『法善厳一郎 拾うは生者の反響』 第四話 確証とは 三
優希とともに西洋風門扉を出た霧野は、T路地になっている生活路を前に足を止め、周辺の建物を見回した。二階建ての家に和風の平屋、アパートやマンションに月極駐車場。みな生活路に沿って規則正しく並んでいる。だが、形式や外見は違えど共通している点も数多く見受けられた。あらゆるモノから愛車を守るために造られたガレージ、屋外で使用する道具がしまわれているであろう物置、木の温もりと色合いが調和するウッドデッキに見栄えの良い芝生が横たわる庭。
念願叶って夢のマイホームかあ。すげぇな。霧野が一人心の中で感嘆していると、優希が口を開いた。
「時田さんの家ならもう見えてますよ。あれです、真正面のお宅です」
霧野は一言も発せず優希が見つめている家に目をやった。対向車が来ても悠々とすれ違えるほど広い生活路の向こう側に、肩ほどの生垣が、家の一階部分と庭を隠すようにぐるりと一周設置されている。霧野は一度視線を切って囁くように訊いた。
「あの生垣は昔から植えられているのか?」
「いえ、以前は鉄の柵? みたいな感じの囲いでした」
優希も敢えて視線を切り、足下を見ながら小声で答えた。霧野は再び時田家に視線を戻す。
他に外観から確認できるのは家の二階部分と、横にある車三台分の駐車場だけか……なるほどな、確かにきな臭いな。霧野は優希と目を合わせた。優希は緊張と不安が入り混じった顔を向けている。
「こりゃあ駄目だ。ここから見ても埒が明かない。行ってみるしかないだろうな」
優希の緊張をほぐすべく、敢えて霧野は冗談めいた口調で言った。優希はフフッと笑い声を漏らしたあと、口元を隠して、
「当たって砕けろの精神ですか。好きですよ、そう言うの」
肩をピクピクさせながら笑った。ほっと胸を撫で下ろした霧野は、微笑みを浮かべながら、
「心意気はそれでいい。しかしながら、やはり家の中に入るには口実が必要だ。それでなんだが……」
優希に耳打ちをした。優希は時折頷きながら、真剣な眼差しで霧野の話に耳を傾けていた。
「フフッ。なるほど。それなら違和感ないですね。わかりました。それでいきましょう」
「ああ、よろしく頼むよ」
軽やかな足取りで歩き始めた優希の背中には、悪戯っ子のような嬉々とした雰囲気が漂っていた。
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