ある人の人生②
その人は、1935年2月11日、東京都江東区南砂で
次男として生まれた。
祖父は旅芸人、いとこは前田武彦だった。
戦後、戦争中に父が疎開していた福島県に引っ越し、
父は鉄工所を始めた。
その人は工業高校に進むも中退。
その後、父の会社で働いていた。
ある農家出身の女性と出会い、結婚。
次男なので家を継ぐ必要はなかったはずが、
遊び人の兄がろくに働かず妾をつくって出ていったりして
両親と同居することになる。
本当は、好きなことをして自由に暮らしたかったのだろう。
猟犬を飼い、友だちと山に猟に出かけたり
当時は珍しかったカラオケセットを買って歌ったり。
しかし、父亡きあとは
鉄工所の社長を務めることになる。
そのストレスもあってか、
毎日お酒を大量に飲み、アルコール依存症になる。
子どもはほしくなかったようだ。
娘が2人いたが、会話したり一緒に遊ぶことはなかった。
それでも、夏休みには車で温泉地に行ったり
子どもが好きなお菓子を買ってきたりはしていた。
おそらく、接し方がわからなかったのだろう。
肝硬変になり、アルコール依存症から抜け出そうと
精神病院に入院した時期もあったが、
うまくはいかなかった。
酔って家族に文句を言ったり失態をさらす姿に愛想をつかされ、
1982年、妻と娘たちは家を出ていく。
母は病院に入院後、亡くなった。
1987年には正式に離婚。
そして1989年5月、54歳で死亡。
連絡がとれないため、
一人で暮らしていた家を妹が訪ね、発見。
入浴中に亡くなったようだ。
葬儀のために数年ぶりに戻った家で娘が見たのは、
階段の横にある黒板に書かれた
妻と娘たちの誕生月と誕生石。
彼は、自分の家族が嫌いだったわけではなかったのだろう。
ただ、どう接したらいいのかわからず
暴れるという形で甘えていたのかもしれない。
娘がその人の気持ちを本当に理解できるようになったのは
亡くなってから12年後。
前世療法を体験したあとだった。
娘は、人は死後でもわかり合えることを実感した。