GO WEST
2001年12月2日公開。「クリスマス雑文祭」参加作品(欄外参照)
目を覚ますと、一時間十分寝過ごしていた。
待ち合わせの時刻にさえすでに十分遅れている。今夜は徹夜になりそうだと言われていたので、ひと眠りしておこうとしたのがいけなかったのだ。
「二人とも先に行ったんちゃうやろなあ」
ぼくは、とほほな気分で、それでもなるべく急いで支度を始めた。
外へ出るとあたりはすでに真っ暗だった。クソ寒いし。
待ち合わせ場所は、町のはずれだ。先に行かれたにせよ、どうせ通り道なのでひとまずそちらへ向かった。
目印の大木の下には、かっちゃんが一人で立っていた。
「おっそいんじゃ、ボケー」
あははー、怒ってやがる。
「暗なったら、寒なるんじゃこの時期。そんぐらいわかっとるやろ、このボケ」
「ボケボケ言うな。ていうか、ばたやんは?」
「あのボケもまだや。お前ら、ほんまに……」
ぼくはそれにかまわず、
「ほんで、どこへ行くて? このあとは西へまっすぐとは聞いたけど」
「知るかボケ。バタ公が来いっちゅうから、ついて来ただけやっちゅうねん。そやのにあのボケ」
ずいぶん機嫌が悪い。
そのあと、かっちゃんの「ボケ」を百回くらい聞かされただろうか。
やっと、ばたやんが現れた。大きな荷物を提げている。
「悪い悪い。どうせお前ら遅れると思て、時間サバ読んどったんや」
ぼくはかっちゃんの嵐のような悪態を押し止めて聞いた。
「なんやその荷物」
「プレゼントに決ってるやんけ。これから何しに行くと思てんねん」
「何しにて、俺ら何も聞いてないっちゅうねん。こんな夜中やし、しし座流星群とか見に行くんちゃうんか」
ばたやんは目を丸くした。
「あー、地元出てだいぶたつのに何も言うてへんかったか。いまだに何も知らんのか。うわー、悪い悪い。かくかくしかじかや」
「かくかくしかじかて、そのまま口で言うてもわかるかあ」
ということで、ばたやんは、ぼくらにようやっと説明してくれた。ぼくらは腰を抜かすほどびっくりした。
「うっそー、せやけどなんでお前そんなこと知ってんねん」
「うーん、なんとなくわかる」
「さすがというのか、ホラかますのもええかげんにせえというか」
やっと三人揃って目的がはっきりしたせいか、かっちゃんもだいぶ機嫌を直したようだ。もともとさっぱりした奴なのである。
ぼくとかっちゃんは目を見合わせて同時に言った。
「あそーか、せやからクリスマスなんか。ほんでプレゼント。なるほどっちゅうやつやな」
ぼくらは出発した。やっと旅も終わりを迎えることがわかって、なんとなく浮き立つものがあった。目的もはっきりした。遠くの森に死体を見に行く少年たちの気分である。
夜中だというのに、みんなで声を揃えて歌を歌ったり、スキップしたり、つい茶目っ気を出してしまう。
やがて、目的の家の灯が見えてきた。
ぼくが最初に声をかけた。
「夜分にすんまへーん、大工のよっさんというのはこちらですか」
「手前ですが」
「うわっちゃー、行き過ぎたかー。すんまへん、何軒ほど手前ですか」
後ろからかっちゃんに頭をはたかれた。
「こんなアホ連れてやってまんねん」
ばたやんが事情を説明した。私たちはすぐに、よっさんの嫁さんと子どもに会わせてもらえた。
ばたやんがプレゼントを差し出した。もちろん黄金と乳香と没薬である。
まずかっちゃんが赤ん坊を抱いた。
「ほんならこれが……イエス様」
嫁さんが答えた。
「イエス」
ばたやんことバルタザールが二人に聞こえないように、ぼそっとつぶやいた。
「うわ、さぶ」
ぼく(メルキオール)もつぶやいた。
「何語の駄洒落やねん」
にぎやかな周囲の様子に、眠っていた赤ん坊が薄目を開いた。かっちゃんことカスパールがあわててヨセフの嫁さんのマリアに赤ん坊を返した。
それで安心したのか、やっぱり眠いのか、赤ん坊は再びすやすやと眠りに就くのだった。
クリスマス雑文祭
あいばまことさんの主催で開催された雑文祭(当該ページは現在閉鎖)。
今回の縛りは下記の通り。
○ 書き出し 「目を覚ますと、一時間十分寝過ごしていた」
○ 結び 「眠りに就くのだった。」
○ 文中に入れる項目は下の三つ。
「なんとなくわかる」
「つい茶目っ気を出してしまう」
「(クリスマスに関する駄洒落)」