皿貝やすこ【小説とエッセイ】

書くこと、読むこと。'86生まれ、二児の母。

皿貝やすこ【小説とエッセイ】

書くこと、読むこと。'86生まれ、二児の母。

最近の記事

【短編小説】まーちゃんとラーフラ【19枚/15分】

 せんたっきはヒマラヤ山脈。  雨が手すりをたたいて鉄琴みたいな音がする。  大むかし、雨は何日も何ヶ月も、何年もふりつづいたんだって。どれくらいむかしかというと、きょうりゅうが生きていたくらいむかし。  雨がふりつづくと、洪水になる。  洪水になると、そこで暮らしていたきょうりゅうたちはどこにもいくところがなくなって、どんどん山の高いほうににげていく。そしてとうとうてっぺんにたどり着く。ヒマラヤ山脈のてっぺんにあつまったきょうりゅうたちは、生死をかけたたたかいをはじめるんだ

    • 【自己紹介エッセイ3】書くことは死に抗うこと

       小説の寿命は長くてもせいぜい100年、というようなことを講座の先生は言った。(たしかに50年も前の日本語は現代のことばとはやはりどこかちがうし、時代背景も生活習慣も全くちがう100年も前の小説は正直、読めない。)だから何か遺そうなんて、そんな大それたことを考えないで、ただ書けばいいんですよ、小説を書くことの魅力を楽しみましょう、というような文脈だったと思う。  けれど大それたことを考えたこともなかった私は、その言葉を聞いてかえって、死んでも書いたものは残るよなあ、という当

      • 【自己紹介エッセイ2】 続・「書く」の遍歴

        (前回まで)小説を書きたいなと思いながら中年を迎えてしまった私は、そろそろ書かないと人生終わってしまうのではと焦りーー  書く才能がある人であればきっと「小説の書き方」なるものを教えてもらう必要はないのだろうし、これまで書かれていない世界を見せてくれるのが小説なのだから、書き方を教わって書いた小説の価値などたかが知れているのかもしれない。  とはいえ、自分の書けなさを決定的に自覚するのを恐れるあまりに、私は小説を書くよりも、およそ創作とは関係のない雑事に忙殺されることを自ら

        • 【自己紹介エッセイ1】 「書く」の遍歴

           小さいころから書くことは好きだった。  好きというか、執着や信仰に似ているかもしれない。  クラスの誰よりも早く原稿用紙を埋めて、次の一枚を教室の一番前の教壇まで意気揚々と取りに行くのが何よりの楽しみで、自慢でもあった。引っ込み思案で従順で、おとなしい性格であったから友達もできず、私にとっては「書くこと」がひとつの大きな意思疎通の手段であり、私がちゃんとものを考えられる子どもなのだと証明する方法だった。  逆にというか、小学生の時は「読むこと」が苦手だった。本物のーー先天