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ADIDAS(アディダス)の逆襲

□アディダス旋風巻き起こる

10/14に行われた大学3大駅伝の初戦、出雲駅伝では関係者に激震が走った。

それは、選手のシューズ事情。なんと今大会の6区間のうち、ADIDAS着用ランナーが区間賞を5区間で独占したからだ。シェアは年々減っているものの、とは言え、区間賞輩出はNIKEの牙城であった感がある。それが今回でゼロになってしまったわけだ。

しかし、それだけではない。

全21校、126名の全選手のシューズシェアでは、NIKE、ASICS、ADIDASの順でNIKEがトップ、ただ、これを関東の大学箱根駅伝出場の10校だけに絞ってみると、

ADIDAS 33.3%
ASICS 24.6%
NIKE 18.3%

とNIKEはまさかの3番手、しかも4位のプーマとは1足差という衝撃的な結果であった。近年圧倒的な王者に君臨していたNIKEがついにシェア首位陥落、そんな傾向がこの大学駅伝初戦ではついに明らかになったのだ。

今後もこの傾向が続く可能性が高く、これは、まさにADIDASの逆襲と始まった、と言っていいのかもしれない。

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□世界でもアディダスアスリートが圧巻

ちなみに世界では、ここ最近のトラックレース、ロードレースを含めてアディダスの選手の活躍がすでに目立っていて、まさにアディダスの逆襲は始まっている。

10/27のバレンシアマラソン、エチオピアのY・ケデルチャ選手がハーフマラソン57分30秒の脅威的世界最高記録を達成、これは、10Kの通過タイムが27分12秒と1万メートルの日本記録並みの途轍もない記録だ。

ちなみに、彼はかつてNIKE オレゴンプロジェクトの一員だったが、チーム解散後、現在はADIDASアスリートという選手。

また、先のパリオリンピック、男女マラソントップ10のランナーのうち、アディダスのシェアは2番目であったが、その着用者はすべて5位以内であったなど、2017年のBREAKING 2から始まったNIKEのシューズ市場独占は、各ブランドのプロダクトのクオリティーや機能性が上がってくることで、徐々に圧倒的なアドバンテージを作りにくい状況にはなっていた。

特に、創業者のアディ・ダスラー以来、モノ作りが信条のADIDASをNIKEは本気にさせてしまったのかもしれない。

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□ADIDASのEVO 1が世界を圧巻

その象徴的なモデルが、ADIDAS ADIZERO ADIOS PRO EVO 1(アディダスアディゼロアディオスプロエヴォワン 以下:EVO 1と表記)である。

このプロダクトは、500ドル、日本では82500円と高価な価格で、512足の足数限定販売という手法は、我々の度肝を抜いたが、それだけではなくて、このモデルは実際そのスペックでも度肝を抜いた。

EVO1は、一言で言って、厚さ40mm以内というワールドアスレチックスのルール内のスペースの中で、クッション性と極限まで軽量感を追求した挑戦的モデル。27.0cmで138gと、他のブランド見渡しても驚異の超軽量性を実現しているのが大きな特徴なのだ。

ただ軽いだけではない。これは技術力とアイディアがその背景にあるのが面白い。

スーパーシューズではお馴染みになった反発弾性の高い素材PEBA(ペバ)を、素材が液体でも個体でもない超臨界状態で窒素ガスを噴射して発泡させたもので、ガス噴射で作られた気泡の目は細かく、無数にあり、質量を下げることできて、軽量でバウンド耐久性が強い素材を生成できる。

その技術力を背景に、一般的には発砲した後に金型に入れて圧縮成形、商品を完成させる工程を大胆にも排除、非圧縮成形型の軽さを優先させた作りにする、というまさにアイアディアがあったというわけだ。


□EVO1の500ドル、512足は開発費?

2017年来、NIKEの「速く走る発明」に、大きなビハインドを強いられたブランドのひとつで最大のライバルであったADIDASは、トップアスリートというピースが揃って初めて履きこなせるような、つまり、エッジの効いたアスリートだけのモデルを開発する方向に舵を切ったわけだ。

軽量であることは、エネルギーロスを軽減する、これにはエビデンスがある。ただ、これは、一般的には安定要素などサポートと相反する要素であり、簡単に言えば、軽さを優先すれば使える人、ランナーは限られていくという関係だ。

だから超軽量なプロダクトとして画期的、斬新なだけでなく、それに、アスリートの結果がが伴わなければ、ただただ目新しいモデルになってしまう。しかし、結果はすぐに現れた。パリオリンピック2位の、これを履いたアセファ選手がベルリンマラソンで出した当時の女子フルマラソン世界記録、2時間11分台で簡単に証明されてしまう。従来の記録を大幅に破る凄い記録だ。

また、上述のケデルチャ選手も、オリンピックマラソン男子優勝のトラ選手も、もちろん、このシューズを履いていたことを追記しておこう。

製造技術の妙を使った超軽量で魅力的なモデルで、それを着用した選手が次々に結果を出すわけだから、82500円というそのプライスも決して高くないと思うランナーもいるわけだ。

結局、発売された当初の512足、82500円を掛け合わせるとざっと4000万円になる。ワールドアスレチックスのルール上、選手が本番で着用するシューズについては誰でも手に入ることが条件である。

アスリートがシューズを使用する前にシューズリストへの登録はもちろん、オリンピック・世界陸上前には販売もマスト。そのルールが結果、トップエリートランナーのシューズの開発資金を、トップ市民ランナーが支えるような図式になった。


□ADIDASの勢いを感じる新商品投入

トップランナー向けのニーズを満たす圧倒的な軽さのモデルを開発、それをルール通りに一般ランナーにも発売することで、結果、クラウドファンディングをして資金を集めたような形になったEVO 1、むしろ、シューズルールを結果”作った”NIKEには、流石にこの種の発想はなかったのかもしれない。

そして、この話題がホットなうちに、カーボン製のエナジーロッズを搭載しないものの、EVO 1と同じく非圧縮成形のライトストライクプロミッドソールを持つADIDAS ADIZERO EVO  SL(アディダスアディゼロエヴォエスエル)なる新商品が発売された。こちらも大きな話題になっている。

また、トップラインのスーパーシューズ、 ADIDAS ADIZERO ADIOS PRO 4(アディダスアディゼロアディオスプロ4  以下:プロ4と表記)も12月には発売される予定だが、日本では男女大学駅伝での着用選手の足元での露出が始まっている。

プロダクトの話題と結果に勢いがあるタイミングでの新商品発売は、まさにNIKEがスーパーシューズからスーパースパイクまで、ノリに乗っていたときにやってきたパターン。

プロダクトの力とアスリートの結果が見事に発揮されていて、今アディダスにかなり勢いがあることは間違いない。


□NIKEの逆襲はあるのか

恐らくNIKE着用ランナーは、来春の箱根駅伝本番でも大幅に減ることが予想できる。前回40%台であったシェアは、20%台ぐらいまで減ってしまうかもしれない。

それは何故か、NIKEの提案した「速く走る発明」はもはや一般的になり、各ブランドのシューズの技術力から生み出されたシューズは、実際素晴らしいものが多くなったからだ、そう感じる。

ブランドも契約しているアスリートに対して、シューズの機能性を高めて、企業努力を発揮するのはむしろ義務、生き残りをかけてそこは必死なはずだ。

決して、NIKEの商品が悪いわけではない。むしろ、シューズ力で大きな差別化をすることが難しくなったことで、大幅なアドバンテージを作れなくなっただけなのだ。

では、NIKEの逆襲はあるのか?

例えば、シカゴマラソン2024でケニアのR・チェプンゲティッチ選手が、女性で初のサブ10、2時間9分57秒のフルマラソン女子の世界記録を、彼女はNIKEアスリートでNIKE APLPHA FLY 3で達成したことは記憶に新しい。

彼女は、EVO 1を履いたアセファ選手が出したあの世界記録破ったわけで、これでフルマラソンの世界記録は、男女ともNIKEアスリートが出した記録になった。つまりNIKEシューズがその覇権を奪回している。

また、先日のパリオリンピックフルマラソンでは、S・ハッサン選手が、やはり、アルファフライ3を履いて金メダルを獲得したのも忘れてはならない。

結局、NIKEプロダクトの優位性が発揮される場面も引き続き目立ってあることも間違いない。

ただかつてのようにプロダクトに圧倒的なアドバンテージを持たせるのは容易ではない。むしろ、純粋に市場の競争原理が働いている限りは、なかなかNIKEの逆襲は難しいのかもしれない。

もっと言えばかつてのような独占が異常だっただけだ。

NIKEの逆襲があるとしたら、それは彼らもEVO 1のようなアスリートのみが履けるようなトップレーサー、F1(フォーミラーワン)のようなプロダクトを作るときかもしれない。

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