8.海面下400mで肉体労働
2日連続で虫の羽音で目を覚ます。
目を覚ましてすぐに虫を潰そうとしても見えない。ものすごく近くで羽音を鳴らし続けていたはずなのに見つからないというのは解せない。寝床の小屋の周りを見てみると近くの花に蜂のような虫が大量に群がっているのが遠目でもわかった。きっと羽音はやつらのせいだろう。
寝起きが悪いままトイレへと向かう。トイレのバックには朝焼けに照らされた荒野が目に眩しい。まるで自分が映画スターウォーズに出てくる砂漠の真ん中にいるような気分でうっとりと景色を眺める。
母屋で朝食用のトーストを作って食べるとDrorも起きてきた。今日から労働だ。しっかり汚れていい服装に着替えて、彼の運転する車に乗り込んで仕事場に向かう。今回の滞在中に私が手伝うこととなったのは、住宅のリフォーム作業だ。内装をリフォームする力仕事をするため、なかなかに服が汚れそうとのことだ。
集落を出て一山超えると、そこはまさに異世界だった。緑が全くない荒野は果てしなく続き、舗装された車道を物凄いスピードで飛ばしていくと渓谷や数か所のオアシスを通過する。舗装されているため揺れは少ないが、上下の激しい道だけあって、緩いジェットコースターに乗っている気分を味わえる。やがて大通りのハイウェイに合流すると、べドウィンが作ったキャンプ群を横目に緩やかに下っていき、海抜0mを抜けてヨルダン渓谷にさしかかる。
やがてハイウェイは死海のある平野を走り抜け、ヨルダンとの国境近くで停車する。横道に入り、設置された門を開けると、そこにある住宅が今回の仕事場となっていた。車を降りると辺りは息が詰まるような灼熱だ。Drorの家が標高600mほどのところにあるのに比べて、死海付近のこの仕事場はおよそ海面下400mほど。こんなところで果たして力仕事が出来るのだろうか?
現場となる工事中の家に入ると予想に反してクーラーがよく効いていた。冷蔵庫には冷やした水が大量に入っている。とはいえ、かなり汚いペットボトルに、どこから運ばれているかわからない水道水を直入れしているものだから、最初は少しためらった。しかし、いざ力仕事を始めると、そんなことには構っていられないくらいに喉が渇く。しかも持ち前の不器用さがたかって、なかなか作業が思うように進まない。
普段力仕事どころか運動もろくにしない私は、一日力仕事をしただけで、すっかりへたってしまった。おまけにイスラエルに来てから英語しか話していないので、すっかり疲れた。仕事を終え、帰宅するとシャワーを借りる。
この日私が学んだのは異国の砂漠で力仕事した後のシャワーが一番気持ちいいってことだ。
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