『KING OF KINGS 2023 GRAND CHAMPIONSHIP FINAL』を観て
【2024.02.15 追記】↑Abemaプレミアム限定で大会のフル配信が開始されました。
年一開催のものとしては国内最大級のMCバトルイベント『KING OF KINGS GRAND CHAMPIONSHIP FINAL』が今年も開催され、終了した。
翌日が年始直後の平日だったので生観覧を断念した配信視聴組だったが、個人的にはかつてないほど思い入れを持って見守った大会となった。
基本的にMCバトルは水物もいいところで、よっぽど特異な例でなければ、どんなに強いMCでも日ごとに勝ったり負けたりを繰り返している。また、結局は現場の判断が全てであるにせよ、試合ごとの勝敗に納得がいかないことも少なくない。けれど基本的にそういうものだと思ってきたし、大きな大会でも一定程度は割り切って観るようにしていた。
ただ今回、その心持ちがにわかに変化したのは、決勝戦に使われるという確定情報のもと事前公開されたビートを聴いた時だった。
動画を再生して「Olive Oil STAGE」というテロップと共にビートを耳にした瞬間、とんでもなく色めき立ってしまったし、これはだいぶ話が違ってくるなと思った。(そして関係ないがこのプロモーション映像自体も良い。)
かいつまんで言えば、自分にとってOlive Oilのビートというのは、アンダーグラウンドな日本語ラップの原体験にかなり近しい存在だ。その上で、この生命の深部にまで触れてくるような、静謐で重々しいビートである。要は、試合結果の如何以上に「このビートに好きなラッパーの声が乗ってほしい!」と願わずにいられなくなったのだ。
ただ、いざ始まってみるとそんな私の思惑を軽くブチのめすかのように残酷な対戦カードが組まれていたため、生配信を視聴した際の心境はなかなかに悲惨だったし、結局は割り切って観るしかなくなってしまったのだが……。
しかしそれでもやはり『KOK』、そして選りすぐりの精鋭MC達。改めて考えてみると、とても良い試合ばかりだったと思う。一部驚くような判定もあるにはあったが、最終的には納得がいく内容だった。
ここからは各試合をざっくりと振り返っていく。なお各項の末尾で出場MC達の近作を一人ずつ紹介していくので、そちらもよかったら是非見ていってほしい。
【LIVE ACT】紅桜
試合終了までに消耗する気力体力を思うと、じっくり聴き入る形になることが多い紅桜というライブアクトは観客にやさしかったなと思う。曲タイトルが縦文字で真ん中におおきく表示される、という画面演出も似合っていて良かった。
昨年9月の『口喧嘩祭Special』と、同月J-REXXXとともに梅田のNOON CAFEに出演していた際にその歌声を聴いたが、やはり倍音などの関係だろうか、生で観るのと配信とでは迫力に大きな違いがあると実感する。
また機会をねらって、直にあの声を聴きに行きたい。
【一回戦第一試合】SAM vs 裂固
いきなりこの二人が?と驚かされた一回戦第一試合(しかもこの後に何度も同じショックを経験することになる)。
『戦極MCBATTLE 第29章』で復帰し、そこから安定した強さで同大会の三連覇を遂げたSAM。そして前年の『KOK2022』で王者となり、それ以降もその勢いのまま活躍し数々のベストバウトを生み出してきた裂固。
現行のシーンを代表するライマーと言っても過言ではない二人が初っ端にぶつかってしまうという、悲劇とも贅沢至極とも言える初戦だった。
相変わらず均整のとれた構成で韻を落としてくるSAMの技術には思わず溜息が出るし、一年前の優勝以降ノリに乗っている裂固による怒涛のハイパフォーマンスにも圧倒された。
かなり拮抗した内容だったが、SAMの「高ラの時から進化がない」というdisに対して「韻だけじゃねえぜ/フロウで魅せることも出来る」と音ノリに変化をつけて返してみせた裂固が非常に良かった。
ジャージーやドリル系のビート上でFuma no KTR(↑)、ID、龍鬼(これは負けたが)等のフロウ巧者達と対等に渡り合ってきた今年度の裂固を思い返せば、それは大いに納得がいくものだった。
試合終了直後、なかなかザワつきを収めることが出来なかった客席側の気持ちが痛いほど分かる。どちらに挙げればいいのかと頭を抱える人も少なくなかっただろうと思う。
結果、SAMがまさかの一回戦敗退。画面の向こうで観ている自分でも「すごい大会になりそうだな……」と呆気にとられた第一試合だった。
【一回戦第二試合】CHICO CARLITO vs 句潤
「準決勝のカードか?」と思った。それぞれ特徴的な声質と、表情豊かなフロウが魅力の二人。確かにいずれ観たい対決ではあったが……!と複雑な感情に整理がつかないまま見守った。
まず当然といえば当然だが、この日の句潤は2023年に観たどの試合よりも、放つ言葉の火力が強かった。
何せ「空飛ぶカモメが来た/KOKブチ殺しに来た」である。
対するCHICO CARLITO(以下、CHICO)は「ブチ殺すじゃない、ブチ上げる」と返した後、中指を立ててこう言った。
「クソな政治家にファックサイン/プラス1本してピースサイン」
――ここから始まる“指”モチーフのワードを発展させたやり取りがそれぞれ巧妙。大会終了後もSNS上で話題になっていた。
句潤の「俺、薬指にゴールド光るぜリング」から、CHICOの「薬指、中指、人差し指」と指をしまう動作からの「やっぱ句潤さんいいね、立てる親指」「このビート取った方が俺達でリリースするっていう約束の小指」「チャンスを掴む、俺のこの掌の中に」。さいごは句潤が手指を数えて、Hoodのキーワード「045」へ繋げた。
「セッションしたいって言ったりバトルって言ったり/空回ってんのどっちだよ」
この延長後のCHICOによる指摘から、会場の空気が動いたように感じる。
個人的には、句潤は句潤でブレのないスタンスをきちんと提示していたとは思う。空回る以前に、はじめから自由に飛び回っているのが句潤のラップというものだ。
「音楽は十人十色/ビートひとつひとつの心があるから変わる、言葉も」
ビートの色や表情を感じ取り、それに呼応する言葉を乗せる。そうして音と遊ぶようにしながら、対戦相手を含めた会場ごと自分の世界観へ巻き込んでいく。そうしたセッションを通して、気づけば相手を負かしている。少なくとも2023年の句潤はそんな印象だった。
つまり句潤にとって相手とセッションすることが、すなわち相手を制するための“バチバチの戦い”でもあったという事だ。とはいえ、CHICOが最後のフレーズまでライムを決めきりフロアを沸かせていたのに比べ、句潤のバースがあまり響いていなかったのも確かである。判定は納得のいくものだった。
(ただ延長戦のジャッジの際、おそらく審査員の中で誰よりも句潤というアーティストを理解しているであろうFORKだけが句潤に挙げていた――この事実には、なんとなく心が和らいだ)
いずれにせよ二人の攻め合いや駆け引きが素晴らしく、観られて良かった試合だった。
しかし、事前公開されたMatildA STAGEのYouTubeにいち早く“句潤に乗らせたらだめなやつだこれ”というコメントが付いていたのは笑ったが、蓋を開けてみればまさかの采配であった。
「俺達でリリースしよう」という小指の約束を信じていいのなら、心から楽しみにしたいところである。
【一回戦第三試合】MOL53 vs SILENT KILLA JOINT
「勘弁してくれ……」と思った。どのような経緯で決定したのか知りようもないが、自分にとってはなんなら決勝で、あのビートの上で戦っているのを観られたらと夢想すらしていた組み合わせである。可能性は平等とはいえ、正直なかなかに落胆してしまった。
(↑X上のCIMAの投稿だけが私の心に寄り添ってくれていた)
その上、この大会の前々日に行われていたバトルイベント『Red Bull Roku Maru』での無敵と言えるほどの強さを観た時点で、MOL53が現状どのようなコンディションにあるのかは十分に理解できていた。
まして常日頃から身近にいる仲間ならば、あの日は何が見えていたのだろう。少なくともSILENT KILLA JOINT(以下、SKJ)は1バース目の時点から、明らかに本調子でない様子が見て取れた。そして、おそらく自身でもそれを理解した上で“番狂わせを起こす”という意志を示していた。
「登りに来たんだ頂上/昨日までを変えるための今日」
目の前で差し向かう相手をいかに大きな存在として見ているのか、その心象が伝わるフレーズ。一方でそれに対して口火を切ったMOL53の言葉には、想像をゆうに超えて隙が無かった。
「お前一人じゃねぇ/俺が勝ったらお前も掬い上げる」
また、SKJの“保険をかけてるのか?”という問いに対し、MOL53は余裕をもって苦笑いした。
「今日、起きた瞬間に思ったよ/“また俺がKingかよ”」
この言葉を聞いたところで「ああ、これは勝てない」と悟らされた。この山はきっと到底動かせない。二人の構図は変わらない。
欲を言えばこの二人がKOKで躍動するのをもう少し長く観たかった、と切実な思いがよぎった。
……が、同時に「勘弁してよ53くん/お前は付け入る隙だらけだぜ」「あの300万、何に使った?って話だ」というSKJの最後のバースに関しては、何となくかえって好ましく思えてしまった。
無論バトルの上では悪手だったかもしれないが、おそらくここから勝ち進んでいくMOL53について全出場者の中でただ一人、SKJしか知らない姿があるのだということを、そのバースは伝えていた。
なので結果論ではあるが、この日のステージにこのバースが刻まれた事には、少なからず意義があったのでは……などと考えてしまったのだった。
ところで、判定後のSKJのコメントまでを観終えた辺りで、私の脳裏にはあるフレーズが浮かんでいた。
――「結局、目が覚めたら、何も変わらなかった。やる事やるだけだな」。それは一昨年の『UMB2022』で優勝した翌日深夜、某イベントでのバトルに登場してきたSKJが最初に放った一言だった。
そして、そこから現在までの約一年間でSKJ(およびMOL53も含めた仲間たち)が実際に“やった事”から影響と刺激を受け、多少なりとも能動させられたリスナーの一人が、今の自分である。
本質は常に画面越しの“そこ”にはなく、また“ここから”にある。その期待感を、この日は再確認する形になった。
ちなみに先述した一昨年の某バトル、相手はMOL53であった。
……なんだか興味深い対比だが、二人はあの日のことを覚えているだろうか。もし機会があれば聞いてみたい。
【一回戦第四試合】Shamis vs 漢 a.k.a. GAMI
これもまた最年少の大型ルーキー vs 最年長の大ベテランという、すこぶる明快かつ容赦のないカードであった。
Shamisは昨年4月の『第18回高校生ラップ選手権』優勝以降、『凱旋MC battle THE GIANT KILLING』など様々な大会でその姿を目にしてきたし、岐阜の『口喧嘩祭Special』では実際に間近でバトルを観ることもできた。
同年代のL.B.R.Lもそうだが、とにかく年齢を感じさせない落ち着いた戦いぶり、それとスキル面での総合的なバランスの良さにたびたび驚かされる。かといって優等生すぎるきらいもなく、ちゃんと熱いバイブスも見せてくれる。なんなんだ、恐ろしい。
とはいえこの日は『KOK』の大舞台、かつ説明不要のレジェンドが相手ともあり、さすがに気圧されている様子も見て取れたが、それでもバースには一定の安定感があった。ノリや勢いで小節を埋めたように見える部分は少なく、またフロアを沸かせる力強いフレーズを手堅くしっかり落としていた。
一方の漢はというと、『THE罵倒2023』の時とほぼ変わらない印象だった。
日本のHIPHOPシーンにおける“リアル”の体現者としての重厚なキャリアによって、漢の吐く言葉の一つ一つには圧倒的な説得力と影響力が宿る。加えて、あの言葉が粒だって淡々と響いてくるフロウは、やはり唯一無二のものだ。
しかし平均的なパフォーマンスの良さを考えれば、この試合はShamisに軍配が上がるのだろうと思った。(Shamisがわりと強い言葉を使っていたので、少し背伸びしているように見える部分もなくはなかったが……)
が、意外にも観客判定(Shamis)と審査員判定(満場一致で漢)がはっきりと対立する形で分かれる結果に。獲得ポイント数により、漢の勝利が決まった。
Shamisにとっては悔しい結果であっただろうが、判定後の
「自分もラップをやり始めたことがきっかけで、この大きな舞台に立てた。今何かやってみたいことがある人は自分の可能性を信じて挑戦してほしい(要約)」といった趣旨の真っ直ぐなコメントが素晴らしかった。
あの明るく素朴な声色は印象に残りやすく、また音楽的なポテンシャルも秘めていそうなので、今後の活動も楽しみにしたい。
【一回戦第五試合】MAKA vs だーひー
改めて一試合ずつ振り返ると尚更実感するが、一回戦はどのカードもおおむね何らかの意図が見える、言い換えればわかりやすいテーマが読み取れる組み合わせになっていた。この対決に関しては、聡明で堅実な分析思考のプレイヤー対決といったところだろうか。
……と言ってはみたが、実のところ私は不勉強で、だーひー(日高大地)に関するパーソナルな情報がほぼ頭にない状態で観ていた(私はもともと主にチプルソが出ていた時期とFORKが出ていた大会から視聴していったため、2015~2020年頃の知識が最も貧困である)。
しかし、だからこそ「こんなに上手いのか!」という驚きは大きかった。効果的なアンサーを返すのが上手く、ライミングを入れこむのも上手い。短いやり取りの中でも頭の回転の速さが伝わってくるし、的確な言葉選びには生半可でない蓄積が垣間見えた。
一方、太く厚い声が与えるインパクトと巧みにビートを乗りこなすタイム感が強みのMAKAだが、この日はその魅力があまりフロアに届いていないように見えた。おそらくはだーひーの「Red Bullで負けた奴だろ?」という指摘により、早めに対話の型式を持ち込まれたのが大きかったのだろうと思う。
そこでMAKAは前日に優勝した『Frontier MC Battle』の名前を挙げ「64人の魂を背負っている」と反論するも「おまえはFrontier代表MCじゃねぇ/今日はその翼じゃ飛べなさそうだな」と上手い言い回しで返される。
さらにそこから、だーひーが『破天 MC BATTLE』の司会であり、この試合を舞台袖から見つめていたというアンジャッシュ・渡部の存在に言及したところがまた非常に心憎かった。
地元に身を置いて兼業で活動しながら、まだまだ歴史の浅い『破天』を上り詰めて代表者となり、この舞台へ辿り着いただーひー。
そして最初こそ少々トリッキーな起用という印象が強かったが、初回から『破天』の司会を手堅くまじめに全うしてきている渡部。
そんな二人が結束を固め、今この舞台で同じ夢に向かっているという。我々オーディエンスはこういう泥臭い人間ドラマに大変弱いのだ。
しかも前段のMAKAとは、そうした背景の伝わりやすさとフレーズのキャッチーさに大きな違いがあった。それも含め、だーひーの試合運びの上手さをしっかりと知らしめられた形となった。
ともあれ、毎度そのパフォーマンススキルでフロアを沸かせてくれるMAKAから「音源をバチバチに作っていきます」というコメントが聞けたのは大変嬉しかった。絶対に出してほしい。
【一回戦第六試合】呂布カルマ vs REIDAM
昨年の『KOK 2022』におけるFuma no KTRとの激戦から、それまでよりも確実に名が広がったREIDAM。
かくいう私も彼の存在を知ったのはそこからだったが、TRIANGLEとの縁のお陰で昨年は二度、REIDAMのライブを観ることができた。そこでは、バトルで観ていた時と変わりない言葉の引力とフロウによる表現力、及びそれらが作り出すリリシストとしての魅力を携えたREIDAMの姿があった。
本音を誤魔化さずに言えば、REIDAMに勝ち上がってほしいと願っていた。しかしこの試合もまた、個人的には憎らしくなる組み合わせである。
スキルフルな対話を通して観客を惹き付けていくMC、という点だけ挙げれば共通しているように思えるが、両者のスタンスそのものには確実に相容れない部分があるという事も自然と察しがつく。そんな二人だ。
結果、声の響き方やビートの乗り方、言葉の聴かせ方、またその端々から見えるスタンスとイズムの一貫性。そうしたREIDAMの魅力はいつも通り発揮されていた。
が、しかしリズムキープと言い回しの妙技でフロアを沸かせていく呂布カルマには、それ以上の勢いがあった。
そうして呂布カルマが会場の空気を早々に掌握してしまったことにより、REIDAMは明らかにペースを乱されている様子だった。
観客判定も審査員判定も、満場一致で呂布カルマの勝利を示した。何ともいえない心持ちではあったが、文句なしの結果であった。
【一回戦第七試合】Authority vs MC☆ニガリa.k.a赤い稲妻
同世代のUMB覇者による対決。そして、ここで一回戦の最終試合がNAIKA MCとGOTITという、こちらもほぼ同世代のUMB覇者対決となることが確定した。
憎たらしいほど分かりやすい。逆に言えばこんなにも分かりやすくタイプを分けて組みたくなる、奇跡的なメンツだったということなのかもしれないが。
AuthorityもMC☆ニガリa.k.a赤い稲妻(以下、MCニガリ)も、“天才”と評されがちなイメージがある。
そもそもMCバトルブームも昔話となりつつある昨今、若い内から卓越したスキルやセンスを有するMCは全国各地に数多く存在している。にもかかわらず、滅多なことでは与えられない“天才”という評価がこの二人になされる理由。それもまた、この一年ほどの間に何となく理解できてきた事であった。
ごく簡単に言えば、どう見ても“神がかっている”としか思えない瞬間がこの二人にはある、ということなのだろう。
一人のMCの試合を数多く観ていくと、そのうち“きっとここから印象的なラインを決めてくる”だとか、“ここに数文字のライムが入りそう”だとか、観ながら何となく規則性が掴めてくることがある。
が、この二人は時折そうした予想を何段階か超越して、驚くようなパンチラインや秀逸なライムを、美しく決めてくることがあるのだ。
特にMCニガリに関しては、優勝した『SPOTLIGHT 2023』を間近で目撃したことにより、それをまざまざと実感することができた。この速度の中どんな流れで思考が働けば、あれほど多様なライムを小節内に整理させた状態で繰り出せるのだろうか……と、ただ唖然としながら見守った記憶がある。
しかし、天才にもムラはつきものである。この日はどちらかというとAuthorityに追い風が吹いていたようだった。「ジブさんの前じゃ鼻息荒くなる」というヘッズにとって親しみ深い引用から始まり、各バースの決め所に置かれるキラーフレーズの威力が圧倒的に勝っていたのがAuthorityだった。
対するMCニガリは、それこそ『SPOTLIGHT 2023』等で感じられた鉄壁と思えるほど安定したライミングが、どうもあまり見られない……という印象に留まったまま、勝負が決まってしまった。
本人としても“もっとやれた”という感覚だったのだろうか、判定後にコメントを求められても力なく笑うのみで言葉はなく、ひどく悔しそうな様子だった。
【一回戦第八試合】NAIKA MC vs GOTIT
この一回戦最終試合に関しては、抜きんでて嬉しかったし、これ以上ないカードだとも思った。実際、この大会全体を通して一、二を争うほど好きな試合だった。
まずはとにかく、張り詰めた空気が続かざるを得ない『KOK』の一回戦。その最終試合で登場してきてくれるNAIKA MCという存在のありがたさといったらなかった。
あの「調子はどうでしょうか」「疲れてる場合じゃねぇぞ」という威勢良く、大きく響く声。声を浴びた客席は“この時間を待っていた”と言わんばかりに、喜びに溢れた歓声を送り返していた。
その明るさとトーク力、茶目っ気溢れるキャラクター、またそれを『KOK』の舞台であっても、というか『KOK』だからこそ貫き通す胆力。どんな舞台で誰と当たろうが、結果として勝とうが負けようが、必ずフロアに笑顔を与えてくれるのがNAIKA MCという人なのだ。と、改めて感嘆させられた。
そして、この試合を観ていて分かったことだが、この二人の持つ魅力には少し似た部分がある。
昨年のUMBも配信で視聴していたが、あの日のGOTITもまた、積み上げてきた経験から綴られるリアルな目線があり、ふいに心に残る言語表現があり、そして時々ふと気を緩めさせられるような遊びとユーモアがあった。
そんな二人の試合は、言うなれば聴衆をより人間的に惚れさせた方が勝つ、といった空気の試合だった。
GOTITの「UMBという地方を背負ってるからこそ、今この場所に立ってる」という言葉は、あの日激戦を繰り広げた数々のMC達の顔を脳裏によみがえらせる、とても良いフレーズだった。
一方で、音源制作について指摘された時のNAIKA MCの「12月27日に出したんですよ皆さん聴いて下さい/売れてないから」と瞬時に道化てから「けどMCバトルに出てくることはビビってない/だってブレてないから」とニクいキラーフレーズを決めてくる一連の流れは、さすがの一言だった。
両者ともに、一歩も引かずに攻め続ける怒涛の応酬で、どちらが勝ってもおかしくないと思える内容だった。GOTITは栄光を勝ち取った直後の一回戦敗退となり堪えたかもしれないが、変わらずに頑張ってほしい。
【二回戦第一試合】裂固 vs CHICO CARLITO
「裂固からすると“SAMからのCHICO”、反対にCHICOからしても“句潤からの裂固”かあ……」なんてことを今さら振り返っていた記憶がある。つくづくオールスターと言っていい顔触れだった。
この二回戦を契機に、CHICO CARLITOは本格的に勢いに乗ったように見える。
「優勝したのにアルバム出してねえってどういうこと?」
「食べきってからおかわりしないとな」
初めに持ち出してきた議題の強力さ(この点において、CHICOを相手に真っ向から言い負かせるMCはなかなか居ない)もさることながら、繰り出されるフレーズ一つ一つがきわめて印象強い。
特に裂固がライミングで連ねたワード「国士無双」をCHICOが拾い、麻雀ネタを繋げた「九蓮宝燈」、そこから「10連コンボ」と踏んだ流れは大いにフロアを沸かせた。
そこから裂固が「~救命ボート」と踏み返したのも十分に上手かったのだが、その時には既に巻き返せる空気ではなくなっていたように思う。
また、CHICOが明らかにノリに乗っており危なげない様子であるのに対し、裂固は心なしかいつもより声が鼻にかかり気味で、どことなく言葉が聞き取りづらかったというのも痛い点だった(これに関しては現地で観覧した友人からも同様の感想を聞いている)。
双方ライミングに関しては素晴らしかったし、改めて振り返ると裂固のアンサーが殊更まずかった印象も少ない。
が、それだけに“場の空気を掌握する”ところに至るまでには、時の運も含めて実に様々な要素が絡んでくる、ということが改めてわかる。
結果は、CHICOの圧倒的勝利となった。
【二回戦第二試合】漢 a.k.a. GAMI vs MOL53
判定後の漢の「綺麗に燃やしてくれたな」という一言が、この試合の様相をこの上なく的確に表現していたように思う。
「高い壁に上りたい」「下馬評も覆す」
一回戦のSKJと立場がひっくり返ったように、まず眼前の存在の大きさを表すMOL53。そこから自らを奮い立たせるかのように、声の熱量と言葉の切れ味がみるみるうちに高まっていく。
一方で漢は、まるでその高まりに反比例していくかのように、まったく別の方向へとモードを変化させていくのが見て取れた。
「一番やべえラップをステージでかます/それがお前のやるべき事」
そんな漢の言葉は、どちらかというと“バトル”とはまた異なる趣を感じるものだった。あえて野暮ったく言うとすれば“エール”だ。
そして、それに応じるMOL53は、なおも攻撃の手を緩めようとしない。
「こいつが本当のKing“だった”」
「過去の話だ、俺“ING”/だから握るぜMIC」
それどころかいっそう隙の無い、鮮やかなキラーフレーズを決めてみせる。そうする事こそが、この漢に対するアンサーとなっているようにも見えた。
この二人は、当たるべくして当たったのではないだろうか。ここで漢という壁を完膚なきまでにぶち抜くという過程を、どこかでMOL53本人も必要としていたのではないだろうか。
……などという想像をつい巡らせてしまう。それくらい、単純な勝ち負けだけで語れない空気があった。所謂ベストバウトなのかと言うと微妙に違う気もするのだが、思わぬ感動がもたらされた試合だった。
【二回戦第三試合】呂布カルマ vs だーひー
おそらく観客の多くがそうであっただろうと思うが、この時点で私のだーひーへの期待感は相当高まっていた。
繰り返しになるが、我々オーディエンスは雑草魂を感じるような泥臭いストーリーが大好きだ。そして、予定調和を打破するニュースターの存在というのを常に求めている。
この試合のだーひーは、そんな我儘な生き物である我々の期待にしっかりと応え、さらに大きく盛り上げる、見事な戦いぶりを見せてくれた。
まず最初に盛り上がったのは、呂布カルマがこれまで獲得してきたビートを一度も楽曲に使用していないことに言及し「ビート捨てちゃったんじゃね?」と軽快に煽ってみせた時だ。
呂布カルマの返し「捨てたなんて一度も俺、口に出してない/(中略)腐った匂いがした頃にBOMB落とすからよく見てろ」も不味くはなかったが、このとき既に情勢はだーひーに傾いていた印象がある。
それから、呂布カルマの“俺はダークヒーローでダーヒー”に対するアンサーとしてだーひーは「今夜ここにいる全国全員“男子の光”で“だーひー”」と観客たちと熱く結束してみせ、一層フロアを沸かせる。(男子でない人間からすると少々気が削がれる場面だったが)
さらにそこから、呂布カルマがあの『FSL』を代表して出ているという事実について「FSL?なんだよそれ/殴り合いじゃねぇ/ラップは言葉の暴力でもねぇ/誰かを救うため」と、力強いフレーズでもって批判してみせた。
多くの出場者が各大会の文脈を背負って出て来ている分、この指摘がなされたのは大きかったことだろう。
この試合に関してはほぼだーひーの完勝といった印象。終盤に「王の中の王を獲った宮崎の偉大な先輩二人にRest in peace」と突然GADOROとMOL53を眠りにつかせてしまい「R.I.Pじゃねえ!リスペクト!」と後から律儀に訂正した流れすら、些末に思えるほど圧倒的だった。
「もしかしたら決勝に行くのは……」と、このあたりで思ってしまっていかもしれない。
【二回戦第四試合】NAIKA MC vs Authority
感想をまとめるのが難しい内容だった。現場もそうだったからこそ、この結果になったのかもしれない。
二人がそれぞれ持ち前のスキルを発揮させて戦えていた分、彼らの言葉を聴いている側としても「何を美点とし何を“勝ち”と判断するのか」という、根本的な価値観について思考させられながら観ていた。
NAIKA MCは一回戦と変わらず立て板に水といった様子で、喋りの上手さと冴え渡るワードセンスで常にフロアを楽しませながら、相手を程よくイジり、自分の劇場の中に巻き込もうとする。
そして一方のAuthorityも、やはり対話をごく自然な流れで、語感なども駆使しながら韻へと繋げていくのが上手い。聴いていると謎が解けていくような面白さと気持ち良さがある。
そんなAuthorityの戦いぶりを見て「まるでAI」とイジるNAIKAに対し「AIじゃない、俺は持ってるヒューマニズム/俺はバトルをブームじゃなく文化にする」とライミングする流れにはひときわ唸ってしまった。
個人的に、一本目のNAIKA MCのパフォーマンス力は勝ちに値するのでは……と感じていたが、結果としては延長。“狩人のあずさ2号”等ところどころ古すぎたせいだろうか。もしくは、この芸達者な二人のやり取りをもっと見たい、そしてもっと決定的な瞬間を見届けてから判断したいという、観ている側の欲目みたいなものもあったのかもしれない。
その後、Authorityは試合が長引いていく中でさらに覚醒していき勢いを増したが、一方のNAIKAは自己申告の通り“スタミナ切れ”となってしまい、その調子を崩していった。それが決定的な敗因となり、最終的にはAuthorityが勝ち上がる結果となった。
……が、やはり勝っても負けても、そのステージは心に残るものだった。
試合を観ている人々はもちろんのこと、緊迫した勝負のさ中にいる対戦相手のAuthorityすら、最後には笑顔にしてしまったNAIKA MC。
あの瞬間は、NAIKA MCがヘッズたちに愛され支持される理由を端的に表した、この日のハイライトの一つだったように思う。
【準決勝第一試合】CHICO CARLITO vs MOL53
もしこの大会のベストバウトを一つだけ挙げるとしたら、迷いなくこの試合を選ぶと思う。
実力もキャリアも十二分の二人が、言葉の力とむき出しの熱意を持ってぶつかり合い、右肩上がりに白熱していく、素晴らしい試合だった。
まず前半、MOL53が“仲間の意志も背負って勝ち上がる”という一貫した姿勢を示したのに対し、CHICO CARLITOが「晋平太、力貸せよ」と叫んだのには思わずグッときてしまった。
(念のため補足。本来この大会には昨年の『KOK vs 真ADRENALINE』優勝者である晋平太が出場するはずだったが療養中のため欠場。代わりに同大会準優勝者のCHICO CARLITOが繰り上げ選出された、という経緯がある。参考:『KING OF KINGS』公式YouTube)
一方は、得意のライミングと最高潮のバイブスでぶつかっていくCHICO。また一方は、漢との試合を経てさらに鬼気迫るような強さを発揮するMOL53。どちらもギアが上がりっぱなしの状態にある事が伝わってきて、一瞬も目を離すことができない。
やがてその掛け合いがピークに到達し、勝負を決するに至ったのが、MOL53のラストバースだった。
「言ってやるぜR.I.P/最後お前の墓石/に添えてやるゴールデンのM.I.C」
「誰が敵でも相手じゃない/自分を信じ抜いた奴に、敵は居ない」
明確に届けるべき言葉を持っている時のMOL53の声は、そこらを稲妻が走っていくような響き方をする。
初めてそれを体感したのは、当人がネット炎上の渦中にいながら優勝を遂げた『SPOTLIGHT 2022 大阪編』の最終戦を観た時だった。
およそMCバトルというものを一定程度まともに、真面目に享受してきている観客なら、多分あの声を無視することはできない。言葉が有する力というものを、かぎりなく真正面から受け止めざるを得なくなる。
もっとも響かせるべきフレーズを、もっとも強力な形で届けられること。それが出来るMCには、それこそ「敵は居ない」のだろう、と思った。
【準決勝第二試合】だーひー vs Authority
観ていて、だーひーが少し恐ろしくなってしまった。というのも大前提、会場の空気がだーひー寄りに傾きつつあることは見て取れていたが、それでいて本人の試合運びがとにかく堅実そのものだったからである。
なんならこの時の情勢についても、全て織り込み済といった風情だった。初出場でこれだけ冷静に戦えるとは、本当に聡明な若者だな……と驚嘆しきりだった。
(実際、事前に各MCの傾向と対策について緻密に分析した上で試合に挑んでいた事を本人のnoteやSNSから知ったのは、大会終了後のことだった)
そうは言ってもAuthorityも同じくここまで勝ち上がってきた流れと勢いがあったし、吐かれる言葉やライミングにも、客席に十分響かせられるほどのインパクトはあったと思う。
……が、それだけに、かえってだーひーの刺し所が的確な対話力、言葉を翻して返すアンサーの上手さ、キラーフレーズの落とし方といった隙の無さが、対比的に際立つ形になってしまったような印象がある。
歓声の量も、明らかにだーひーの方が優勢だった。
「Authority、これまでの主人公/2024年/俺が作る、これからのシーンを」。
このだーひーのバースが、あまりにも綺麗に響き渡った試合だった。
【決勝】MOL53 vs だーひー
私個人としては、基本的に一つの議題によるシンプルな論戦が大部分を占める試合はあまり好かない。特にこちら側からその正否を推測しようもなく、水掛け論にも聞こえてしまうような話題なら尚更だ。
なんなら途中でブチ壊して有耶無耶にしてでも早めに終わらせてほしい気持ちまである。
一般的には“それはそれでアリ”というものなのだろうが、そういう試合の多くはたいてい巧い言い回しで反論した方や、とにかく相手を言い負かした方が勝者に選ばれる。観ている自分がどれだけ勝者側の論理に納得いかなくとも、そうなる。
その結果、本当にただの口論を居心地悪く眺めているような気分になってきて、何なんだこれはと興が醒める。そんな体験が幾度かあったからだ。
そういう意味では、この決勝戦は先のCHICO CARLITO vs MOL53などに比べると、正直あまり好ましい試合ではなかった。
とはいえ、決勝までの激戦を見事に勝ち上がってきたのがこのだーひーとMOL53という同郷の二人であった以上、なるべくしてこうなったのだろうと思う。
MOL53が「俺の作った道の上で宮崎レペゼンとか抜かすなクソガキ」「お前が0から1を作った所を一回も見たことねぇ」と相手のスタンスを否定するところから試合は始まった。
だーひーはそれに対して「先輩が作ってくれた線路の上で俺は俺の電車を作ってる所だぜ/線路は一つだけじゃねぇ」と返す。
そしてMOL53「俺が宮崎の街を見てねえと思うのか/お前、夜の街で見たことねぇわ/俺らのクラブに顔出してみろ」と返し、
だーひーが「俺がラップ始めた時から/あんたは宮崎から引っ越してどっか行ったじゃねえか/地元帰ってきたら、俺この間クラブ居ただろ」と返す。
この後のMOL53の「俺はYANACKがライブしてる頃からクラブに通ってた」というアンサーから、対話にズレが生じてしまう。その後も互いのスタンスに関するやり取りはあったものの、双方の言い分がしっかりと噛み合うことは最後までなかった。
個人的な感想としては、このMOL53のアンサーにズレが生じて以降、どちらに対しても明確に“勝ち”と思えるほど抜きん出た評価点を見出せなくなった、というのが正直なところである。
繰り返しになるが、必ずしも理路が通っていれば勝つというわけではない、論理的整合性はあくまで評価の一要素にすぎない、というのが自分なりに観てきた上でのMCバトル観である。よって、この勝敗のゆくえについても、どちらとも言えない気持ちのまま見守っていた。
結果として観客判定はだーひー、審査員判定はMOL53(3人が“MOL53”判定、FORKのみ“延長”判定)と判定がはっきり二分する形になり、MOL53の勝利が決定した。
ひとまず、観客の判定がだーひーに寄った理由はよくわかる。
MOL53が投げ掛けたdisに対して自分なりの言葉で返していたし、そこから巧くライミングにも繋げていた。ことさらまずい部分もなかった。無意味な想像ではあるが、もし自分自身が現場で観ていたら、同じくだーひーに挙げていた可能性は大いにあると思った。
ただ、その一方で審査員の判定がMOL53に寄っていた理由も、何となくわかるような気がした。
この試合、特にその後半のやり取りの中でMOL53が伝えようとしていたのは「お前は現場を支える屋台骨的な存在になれているのか?」という事だったのではないかと、私は考えていた。
それを意味していたのが「KOKの宮崎予選でバーカン前のOGが頭振ってたか」「ヘッズは騙せねぇ」の部分だったのではないかと思う。OG=長年現場を見つめてきた人間が、見極めるところは何処か。少なくとも日、一日で語れるような部分ではないはずだろう。“頭振ってたか”はあくまでものの例えだ。
それに対するだーひーのアンサーは「俺のライブでヘッズが上がってなかった?あんたが上がってたって証明しただろ/観てくれたんだろ?」だった。しかし先の解釈で考えると、そのライブの場でMOL53が上がっていたという話はあまり関係がなくなってくる。(地元でバトルに出てる直系の後輩がライブをしていたら、そりゃ見守るし盛り上げるだろう)
……とはいえ、いずれにせよ受け手側からすれば判断つかない話題には変わりないので“だからMOL53は間違ってない”と言いたいわけではない。
だーひーにも地元で仲間たちと作り上げてきた現場のシーンというものが確かにあるのだろう。ただMOL53からすれば“だーひーが作り上げたシーンが宮崎にある”ようには見えなかったのだろう。という整理である。
そして審査員側に居るプレイヤー達が、どちらかといえばやはりMOL53の目線の方をよりよく理解し、共感してしまうであろう事も、そう考えるとわかる気がしてくるのだ。シーンを作り、支えるという活動において、国内トップクラスの顔触れが揃っているからこそ。
また、私はこの大会を通して観ながら……というかなんならこの約一年ほどの間に、MOL53のスタンスとその変化について考えることが何度かあった。
そのきっかけとして、最も強く記憶に残っているのは『MCバトル「MATSURI」』でのMOL53の姿だ。
トラブルが重なり暴力沙汰も発生していた惨状の中、SIMON JAPの暴走をかいくぐりMOL53は「他でやってくれ俺はラップがしてぇんだ」「絶対無駄にしねえ」と力強く宣言した。
私は初めてあの試合を観た時から、あの言葉には心なしかあの場だけでなく、より大局を見つめるプレイヤーとしての意志が含まれているように思えてならなかった。
事実、それくらい2023年のMOL53というのは、バトルのシーン(の中心部)における実質的な支えと言える存在であったし、またMOL53自身がその役割を主体的に担っているようにも思える場面が、度々あったのだ。
(これは一年通して様々な大会を観ていた人ほど共感してもらえるところではないかと思っている。違ったらすまんが)
そして、これに関して決定的な事実を示す場面が今回の『KOK』の終盤にあったのは、大会を観ていた全員が知るところであると思う。
ERONEからのあの問い掛けに、MOL53は曖昧ながら頷いていた。
結局何が言いたかったのかというと、だーひーはこの『KOK』をその実力で勝ち進み、大会の主人公的な活躍をみせた。そしてMOL53は、ここに至るまでの歩みの中でこのバトルシーンを支え、牽引する存在となった。
あのバトル上の対話を踏まえた上で、後者をより高く評価したならば、それは“プロップス勝ち”とみなされるだろうか。
私としては、そこに疑問符が付く。そのため、審査員側の判定も否定しきれないし、なんなら勝手に“わかる”などと思ってしまったのだ。
(もちろん色々な意見があるだろう。結局のところ厳格な審査基準というものがない以上、そうあって然るべきだ)
何はともあれ2023年度、王者の座を手にしたのはMOL53となった。RAWAXXX名義で出場した2019年大会から4年ぶり、2度目の優勝である。
おわりに
バトルの勝敗や内容についてここまで真剣に書き綴るのは初めてだったせいか、非常に苦戦することになった。途中でもう引っ込みもつかなくなり、結果こんなにも話題の鮮度が落ちきったタイミングで長い長い記事を公開することになってしまった。自分の行動の遅さをひたすら呪っている。
前年のKOKはたしか視聴期間終了後しばらくしてからの再配信があったと思うが、なんとか良いタイミングでやってくれないだろうか……と都合が良すぎることを願いながら書いていた。見事に叶わなかったが。
なお基本的にバースや自分の感想は配信を観ながら残したメモを基に書いているのですが、一部バースの時系列やニュアンスについてハハノシキュウさんが執筆したKAI-YOU Premiumの記事を参考にさせていただいております。
(各試合に関する意見の方向性が被っている部分も結構あるのですが、それは偶然です。念のため……。ハハノシキュウさんの記事はいつもとても面白いので大変おすすめです。)
今回はところどころで勝敗に関して自分なりの考えを述べてはおりますが、個人の目線と意見として薄目で楽しんでいただけたら幸いです。
ここまで読んで下さった皆様、ありがとうございました。長くて疲れましたよね。ありがとうございました……。