4M D-RAMの木

インターネット黎明のころ、パソコン通信のBBSへの書き込みした方からその当時どんな雰囲気だったかを聞きます

free(248/585) 93/09/24 02:14 それって
>P.S.最近、基板上のトランジスタとかコンデンサがとれる夢を見る....
っていうのは、木にトランジスタとかコンデンサがいっぱいなってて収穫できる夢なんでしょうか?
うーん、4MD-RAMの木とかがあったら1年位は裕福に暮らせるかもしれない。

1993/9 BBSの書き込み より

 1993年ごろ主流だったメモリ、4M D-RAMが9個実装された4Mx9 SIMMモジュールは159USDしていたようです。SIMMモジュール価格を9で割ると4M D-RAMのチップひとつあたり17USDくらい。当時のパソコンのメモリ増設といえば共通規格になっておらず、専用のボード等でしかできなかったようです。生産される数の少なさもあって、現在よりもっと高価な印象があったのかもしれません。

 1993年ごろのメモリは4Mbit D-RAMが主流で、FPM (Fast Page Mode)のものが良く使われていたように思います。現在主流となっているDDR SD-RAM (Double-Data-Rate Synchronous D-RAM)などは影も形も無く、Asynchronous DRAMいわゆる非同期のD-RAMです。
 D-RAMチップ内回路についてもスタティック・カラム・モード (static column mode)ニブル・モード (nibble mode)など特徴のあるメモリアクセス方法があり、なるべく速度を向上させようと色々工夫されていたような気がします。このような仕組みやアクセスタイミングの違いから、現在よりずっとメモリチップの特性だけでなく相性について気を付けないといけない状態です。パソコンのメモリを増設したいという時は、現代のような仕様の統一されたRAMモジュールを店頭で買うのではなく、パソコン該当機種の専用ボードとして販売されている、かなり高価な拡張RAMボードを購入しなければならないような状況です。

 4M D-RAMの木なんて書かれた理由を確認すると、当時、突然半導体が入手できなくなりつつあることが背景にありました。

 書き込みの2ヶ月ほど前の1993年7月、エポキシ樹脂プラントで爆発事故が発生します。プラントは半導体封止材として使われる特殊エポキシ樹脂の世界シェア6割を製造しており、この樹脂がなければどのチップ製造会社もチップを封止して出荷できません。世界シェアの大部分を担っているプラントの事故により、世界の半導体メーカーはパニックに陥ります。半導体メーカーは樹脂の確保のために、プラント会社は代替手段の確保や設備の復旧のために、それぞれ全力を注いで対策に追われます。

 事故のおよぼす影響が多くの人に知れ渡るにつれ、半導体の価格は徐々に高騰、入手するのが難しい状況になっていきます。半導体が調達したくても手に入らない、そんな絶望的な状況は書き込みのもう少し後にやってくることになります。それから半導体の供給がもとのように回復するまでには、かなりの時間が必要となります。

 この書き込みはそのような影響が少し見え始めたころ、メモリチップが木に生えてきて入手できるようなら裕福になれそうという書き込みです。

BBS書き込みした方による現在のコメント

 D-RAMの価格は半導体のプロセスルール縮小により時とともにかなり下がっていきます。1993年に比較すると容量あたりのコストはおよそ4桁に届くかもといったところで、木に生えるような形での形態での収穫を続けるものだと早々に木が邪魔になっている可能性さえあります。

Memory Prices Decreasing with Time https://jcmit.net/mem2015.htm より

 お菓子の生える木とかは夢のあるもので、時とともに価値が激減するといったことはあまりありませんが、半導体や電子部品となると文字通り桁違いにコストが変化するものなので、あまり夢のないものになってしまうようです。

用語

・高速ページモード / FPM / Fast Page Mode
 D-RAM内のページを指定した後、信号線の制御によりページ内データを高速でアクセスできるようにした機能。スタティック・カラム・モードに/CASによるアドレス・ラッチ機能をもたせたもの。
参照:https://www.cqpub.co.jp/term/fastpagemode.htm

・スタティック・カラム・モード / static column mode
 D-RAM内の1ページ分のデータをチップ内蔵のS-RAMに読み込むことで、ページ内データを高速でアクセスできるようにした機能。
参照:https://www.cqpub.co.jp/term/staticcolumnmode.htm

・ニブル・モード / nibble mode
  D-RAM内に4ビット分のラッチを用意しておき、アクセスがあった場合にラッチにデータを入れておき、信号線制御によって4ビット分をアドレスの指定をせず高速にアクセスできるようにした機能。
参照:https://www.cqpub.co.jp/term/nibblemode.htm

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