今、日本が牧春に恋してる。
もう本当なんなのこの罪づくりなふたり。この心拍数の上がり具合、確実に日本の何%かの寿命を縮めていると思うんだけど、何の罪で投獄したらいい? そして、独房で他に邪魔の入らない生活をしているふたりを、そっと檻越しに見守っていたい。それくらい、恋するふたりに恋している。
まあ、男同士なんだけど。
今、牧春がやばい。牧春とは『おっさんずラブ』に登場する牧凌太(林遣都)×春田創一(田中圭)のことである。BLの世界ではどうやら攻めを左、受けを右で表記するらしい。思わずググった。それくらいBL初心者なんですけど、BLとかそんなこと関係なく、このカップルは愛しい。どうか最後はこのふたりが幸せになってほしいと画面に念を送り続けている。そろそろこの念、テレビ朝日にまで届いていると思うんだけど聞いてる? スタッフのみなさん。
『おっさんずラブ』は一見するとBLというアンタッチャブルな題材を扱った、トンデモドラマの顔をしているけど、中身は極めて正攻法。古き良き月9を彷彿とさせる王道ラブストーリーだ。その組み合わせが中山美穂と唐沢寿明でもなく、木村拓哉と松たか子でもなく、男と男ということを除けば。
まずね、はるたんがすごくいい。僕は"健全さ"こそが、男の最大の魅力だと思っているんだけど、はるたんはまさにそれ。ズボラでだらしなくてお人好し。もう1点の隙もなく、普通。普通の権化。家族関係とか変な問題抱えていない。父親が不倫してるとか母親が宗教にハマッてるとか、幼い頃に虐待を受けたとか、そういう日陰の要素がゼロ。闇がないの。多くの人に愛されて、決してパリピの頂点なんてことはないけど、そこそこ日当たりのいい道を何の疑問もなく歩き続けてきた感じが全身からにじみ出ている。日陰の道を生きている人間からしたら、この"健全さ"が眩しくてたまらない。
可愛い幼なじみのちず(内田理央)とちょっといい雰囲気になっただけで流されそうになる安直さも「バカバカ! はるたんのバカ!」って思いながら、もはや愛しい。わかるわかる、男子なんて単純だもんね。変な性癖も一切なさそうだし。本人はロリの巨乳好きって公言しているけど、それこそがもうノーマルの極みみたいなもん。それでいて、部長(吉田鋼太郎)から愛を告白されようとも、決して男だからと邪険にせず、相手を傷つけないように誠心誠意心をこめて断るあたり、その優しさが罪。部長じゃないけど、素敵な人を好きになったんだなあって涙が出てくる。
このはるたんだけで九州一帯を殲滅させるくらいの殺傷能力なんだけど、ここに牧というスーパードSな健気キャラが登場するから、もう日本沈没。この牧のスペックが異常すぎて、えづきそう。もともと新卒で本社配属のエリートで、仕事は優秀。かと言ってその優秀さを鼻にかけることもなく、ポスティングという地道な仕事も嫌がらずにやり、先輩に対しても礼儀正しい。おまけに家に帰ったらエプロンつけて美味しい手料理を振る舞ってくれて、その他家事も万能のスーパーお母さん。受け/攻め両方の資質持っているんだけど、この人何者。
そんなハイスペック牧が恋した相手が、営業成績もダメダメでモテないはるたんってところが、わかるって感じで首振りすぎてサロンパス貼りたい。たぶん牧は、あのはるたんの健全さに惹かれたんじゃないかなあ。人に愛されて育って、後ろ暗いことなんか何もないはるたん。片や牧はどれだけ完璧であっても、自分のセクシャリティゆえに、いろいろ傷つくことも多かったと思う。悩んで眠れなかった夜も数知れず。そんな牧にとって、毎晩何も考えずにスヤスヤと爆睡できてそうなあのはるたんの健全さは、ひとつの救いだったんじゃないだろうか。
もう牧のはるたんへの献身ぶりは、健気すぎて見てられない。
自分が恋愛対象として見られないことを知り、本当は離れたいはずなのに、どうしても離れられなくて一緒に住み続けているところが、まず健気。
第4話の冒頭でも、武川(眞島秀和)との件のしこりが残っているくせに、ちゃんとはるたんの分のお弁当をつくってあげるところが、ほら健気。
しかも、それを「つくりすぎたから」って言いながら、どう考えてもあらかじめ2人分つくっているところが、ますます健気。
で、はるたんの力になりたいと思って、ちずの家のピンチを救おうと奔走するところが、はてしなく健気。(悪徳不動産屋に乗り込むときに、首をポキッとする牧がカッコよすぎて5回観た)
さらに、見事ピンチを撃退したにもかかわらず、自分のすぐ横ではるたんがちずに嬉々と報告しているところを、一生懸命笑顔をつくりながら黙って聞いている姿が、人類最強レベルで健気。
わりと結構な勢いで傷つけられているのに。ちずが家に上がり込んでくるだけでも精神的にはキツいはずなのに、はるたんはちずに自分のセクシャリティのことを普通に話しているのを知るし(これ、よくよく考えるとすごい無神経※1)、しかもはるたんじゃなくて武川のことが好きなんだと勘違いされた挙げ句に「よかったじゃん、ひと安心だね」って言われているし(これ、よくよく考えなくてもすごい無神経)。ここまで来ると牧が可哀相すぎて画面を直視できなかった。
それなのに、愚痴も文句も泣き言も言わず、ただただ自分の想いは胸に秘めて、普通の態度を装う牧の代わりに、僕が出雲大社に行ってふたりの恋愛成就を100回祈りたい。
何でこんな牧に感情移入しているんだろう? ってくらい牧しか見えない。一応、ヒロインは部長の方らしいんだけど、え? 牧だよね? 最後は牧とくっつくんだよね? じゃなきゃ生まれて初めて爆破予告をテレビ局に送りつけるんじゃねえかなって自分で自分が心配になるレベルでもう牧春の幸せを願わずにはいられない。
そして、どうやらこの現象は決して僕だけの異常な性癖ではなく、わりと多くの人たちが今、このいかんともしがたい恋の決着を瀕死の想いで見守っているみたいだから、もう牧春の破壊力は国家の軍事予算に計上してもいいと思う。
ラブストーリーは流行らないと言われて幾星霜。んなことないじゃん。やっぱラブストーリーって最強じゃん。報われない片想いほどキュンキュンするものはないよねマジで。それが男だろうと女だろうと、んなことはどうでもいい。大好きな人のために尽くす人の姿は、ただただ美しい。そして、思ってもみなかった恋心の萌芽に自分で自分がわからなくなっている人の姿は、ただただ燃える。
つまり、『おっさんずラブ』とは、恋のせつなさも楽しさもつまった怪物級の恋愛ドラマなのだ。
すっかり牧春中毒に陥ったみなさんはもちろん、まだ幸せなことにこの牧春ウェポンの性能をご存じないあなたもぜひ来週の土曜23時15分はテレビ朝日にチャンネルロックしていただきたい。きっと日付が変わる頃には、「あかん、まじ辛い」とテレビの前で魂抜かれていること請け合いだ。
追伸、どうでもいいけど、僕は牧春じゃなくて春牧なんじゃないかと思っているのだけど、詳しい識者のみなさんはどうお考えでしょうか……?
※1 すっかりちずは牧のセクシャリティを知らないと思い込んでいたのですが、2話の段階で明らかになっていたようです。勘違いで無神経扱いしてごめんよ、はるたん…。(2018.5.15追記)