1.隣国から異国へ飛ぶ
2017年8月10日、東京、羽田空港。少し暗い照明の出発ロビーは夏休みシーズンにも関わらず、閑散としていた。
私は初めて1人で中東、それもイスラエルという国際政治やスタートアップ企業の記事でしか目にしないような国に旅立とうとしていた。ロビーの椅子で一度腰を落ち着けて航空券を取り出してみる。
「HND→GMP」「ICN→TLV」
仁川空港でトランジットだと思っていた私の心拍数が上がった。よく確認すると羽田から金浦空港に飛んで金浦から仁川まで移動しなければならないらしい。某航空券サイトでイスラエル行の便を取る時に、韓国経由という部分にしか着目していなかったのだ。
初っ端から先が思いやられる凡ミスである。私は韓国にいる友人に確認した。彼女は用があって助けに行けないけど、金浦から仁川へは特急の電車に乗ればすぐだ、ということを教えてもらった。
というわけで私は短いトランジットの時間に韓国に「入国」することとなった。金浦に着くと一直線に鉄道へ乗り込み、車内アナウンスに日本語が混じっているのを聞いて、まだまだホームグラウンドにいるような落ち着きを取り戻した。仁川空港行の特急電車は非常に清潔で、日本と韓国の鉄道が世界車内清潔グランプリで1位と2位を独占するのだろうと思えるほどだった。韓国の鉄道と日本の鉄道の違いは車内に溢れる言語と、匂いがキムチっぽいか醤油っぽいかくらいなんだろう。ぼーと立ち尽くして車内を眺めていると、あっという間に仁川空港へたどり着いた。
ひたすらに広い仁川空港を歩き進めると案外早めに乗り場に着いた。朝から焦ってばかりいた私は、一息つくのに水とドーナッツを買った。韓国のペットボトルは近未来的なデザインがカッコイイ。そして仁川のドーナッツはまだ安心感のあるポンデリングのような食感だった。当然空港内は韓国人をはじめとしたアジア人が多い。しかし、イスラエル行の搭乗口にはイスラエル人と思しき白人系の乗客が目立った。それでもまだ、この飛行機に乗って、12時間経てばイスラエルに着いているのだという実感がわかない。
ずっと憧れていたイスラエルへの期待と不安を胸に私はベングリオン空港行きの大韓航空へ搭乗した。