嘘でもごまかせ
2005年12月25日公開。第七回雑文祭参加作品。
困ったことが起きた。というような場合、我々はまず、何とかこの場だけでもうまくごまかして切り抜けられないかと考える。それがたとえ嘘っぱちの弁解でも、せめて爾後の努力で挽回可能な状況にまで持ち直す方法はないかと考える。
今回はいくつかの場面を例にあげつつ、他人を陥れたり傷つけたりすることのない「方便としての嘘」、「自己防衛としての嘘」について考察してみたい。
以下はまったくの架空の状況設定であるが、我々がそういった姑息な手段で切り抜けられないかと考えがちな場合を、いくつか挙げてみよう。
(イ)資料(レポート)の締切日を迎えたのにぜんぜん出来ていない。
(ロ)重要な会議に出るのをすっかり忘れていて、あとで上司から電話がかかってきた。
(ハ)忘年会の座敷で酔っ払って上司にプロレス技をかけ、しゃれにならない激痛を与えてしまった。
(ニ)子どもに固く約束していたクリスマスプレゼントなのに、買って帰るのを忘れた。
(ホ)他人に見られたらかなりまずいメールを、妻に発見された。
重ねて言うがまったくの架空の設定なので、経験を元になどしがたいところではあるが、ここはひとつ、「あるときは“嘘つき中年男”、またあるときは“嘘つき公務員”、そしてあるときは“嘘つき恐妻家”、そして“嘘つき父さん”そして……」と、「七つの顔を持つ嘘つき」と呼ばれてきた私が、決して経験によることなく、転ばぬ先の杖というわけでもなく、現状すでに困っている状況をなんとかしたいというわけでもなく、ここでひとつ読者のためだけに、「最上の嘘のつき方」について検討してみたいと思う。
という流れの雑文を書くつもりであったが、ここまで書いて約3週間ほっぽらかしておいたら、だいたいのところは嘘の力を借りるまでもなくなったので、それはやめにしておく。ていうか、架空の設定だって言ってただろうが貴様。ほらもうこの時点でいろいろ嘘つき丸出しになってしまったが、そのあたりはまあいつものこととご海容いただきたい。
たとえば、(イ)については私の資料のことなどあっさりスルーされたまま、その検討会は終了したのであった。私の資料どころか、私が挙げたはずの検討課題はおろか、私の存在そのものがスルーされたといっても過言ではない。と、出席した同僚からあとで聞いた。(ロ)については、お叱りの電話から数日後、改めて電話があって、「君もう次から出席せんでもええわ」ということなので取り繕う必要がなくなった。いずれにしてもめでたしめでたしである。って、めでたいことあるかー。ついで(ハ)であるが、これについてはあまり多くを語りたくない。一日も早く上司の三角巾が外れることを祈るばかりである。
これでは、本当なら来春の異動時期まで都落ちは未定とはいえ、ホウレン草をたらふく食べたポパイによるホームランボールのごとく、辺境の地までかっ飛ばされるのも時間の問題であるといえよう(でも、どんだけはじっこでも通勤圏内というのが地方公務員のいいところ)。
あとは家庭の問題となるが、(ニ)なんてのは、私の手にかかればごまかすくらいは赤子の手をひねるようなものである。小学生の分際でつべこべ言うなら、本当に手をひねってやればいいのである。嘘などつくまでもない。
ここで、最大の問題となったのが(ホ)である。いや、あの、「架空の設定」だったはずなのだが、もういいやそんなの。えーと、ともかく問題となったのがこの営業メールなのである。もちろん、私とて「みくみく♪」などと登録するほど愚かではない。差出人は、きちんと「山本部長」と表示されていたのだが、たまたま私の携帯を手にした妻が、「メール1件」という表示を見て、反射的に決定ボタンを連打しやがったのである。そこへ現れたのが、「山本部長」からのメールなのであるが、早い話が、クリスマスにはプレゼント持って来いだのシャンパン抜いてくれだのそれがピンドンならあたしも素敵なプレゼントあげるだのあみちゃんもかなちゃんも待ってるよだのぷるるんのゆっさゆっさだよだの絵文字だの記号だのであふれかえった赤面メールであると思ってもらってよい。それだけならばまだいいがっ(トーマス兄弟調で)、添付の写メがあんた、なつかしのだっちゅーのポーズでしかも前かがみ、みくみくの上目遣いがとても可愛くてそのあご先の向こうには自慢の谷間が! って、あほかー! よりによってそんな写真をヨメはんにー!
「なんやのこれ」
「お前、人のメールを、なに勝手に……」
「聞いてるのは、わ・た・し」
「これはやな、あの、あれや、台湾人の得意先が、今度、蒋介石の招待席に招んだるからていうて……」
「思い切り日本人やろこれ」
「せやから、これは、あの、そうや、山本部長の嫌がらせや。あのおっさん、ちょいちょいこんなことしよんねん」
「かいらしい部長さんやな」
「いや、ちゃうんねん、それは、あの……」
どう見ても間抜けです。本当にありがとうございました。
結局のところ、最後の例に関しては嘘をつく間もなくかなり悲劇的な結末を迎えたのだが、ここはひとつ後学のために読者諸賢のご意見も聞かせていただきたいところである。今さら名案を聞いても後の祭りのような気もするが。
というようなわけで、年末もここにいたって我が家はどうなるか風雲急を告げているところなのだが、これをお読みの皆様には私の分までお祈りさせていただく(涙目で)。
ほんとうにほんとうに来年もいい年でありますように。
「第七回雑文祭」
題名 : (七を含む)
始め : 困ったことが起きた。
お題1: 七つの顔
お題2: 落ちは未定
お題3: 蒋介石の招待席
結び : 来年もいい年でありますように。
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