥ずかしくないズブの素人です。

それがどうしてわざわざ楽器を習おうと思ったのか。理由は大きく分けてふたつです。

ひとつは、“学ぶ”ということがしたかった。

ライター稼業も14年目。冠付きの連載もいくつか持てたし、自著も出せた。フリーのライターとしてやれることは、ある程度やれた実感があります。

もちろんまだまだできないことはあるし、やってみたいことはあるけれど、伸びしろという意味では正直もうそこまでない気がする。

大半の仕事が、これまでストックしてきた引き出しの中で対応できるもので、そのスキルと経験値は誇るべき財産ではあるのだけど、同時に昔取った杵柄を延々と削り続けているような消耗感もなくはないわけです。

そんな中、昨年、『宙わたる教室』というドラマを観て、やっぱり“学ぶ”ことっていいなと思った。

僕も何か学びたい。できないことに四苦八苦したい。自分の力不足に嫌気が差しながらも、それでも必死にトライ&エラーを繰り返して、昨日できなかったことが今日ほんのちょっとできるようになった。そういう喜びを味わいたい。

だから、楽器を習おうと思いました。

ではなぜ楽器だったのかというと、それがもうひとつの理由。

どうせなら、役に立たないことをやりたかったのです。

仕事をしていると、可処分時間でさえつい仕事に紐づくものにあててしまいがち。僕の場合だったら、ドラマや映画、舞台を観ること。それも自分が観たい作品というよりは、これから取材の可能性がありそうな俳優さんが出ているものを今後のためにチェックしておくことのほうが圧倒的に多くて。

机の隅に堆く積み上がった捨てていいのかよくわからない書類みたいに、どんどん観るべき作品のチェックリストがたまっていって、まるで何かのタスクを処理するように休日にどかっと一気観する。そんなことを繰り返しているうちに、自分はどんな作品が好きだったのか、どんどんわからなくなっていきました。

これはあんまり健全じゃない気がした。今後の役に立つか立たないかでto doを決めるような生き方は面白くないなと思った。

だから、全然仕事と関係のないことがしたかった。

将来の役に立たなくていい。生産性なんてゼロでいい。

何のトクにもならなくて。それができるようになったからといって1円の利益も出なくて。周りから見たら無駄だと思えることに、自分のお金と時間を使いたかった。

楽しいことをだけを優先する時間の使い方をしてみたかった。

それが、僕の中で楽器だったのです。

ちなみにアコーディオンを選んだのは、10代の頃からcobaが好きというのと、これだけは胸を張って言えるのですが、キャラクター的にめちゃくちゃ似合うからです。僕のキャラ的にギターとかドラムではない。ピアノやバイオリンなんてもってのほか。アコーディオンというちょっと道化みのある感じが、珍妙な僕にベストマッチだと思った。

ということで、来月から月2回、音楽教室に通います。大好きだった『G線上のあなたと私』の仲間入りです。個人レッスンなんで、あんなふうに友達をつくることはなさそうだけど、大人の青春みたいなものをちょっとでも味わえたらいいなと思う。

キャリアアップにもリスキリングにもならない無益なひととき。そんな役に立たない時間の積み重ねを、人は青春と呼ぶ気がするから。



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横川良明
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