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アコースティックギターをオーダーメイドする。

ヤイリギターにてギターのオーダーをする。

 2023年9月の、2度目になるヤイリギター工場訪問をもってギターをオーダーする事が出来た。 
先ず、このギター注文までのあらましを書くことにしよう。

これまで、30年近く側にいてくれたアコギが1本あった。
廉価なモデルだったが、表板も程よく赤味を帯びて共に歳を重ねたなと思える物であった。車でも数年すれば乗り換えたし、服も綻べば取り替える。 30年、短くは無い時間。。。 それでも、中国から戻る際にお別れをして帰ってきた。


2018年頃、 常州でのギター事情

 中国の生活でも側に置いていたギター、部屋にあるというだけで空間に落ち着きがあった。あまり弾きもせず、インテリアの一部と化して自然にそこにいた。

 再び、ギターを手に取りうまく弾けるようになりたいと思ったのは2018年頃だったか。 仕事は己と向き合い日々研鑽する自負があったが、環境が大きく変化しない限り仕事も生活も一定のルーティンを辿る。

 ふと、年齢を重ねた割に、趣味が熟成を重ねていないことに気づく。
日々、監視や先回りを受けているようなネタバレ感濃厚な中国生活に置いて、創作的な発想や意欲は廃れていくばかりで、料理以外にほとんど創作活動をせずに歳をとり続けている。
ギターに関しては、仕事で中国に渡る前の1年間程、北海道で師を見つけ手ほどきを受けていたのだが、飲食業の仕事柄?酒にかまけたり熱心に練習を重ねずにいた
のでは無いだろうか。中国行きが決まり、そのままギターも側にあるだけの存在に…
 
一念発起して、中国でもギター好きな仲間を探そうと考え、練習する場を探すことにする。住んでいたマンションから自分の店までの通勤ルートに気になる場所があり、そこにギターを持って遊びに行く。子供向けの音楽スタジオがある楽器店。外からはたくさん並んだギターが目を引いた。
そこの青年スタッフが、押尾コータローの ” 家路 ” という曲の触りを弾いてくれた。通うつもりでそこのシステムを聞こうとしたが、『普段、子供達の相手ばかりで、あなたに指導するのは緊張する』と言われ。話はそこまで。
まぁ、いい歳のおっさん、しかも中文での音楽用語がさっぱり通じない相手、無理強いはできない。チャットでたまにメッセージ交換する仲になったきり(一度、気になる曲のTAB譜を貰ったことがある)。

 その頃、世の中(特に中国)の小売業は、テナントを借り在庫を抱える実装店舗での営業より、店舗を持たないネット通販や転売屋への動きが急激に強くなっていた。
 人は出歩いて、店舗で商品を手に取り購入する行為を放棄し、評価コメントや販売数を見てスマホ注文の時代。中国はどんな安価なもの一点ですら基本送料無しが多く、受け取りに関してもマンションや小区ごとに設置された電子制御の受け取りロッカーが早期導入と普及を果たしていて便利の極致。

 スマホで配送商品の配達員のリアルタイムな位置を確認し、到着通知があれば24時間無料保管してくれる(時間超過で50円ぐらい)ロッカーから通知のQRコードをかざして取り出すだけ。 そんな便利な社会があっという間に構築された中国では上がる家賃を堪えてまで、店を持つ人は減っていく状態にあった。
 
 生活にゆとりを持った人たちの店舗が増えていった時期。若い世代が趣味的な店を持ち始めたのかもしれない。それまで、一辺倒な雰囲気の商売、フランチャイズ加盟の麺屋さん、食堂、串焼き屋、などなど、確実に儲かるような現実味のある商売から、看板を揃えた真似事商売を卒業して、それぞれのジャンルのノウハウを継承しながらも私的なブランド、自分の看板をあげてのオシャレな店が増えていたように思う。商売っけよりも個性とゆとりを感じる商売。中国もゆとり世代の到来である。生活と戦う層は、店を持たず、ネット店舗で注文を受けて入金されたら、商品の配送を手配するだけの商売、資金なしで皆が経営にチャレンジする。そういう時代背景のコロナ前。

 話をギターに戻していこう。何度も書くが、実装店舗の商売がシフトする方向にあるとき、急にギターショップが街中にどんどん増え始めていた。それまで楽器店という商売はほとんど見かける物ではなかったのだが、ここに来て?

一つは子供の習い事の多様化があるかも知れない。日本と同じで子供の塾の発展も凄まじい。 もう一つは、ギター製造ノウハウの伝達普及による多くのルシアーの成長と、知識を持った取扱商人の増加だろう。青島にはアメリカのエピフォン、杭州には日本のヤマハの工場、と言ったように外資企業が進出することでそこに技術が受け継がれ、吸収されていく。
 そこからノウハウのフォーマットが出来上がると、速攻で拡散普及し、速攻で流行淘汰をもたらす。中国はこの繰り返し。日本食も過剰な勢いで増殖し、地方の外国人を見かけない街でも必ず見かけるほどだし。それぞれ、道を分けて時間と思い入れを持つ人がその生業を守れればいいのだが、そんな呑気は通用しない。
 誰も彼もが同じやり方を学び、挑戦し、淘汰すれば、数年後みんなが商売替えして、みんなが又新しいことに挑戦している。昔の子供サッカー。ボールのあるとこにみんなが集まってしまう社会。

 なんやかんやで増えたギターショップ。野菜の市場ほどではないが、15〜20分移動すれば必ず一軒ぐらいあるのでは?ってレベル。 知らない国産(中国)ブランドあるいは個人制作もののようなギターが、多様な材の違い、デザイン、サイズを揃えて並べている。嬉しくなり、フラッと覗いても、左利きモデルには遭遇しない。
 選択肢広がる世の中を横目に、また自分の左ギターを弾き始める。。。


コロナ禍に ギター愛を育む。

 2020年初頭、春節にコロナ問題発生、従業員放出、一人きりの仕事を始め、自分の料理店はその日その日、感染状況や、対策通知を見ながらの臨機応変営業。
ロックダウンにはならなかったがやや閉鎖的な日常の始まり。
それまで、年2回は大型連休を作り、一つは中国国内旅行、一つは日本帰省兼旅行としていたが、2019年の2月春節から2023年5月の廃業帰国まで4年間まるまる常州の街に籠っていた。検査を受け、移動することは可能であっが、全く先が見えず一人仕事で、足止めを喰らうと何もできなくなるからだ。

 遠く離れた地での一層の孤独、生活、仕事に降りかかる問題の山。。。。そんな困難な時期を支えたのがギターである。 コロナより少し前に取り組み始めたフィンガーピッキング練習、問題発生で不定期に訪れる自由時間、それは趣味の時間というよりは心を整える時間になっていた。
 鬱屈としてくる気分をほぐしてくれるし、集中している時間には考え事からの解放にもなった。 問題に凹む自分を整え、精神をリセットしてまた仕事に向かうテンションを作ってくれたのだ。年をとっても、昨日までできなかった事が練習によって可能になっていく成長感も嬉しい。 毎日毎日、弾いた。

 やっと少しは良いギターを持つ資格が備わったような気がした。そんな基準があるわけではないが、齢 50を前にして自分のギター愛が盛り上がってきた。中国でかけていた年金がつっかえされたので、そいつで旅して、仕事納めの記念としようと思った。 
 ギターを友と呼べる今こそ、日本で良質な左ギターをオーダーしよう。


ヤイリギターにて

 レフトハンドモデルは選択肢が圧倒的に少ない。なので、作ってもらうことにする。ヤイリギターではセレクトオーダーというスタイルで揃えているパーツを選んでのカスタムオーダーにも対応している。

 K.Yairi  WY-1  というモデルのエレアコ 
シダー材の縦目が綺麗。 

 上の写真は、ヤイリギターの定番ラインナップには左モデルは無く、試奏室に唯一あったのはこのモデル。左向きということだけでなくカッタウェイ有り、フィンガーピッキング演奏に向いたオートリアム型、条件的には悪くなかったのだが、この1本に関しては、フィンガーボードの1弦6弦サイド、エッジが丸みを帯びていて、私には弦こぼれしやすく弾きにくいという印象。ロック弾きでネックを握り込んでコード弾きするには良さげだが。

 試奏室にあるギターをあれこれ触って材の違いやモデルの印象を確かめた後、オーダーの相談に入る。ヤイリ訪問前に、自分の欲する条件をいくつか用意していて
、それ以外の自分がわからない部分の質問を、担当の方が根気強く聞いてくれた。

 私が決めていたのは、型は” ドレッドノート ”というフォークギター定番のずんぐりした形、材は、表面板にスプルース単板、背面板にローズウッド単板、の贅沢に見えないけど良質なギターというテーマ。 どれも、フォークギターど真ん中な条件。
 この条件は、弾き語り向き。音のバランスが低音と高音にあり、中音域にある人間の声とバッティングしないという。 そして、フィンガーピッキングで旋律を際立たせるなら中高音域の出るオートリアム型 (上述、WY-1 のようなタイプ) が良いとされている。

 廉価物とはいえ、30年持っていたフルサイズのドレッドノートの ”ドーン”という低音感から離れ難い。ドレッドノートにカッタウェイ(高音を弾きやすくするためのボディの窪み)、それまで自分はかっこ悪いと思っていたタイプだが、最終判断がここに辿り着いた。

 条件的に、Alvarez.Yairi (アルバレズ)という、アメリカ向けに制作しているタイプも勧められたが、
天使のヘッドインレイをつけた LO タイプの選択、材料条件から LO-120、部分アレンジのオーダーが加わり、
” LO-120 のカスタム” / レフトハンドモデル というオーダーになる。

表面板 シトカ スプルース

 ギターショップでの、オーダーも受け付けているようだが、オーダーメイドするなら、やはり現地訪問が良いかと。

 現地訪問の一番のポイントは材を選ばせてもらえることかと思う。
良質な材を、相当ストックしているようだし、杢(モク)好きな人には選択肢が広そうだ。 自分の場合は、あっさりと表、背の材を見繕ってもらった中から、それぞれ3択で選ばせてもらった。

 はっきり言って、素人目にはその材がどのように仕上がるかを予測することは至難の業。見れるのは、年輪線のラインの素直さやクセぐらいだろうか。

 色合いは、こうして見た時と仕上がりとの差が大きくて、ざっくりとフィーリングで選ぶしかない。乾燥した木材だが、まだある程度の厚みを持っていて、重さもある。 板の叩き方を教わり、コツコツとノックしてみるがやはり仕上がりの音をそうそうイメージできるものではない。

 最初、たったの3択?と思ったが充分である。1種の同じ材なのに三者三様。
本当に同じ種類の木材ですか?と尋ねてしまう。その3つから何か気になるところ、希望があれば追加で見せて貰えば良いのではないだろうか。

 私は、表面板のスプルースを目の詰まった線の素直なところで選び、
    背面板のローズウッドを濃淡がワイルドに見える柄で選んだ。
あとは、完成するまでわからない。毎日触れる、職人だけが予測し得る世界か。

 結果はどうあれ、自分が選んだという事実が特別な価値を生んでくれるように思えるし、完成したギターとの絆を深めてくれるに違いない。

背面板 インディアン ローズウッド


 左モデルは通常価格 +10%、 カッタウェイ加工 +10%
ネックの削り出し、オリジナルポジションマーク、など他条件も加えてオーダーし、最終的見積もりは、後日メール送付で受け取ることになる。

オーダーから完成納品まで、約6ヶ月、
制作工程一つ一つの間に時間をとり、ゆっくりと質の安定を高めるのだとか。

一点モノ、ちょっとした個性を上乗せしたく、指板ポジションマークのインレイを自分でデザインして制作してもらった。 そちらは別記事にて。


LO-120 custom/ L 朝陽を受けて


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