小説づくりの過程、現実世界の魅力
ショートショートnote杯で大賞だった方が、どんなふうに作品を思いついたかについて投稿してくださいました。
オンライン授賞式では、ゲーム会の後で力尽きてすぐに退室。他の方の作品についてお聞きすればよかったなと思っていたから、作品づくりの過程を知れる記事を見つけてすごく嬉しい。
どんなふうに話を作ったか自分も載せてみた。使うのはこの話。
やってみると、他にも書きたいことを思い出したから一緒にメモする。
話づくりの流れ
・お題を選ぶ
コンテストのお題から、話の方向性は見えないけど、なんか気になるワードがある「空飛ぶストレート」を選ぶ。
言葉から「飛行機雲」、「花火が上がる時に尾をひく火」、「直線が多い都会の街並み」が浮かび、このどれかをモチーフにしようと思う。
・キーワードを書き出す
紙に3つのモチーフを書き出す。各モチーフから、連想ゲーム的に思いつくワードを周りにメモする。すぐに手が止まる時は、角度を変えながら自分に質問する。
五感(見た目、音、匂い、感触、味はどんなか)、5W1H(何、いつ、どこ、誰が、なぜ、どのような状況か)、品詞別(思いつく名詞、動詞、副詞、形容詞、擬音語)とか。
そんな感じで、モチーフに対して自分が持っている印象を分解していく。
話を考える前の準備体操みたいなメモだけど、書き連ねた紙は後で使う。初め抱いていた印象に寄り添い強調する話にするのか、それとも初めの印象を裏切る話にするのかって考えたり。
最初「直線が多い都会の街並み」に取り組んだ。ワードを書きながら、つらつらと考える。
田舎は山や川で線がゆるやかな景色だなあ、対して都会のビル街はかっちりした直線が多いな、いっそ樹木とか含めて全てのものがストレートになる現象にしてみようかな、それか逆に直線的で硬いガラスや鉄骨をぐにゃぐにゃにさせるか。あ、空飛ぶって要素を使わないと。空飛ぶ何かが、街の建物や木を真っすぐにする?どういうこと、うーん。
手が止まり「花火が上がる時に尾をひく火」に移る。ワードを書いている間はただ花火に浸っていた。
花火って上がってる時もいいけど、花火が上がる前の緊張感と終わった後空に広がる音の余韻もいいなー、これから冬だけど冷たく張りつめた空気と熱い花火の取り合わせも好きなんだよなー。空飛ぶストレートっていってるから、火の尾が際立つように打ち上げに仕掛けをした方がいいのかなーと。
思いつくワードを書く時、モチーフに対して疑問に思ったこともメモしている。だいたい書き出して気が済んだら、メモした疑問についてネットで検索してみた。
・調べる
検索してみたのは花火の作り方。なんとなく知りたくなった。
すぐに分かったのは、尺玉には星がつまっているということ。
尺玉には、大きく二種類の火薬が入っているそうだ。一つは割り薬。爆発で尺玉を割り、飛び散らせるためのもの。もう一つは、星と呼ばれる鮮やかな色と光を出す火薬。
星は酸化剤や炎色剤を練って、作られる丸い玉だ。斜めに傾けた大きな釜を回して、その中で玉を転がし、材料を加え、玉を大きくしていく。この作業を星掛けといい、釜のことを星掛け器という。
これを知った時テンションが上がった。
昔の職人さんが、花火に使う色鮮やかな火薬を星と名付けた。ネーミングが、素敵すぎる。しかもその呼び方が、広く受け入れられ今でもそう呼ばれ続けている。その事実にもちょっと感動した。
梶井基次郎の、桜の樹の下には死体が埋まっているという話を知った気分と似ている。
桜には浮世離れした綺麗さや、神秘的な雰囲気を感じる時がある。何か特別な理由があるんじゃないかという気がしてくるから、死が桜の独特な美しさをつくっているという話は、論理的じゃなくても、そんなこともあるかもしれないなという気になる。
花火の火薬の呼び方も、同じようにすごい。自分が花火に対して抱いている印象を納得させてくれるようなアイディアだった。
文学作品というわけはないし、誰が名付けたのかも分からないけど。二次創作と思って、このアイディアを元にイメージを広げた。
・大まかなイメージができる
花火の尺玉には星がつまっている。何かすごい秘密を知ったような気分になり、さらに疑問が湧いてくる。
星が花火の原料なら、どうやって星を採るんだろう。星の加工後が花火なら、加工前の星はどんなふうに光るんだろう。その現場を見てみたい。
答えにつながる空想も広がる。
海で魚を採るように、鉱山で宝石を採るように、花火師はきっと空から星を採る。そう思った。
その瞬間から、星は宇宙にある巨大な天体ではなくなる。星は、空の生態系で育つ果物みたいなものなんだという発想になった。
花火の製造は乾燥した冬に始まる。じゃあ星を採りに行くのもきっと冬だ。空気が澄んで星がよく見えるし。星を採るなら空に近く、街灯りが届かない山だろう。
手の届かない所にある星を採るには、何を使うか。山にも持って行きやすく、星に着火できるものがいい。
思い出したのはパーンと乾いた音。子供の時、体育の授業やイベントで見た競技用のピストル。黒くてかっこいい。あれ撃ってみたいと、見るたびに思った。
改造した競技用のピストルから火の尾を引く弾が出て、星に当てることにする。暗闇を飛ぶ火の、真っすぐな残像が頭に焼きついた。これで加工前の星の着火が見られる。
たくさんの星が音を立てて落ちてくるところが見たい。きっとこれが星の収穫になる。ここに辿り着くにはどうすればいいだろう。
頭の中で、打上花火が鳴った。空を揺らして、しばらく空気に溶けず山に反響する音。あの振動なら、星が落っこちそう。
・イメージを明確にする
おおまかな内容ができたけど、文字でつなぎ止めるにはまだ曖昧で、具体的なイメージじゃなかった。例えば星が爆ぜる瞬間って、どんな景色なのだろう。
花火の写真や動画を検索して、ざーっと目を通す。すると自分の印象に合った素材が見つかる。
この火花の散り方が似てる、だけどこんなに華やかじゃない。もっと火花の数は少なくて、光の粒や筋がひとつひとつ際立つ感じ。色はあの花火かな、ただもっと瑞々しい光の質感だと思う。
星から火が飛び散る瞬間の形は彼岸花に近い気がする。でも文章中に彼岸花と書くと、どうしても元のイメージの色が赤く塗り替えられてしまう。色以外でも、彼岸花というモチーフはなんだか存在感が強い。綺麗だけど、つくりたい全体の雰囲気とは別種だったからここは「菊の形」と書こう。
実際の色形や音、動きを見ると、それを素材に架空の景色がはっきりしてくる。そうやって見えてきたシーンの断片を、文字でスケッチしまくる。
・イメージを編集する
スケッチがたまってきたら、つなぎ合わせてまとまった文章にする。
初めは暗闇の中で響く音。まだ何の音かは分からないくらい遠い。音をたどるように山という場所が分かる感じ。切り替わって、人物の目線から自分の手元を見るアングル、ピストルに火薬を詰めるシーン。ピストルを撃ったら、放たれた火をカメラが追いかけていく。星に命中した瞬間は、クローズアップで解像度高く。直後に、これまでのシーンの意味づけを挿入。
というふうに、架空の景色が自分にとって見ごたえが感じられるように、シーンを切り替えたり、アングルを変えたりと、編集する。
字数も410字に収まるようにしていく。
カットしたのは冬の描写。的を外した一発目でかじかんだ手に伝わる発砲の衝撃や、凍った空気にまじる火薬の匂い。破裂音の振動で星と一緒に落ちて砕ける氷柱と、星明かりをわずかに反射させる霜の様子とか。
花火の破裂音が響く時、音が空を押し広げたと思うほど空間としての空を意識させられるから、話の後半にも空の変化を伝える描写があった。尺が長いからカット。最後の一文でさらっとふれて静かに終わる感じに。
「収穫」、「原料」、「鈴なり」、「振り落とす」。この話では、星がどのようなものか、人が星にどう関わるのかが、現実と違う。植物のように空に星が実っているという前提を、なるべく演出できそうな言葉を選ぶ。
あとは時間を置き何度か見直して、違和感あれば直す。完成。
イメージを広げる作業の時、「君に贈る火星の」という別のお題が、よく割り込んできた。
試験管で火花を散らしながら、白い実験室を背景に火星の赤を抽出するシーン。山で星を採っているこの人は、大学生か大学院生な気がしてきた。花火の研究をしていて、部活は射撃部に入っているんじゃないか、とか。
これら、どういう意味?なんか火星は出てきそうだけど、「君に贈る」とどうつながるの、と頭の中でぐるぐるしだしたから、「君に贈る火星の」でも花火を書こうと思っていた。けども後で別のモチーフに夢中になり、違う話になった。
フィクションを作ると、現実にある魅力に気づく
あらためて眺めると、プロットや構成を考えて肉付けする、という作り方ではないなと思った。全体からじゃなく、シーンという部分から入っていく。浮かんだシーンをつぎはぎして、その意味を考え全体ができあがる。
シーンが浮かぶきっかけは、モチーフの中に強く惹かれる要素を発見した時。別のお題の「しゃべるピアノ」、「違法の冷蔵庫」、「君に贈る火星の」でも、このパターンだった。最初は興味がわかないと思ったモチーフでも、分解してピースをとりあえず組み合わせたり、興味が向くままに調べる。そのうち愛着がわいて思考が走り出し、おもしろい要素やつながり方が見つかる。
「空飛ぶストレート」の場合、花火の火薬が星と呼ばれていることが発見だった。
手探りする時間も好きだけど、日常で通り過ぎていた面白いものを発見するとさらに楽しくなる。発見したら、その魅力を強調できるように素材を加工し、保存する。
フィクションでは現実にはできないことをやってみたくなるのだけど、飛躍しようとするほど、実際にある物をよく見たり調べることになる。それでまた、何気ない現実に面白いことが溢れていて感動する。
終わりに
話づくりのプロセス。書いてみたら思った以上に大変だった。文章が整う前の思考を言葉にするって難しいんだなあと。
ここ、整理できているのか、いや伝わらなさそう、と思う部分が相当ある。まあ自分用のメモということでいいかと思うことにする。
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