
Photo by
tomekantyou1
ののうさん
昔、図書館でボランティアをしていた時のこと
司書さんの一人に薦められた本がありました
彼女は平たく白い顔で
目と唇にはっきり意思の読みとれる
天然パーマに、ふっくらした下半身で
どんな話も厳かに、そしてひょうきんに話す人でした
ボランティアの出来る仕事は知れていて
書架に本を戻す〝配架〟という作業だけ
「手が埃になるから、手袋を持って来て」
「喉が渇いたな、と思ったらもう遅い。渇く前に給水して」
あなたから『はだしのゲン』が一般漫画でなく、社会の棚にあることも、
そしてあの本のことも、教えられたのでした
『夜明けの図書館』(埜納タオ)
「これ、すっごく面白いのよ」
真面目に、でも眼をきょろっとこちらへ向けて、含む様に
でもなかなか読めませんでした
(司書さんが薦める、図書館の本……面白くなかったら何て言おう)
(見慣れない、苗字と名前。外国人が描いたのかな?)
(それにいつも貸し出し中で、予約するのも面倒くさい)
いつもなら、読んでみるのに、調べてみるのに、構えて出来ませんでした
慣れない場所で、あなたを頼っていたのでしょう
温もりを感じたイメージに、傷を付けたくなかったのでしょう
それが分かるのに今までかかるなんて、思ったよりずっと小さい私でした
今日、ようやく読みました
図書館のレファレンスの漫画でした
〝埜納〟は ののう と読みました
あなたは何を伝えたかったのでしょう
「私達の仕事は、こんなことよ」
「わからないことがあったら、相談(レファレンス)してね」
ののう とは、歩き巫女のことでした
全国行脚の口寄せ祈祷
巫女のいない僻村では、大いに頼られ迎えられたことでしょう
ののうさんの声がする
戦の御代から
漫画の線から
あなたのイタズラっぽい眼から
ののうさんの声を出す
伝わったよ、伝わったよ、伝えるよ
いいなと思ったら応援しよう!
