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NIKEアスリートは、何故いまだに旧モデルをレースデイに履くのか?

□NIKEの旧モデルをいまだにレースで着用するランナーが目立つ


第50回記念大会のベルリンマラソン2024、男子の優勝はメルケサ・メンゲシャ選手が2時間3分台の好タイムで優勝した。

そのとき、彼のユニフォームにはスウッシュ、足元はオレンジ色のNIKE VAPOR FLYがあった。しかし、このシューズ、実は旧モデルのNIKE ZOOM X VAPOR FLY NEXT%2(以下NEXT%2)であったのだ。

彼はアマチュアではない。NIKEのスポンサーを受けて走る、まさにブランドの広告塔、プロランナーである。その彼が何故宣伝してもしょうがない旧モデルを着用しているか?最新モデルを履くのが使命でもあるはずだ。

しかも、これはこの日だけの出来事ではない。最近のレースで、かなり多くのNIKEアスリートが旧モデルを公の場で引き続き履いているのだ。

ブランドが許しているのか、選手のこだわりか、どっちしても最新の商品こそ、最新のテクノロジーであるはず、それを着用しないのは何故か?

□あの選手まで旧モデルを着用する顛末

ちなみに、箱根駅伝2024でも98人/210人のNIKEを着用したランナーの3割強は旧モデルであった。学生の大会ゆえ、自前調達をしている選手はいるはずだが、旧モデルにこだわるのは、むしろサポート受けているであろうトップ層が多い印象なのだ。VAPOR FLY3とほぼ同数がVAPOR FLY NEXT% 2であった。(NEXT%2 30人/ VAPOR 3 31人)

また、PARIS OLYMPIC 代表を決めるアメリカマラソントライアル(予選)では男子優勝のコナー・マンツ選手が履いていたのは、2つ前のALPHA FLY NEXT%(初代)であったし、(彼は本番はALPHA 3)その本番オリンピックではあのエリュード・キプチョゲ選手が、履いていたのは、なんとPARIS OLYMPICのために発売されたELECTRIC(通称サファリカラー)のALPHA FLY NEXT% 2。これは最新モデルALPHA FLY 3ではなくて、前モデルを最新カラー仕様にしたものであった。
 
また、PARIS OLYMPIC 10000mチャンピョンのジョシュア・チェプテゲイ選手も、OLYMPIC後の10マイルレースに登場。そのときの彼の足元は、旧モデルのNEXT% 2でやはりサファリカラーの特別待遇であった。

むしろ生産している?!NIKEも許しているのかと思える場面も多々。こんな調子でトップアスリートがNIKEの最新モデルを履かないのだ。

□対照的にアディダスアスリートは同じEVO 1


ちなみに、ベルリンマラソン女子の優勝者は、ティギスト・ケタマ選手で、この日、彼女が履いていたのは、ADIDAS ADIZERO ADIOS PRO EVO 1(以下:EVO  1と記載)であった。

男子2位に入った同じくサイブリアン・コット選手も同じホワイトアンドブラックスリーストライプのこのシューズ、EVO 1であった。

ADIDASは、このシューズを、WA(世界陸上競技連盟)シューズリストに乗せて、少量ではあるが一般発売をするなどルールに則って運用しているが、むしろ、これは、一般ランナーへの発売が目的のシューズではなくて、明らかにトップ選手に向けたスーパーシューズの中のスーパーシューズである戦略をとっている。

スーパークリティカル(SCF)製法で異次元に発砲させたソールの圧縮プロセスを省略したいわば未完成品ような斬新なアイディアなのだ。通常発売モデルはここから圧縮して成形するのが常識、そうやって形を整え、クッションと安定要素を高めるわけだ。

つまり、完成度より軽量性をとったモデルであると言えよう。選手のことだけ、それもトップのランナーのことだけを考えたモデルというわけだ。

そして、その27.0cmで138gと軽量さを追求した超軽量レースデイシューズは、アディダスアスリートに自然に受け入れられている。アディダスでかつてはあったが、旧モデルを履くようなランナーは見当たらない。

シンプルに最新シューズをトップアスリートが履いてみたい、記録が出せるのでは?と引きつけていることができていると言えっていいだろう。

□NIKE VAPOR FLYは選手のために生まれた


ただ考えてみたら、そもそもNIKE VAPOR FLYこそ、2017年のBREAKING 2(ブレイキング 2)で人類史上初のフルマラソンサブ2を狙ったNIKE主催の記録会のため、限られたトップアスリート向けに作られたシューズであった。

その選ばれた3人ランナーのうちの一人が、あのキプチョゲ選手であった。その後、彼一人の再挑戦のために作れたモデルがNIKE ALPHA FLYで、彼は人類史上初のフルマラソン2時間切りをすることになるなわけだ。

結局、ADIDASのEVO 1が、アスリートを引きつける魅力は、そのときのNIKEに近いのかもしれない。

一般市民ランナーとは別に、ただ、ただ、トップアスリートが満足できるものを提供する、というスタンス。パイオニアであるNIKEがルールを変えて、そして、その勢いはやや落ち着き、NIKEは今過去のNIKEと戦っているのかもしれない。

やはり最新モデルは何か劣る部分があるのか、とにかく、アスリートを引きつけることができていないことは間違いない。

□比較も数値データは変わらない

スレショールドペース(3:30/km)で検証

では、気になるこの辺りを、53歳、マラソン2時間34分がベストの市民ランナーではあるが、着用が目立つNEXT% 2を、VAPOR FLY 3と比べて自分の足で確かめるべく、私のスレショールドペース(3:30/km)で1マイルを4本、2本ずつ履き分けて検証してみた。

VAPOR FLY3→NEXT% 2の順で2本ずつ、 体感としてソフトでリズムがとりやすく履きやすいのはVAPOR 3、推進力があるのはNEXT%2という印象。5分42秒、5分40秒から、同じ努力感で5分35秒、5分37秒と3秒から5秒ほど上がった。

そして一番大きいのは前足部の付近の抑え、フィット感。履いた瞬間はそんなに変わらない印象だが、走ると力が横に逃げる感じのVAPOR 3に対して、Next% 2は細身でアッパーの剛性も高いフィット感という感じ。

もしかすると、長距離選手は絞った痩せ型体型で足型の細身のランナーも少なく、フィット感を重要視して、旧モデルを履いているというランナーは少なくないのかもしれないと思った。結局、フィット感ならNEXT% 2なのであろう。

シューズの機能性を示す指標は、ランメトリックスデータの総合スコアは変わらない。また、STYRDパワーメーターの主要データーも特筆変わらなかった。

比較検証Runmetrix データ

負担の少ない着地に違いがみられるものの、他はほぼ同じ総合スコアもほぼ同じ結果であった。

比較検証STYRDデータ(加速後の1.0K以降のデータで比較)

LOWパワーで、HIGH LSSが評価の基本、多少の違いがあるものの、十分2足ともその状態だと言えるデータだ。変わらない。ただ逆に最新モデルのVAPOR FLY 3が突き抜けて良いスコアでなかったことも事実であろう。

ただN変数が、私の一人のデータの検証であることは加えておきたい。

□最新モデルが着用されていない問題


ちなみに、Instagramなどで、デイリートレーナーのインフィニティランも旧モデルの3世代目を愛用する選手が散見できる。OLYMPICマラソンチャンピョンのS・ハッサン選手もその一人旧モデル愛用者は少なくない。もちろん公式の場面では彼女も4代目を着用している。

本来、契約アスリートが、”ハレの舞台”で着用するモデルは、最新モデル1択であるのは当然で、ブランドの広告塔が最新モデルが着用していない状況は、極めて異常だ。

上で検証したようなフィット感要素、フィーリング要素など選手のこだわりなのか、それともやはりNIKEプロダクトの停滞(プラトー)なのか。

私は正直両方ではないかと感じる。

ここでも以前書いたが、最近のNIKEは元気がない。らしさがない。2017年から市場を独占するパンチの効いたプロダクトを次々に世に送り出してきたあの圧倒的な優位性はない。

とは言え、それは違う言い方をすると、NIKEのプロダクトの停滞ではなくて、他のブランドが機能的にも、技術的にも、そして、アスリートの結果も追いついていることが一番大きいのだろう。

NIKEはスーパーシューズというカテゴリーを作ったパイオニアであるが、もはや、同じか、すでに元祖を超えた性能の他のブランドのモデルも出ていると言っていい。まあ、言わば、NIKEアスリートが最新モデルを履いてないことも、その辺りを感覚的に感じている選手のフラストレーションなのかもしれない。

NIKE創業者のフィリップ・ナイトは、ジョーダンだってそう、キプチョゲだってそう、人にお金を注ぎ込むアスリートファーストの人。そこにしたたかな計算があってしかるべき、だからこそこんな巨大な世界ナンバーワンブランドになったわけだ。

NIKEの逆襲はあるのか、あるか、ないかではなくて、歴史を考えるとそれこそNIKEの使命なはずだ。

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