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パリオリピック男女マラソンシューズ事情を語る

男子優勝はT・トラ、女子優勝はS・ハッサン


パリオリンピックが終わった、そして、フィナーレを飾る男女マラソンには色々なドラマがあった。

男子はエチオピアのT・トラ選手が、オレゴン世界選手権に続いての、今回はオリンピックレコードでの優勝となった。日本の赤崎暁選手が自己ベストで6位に入り、東京大会に続いての日本選手入賞となった。とは言え、本番で自己ベストを発揮する彼のピーキングは素晴らしいの一言だ。

写真:NHKテレビ画面より

女子は、この超高速タイム時代に期間中、5000m2本、10000m1本を走り、すでに2つ銅メダルを獲得していたS・ハッサン選手が優勝、見事金メダルとなった。2位は、世界記録保持者T・アセファ選手が僅差で続いた。

そして、男子と同様に日本の鈴木優花選手が6位に入賞、男女ともMGC優勝者が結果的に活躍したことを追記しておこう。

しかし、テレビで見ても分かる相当な激坂コース。勝敗を決める揺さぶりも結果的にそこであったわけが、意外に番狂せがなく、実力者がしっかり結果を出したという印象の大会であった。

一方で3連覇が期待された、生けとしレジェント、E・キプチョゲ選手は残念ながら最近の結果を象徴するDNFに終わり、同じく39位であったK・ベケレ選手も含めて一時代を極めた2人の結果は、新時代幕開けなのかもしれない。

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NIKE vs Adidas、その結果は?


男子優勝のT・トラ選手、3位のB・キプルト選手、 4位のE・カイレス選手、女子2位T・アセファ選手、5位のA・B・シャンクル選手らが履いていたのはAdidas Adizero Adios Pro Evo1。ほとんどの選手が、アウトソールラバーがコンチネンタルラバーに変更された“Evo1 v2“を履いていたようだ。

Adidasはトップ10に男子が3名、女子2名と、しかも、その全員が5位以内と圧巻、上位を独占した。

一方、NIKEは、上位では、女子S・ハッサン選手、男子5位のD・ゲレタのみとやや寂しい結果に見える。反面、男女トップ10、20名の中では、Adidasの5名を凌ぐトップの6名と3割を占めた。

NIKEはトップ10全員がAlpha Fly 3 “Safari Olympic“カラー、エレクトリックパックであった。男子8位になったC・マンツ選手もUSAオリンピックマラソントライアル(選考会)では、Alpha Fly Next%の初代にこだわり着用して優勝したが、本番は例に漏れずAlpha Fly 3を着用して8位入賞した。

その意味では、NIKE vs Adidasは、1勝1敗といったところか。

第3勢力、Asicsはいかに


東京オリンピック3位のB・アブディ選手がMetaSpeed Edge Parisを履いて2位、見事銀メダルを獲得。女子では6、7位の選手が同じくMetaSpeed Edge Parisなど TOP10のうち4名と2割シェア。

NIKE、Adidas、Asicsの3社で65%のシェアとこれは3強といって状況で、ワールドメジャース6大大会などの着用率と同じような結果になった。これは、やはり、実力者がこのオリンピックで堅実に結果を出したことを足元のシューズが物語っているのかもしれない。

メタパリシリーズには、ストライドでスピードを上げるストライド型のランナー向けMetaSpeed Sky Paris、ピッチでスピード上げるピッチ型のランナー向けのMetaSpeed Edge Parisの2種類のラインナップがある中、 3名/4名はEdge Parisを選択。一見、ピッチ気味の走り方のアメリカC・ヤング選手が、唯一Sky Parisを選択したのは面白いトピックかもしれない。

Asicsの選手も全員が例外なく、Celebration Of Sports ”オリンピックカラー”であったことも追記しておこう。


Onの最新技術公開

3位はNew York City Marathon2024、Boston  Marathon2024でも優勝したお馴染みH・オビリ選手、もちろん彼女が履いていたのはOn。

今回最新技術が公開、すでに4月のBoston  Marathonでもオビリ選手が履いていた話題のレースなしのスーパーシューズの全貌が明らかになった。

このシューズ、On Cloud boom Strike LS(Light Spray)は、反発弾性が高いバイオバースの「Helion HF ハイパーフォーム」ミッドソールとスプーン状のSpeedboardがサンドイッチされた構造で4mm Dropのスーパーシューズ。

写真:On ホームページより


今回注目したいのは、シューズのアッパーの生成技術。ランニングシューズのアッパーは、生地を縫うとか、ニットアッパーに代表される編むという作り方が一般的。こららはナントも斬新な発想で、アッパーをスプレイして作るというやり方なのだ。

この技術なら接着剤不要、廃棄物がミニマルになり環境負荷が少ないこと、省人化でコストカットの期待感もあり、尚かつ、アッパーだけなら30gしかないという超軽量感。

環境負荷など持続可能性と、パフォーマンスの進化は両立すべきもの、ノリに乗っているOnというブランドの勢いそのままのプロダクトであると言うべき商品だ。


アスリートファーストなモノ作りで大成功、Adidas


On Cloud boom Strike LSは、シンプルに対Evo 1モデルではないか、と個人的には感じている。少なくとも、今回を含むAdidas Adizero Adios Pro Evo 1を履いたアスリートの各レースでの大活躍が影響を与えたことは間違いない。

軽さが速さに寄与することはエビデンスがあること。ただ、一般的にそれはプロダクトとして構成される場合、機能性をのバランスでしかないことも事実。

つまり、軽ければいいわけではなくて、軽くなることは、機能性を排除すること同義、軽量性を優先させることは、ランナー力との関係性が強くなることに他ならない。330ドルのOn Cloud boom Strike LS、500ドル、82500円のEvo 1を履けば誰でもタイムアップできるとは言えないだろう。

1つ例を挙げれば、27.0cmで138gという超軽量さは、一般的には素材を発泡、圧縮するプロセスの圧縮成形を省いて軽量さを優先させた作り、クッションとしては技術より、素材に頼ったようなもの。つまり、使う人によっては軽さ>クッションが顕著になる可能性があるような、まさにスーパーアスリート用と言っていい。

トップモデルAdizero Adios Pro 3から踏み込んだモノ作りで、一部のスーパーアスリートが履いてはじめて効果を発揮できる、むしろ、Top of Topへのモノ作りを突き進めたことが、現状のAdidasの大きなアドバンテージになったわけだ。

ルール状、販売する義務があり、販売はしているだけ、というイメージだろうか。NIKEが道を開き、Adidasがそれを更に高めているイメージだ。


ブランドの多様化、UAの選手も活躍


新興ブランドはOnだけではなくて、男子の5位と10位の選手が中国ブランドを着用もあり、また、 女子4位に入ったS・ロケディはUA(アンダーアーマー)の市販品のUA Velociti Elite 2を着用して好結果を出したこと、これは特筆できることだ。

写真:NHKテレビ画面より

ロケディは悲願のケニア代表であるが、アメリカアリゾナフラックスタッフを拠点にしたUA  Mission Run Dark Sky Destance(ダークスカイディスタンス)に所属している。

実は、オビリ選手とは、New York City Mrathonで対戦済み。この時も同じような後半勝負の展開でオビリ選手に敗れて3位であった。今回はケニアのチームメイトとして出場するもまたも後塵を浴びてしまったが、メダルにあと一歩の4位は素晴らしい結果と言っていい。

もしかすると、ややX気味の足の出方をする独特な走り方には、Velociti Elite 2のようなプラットフォームが広くて安定するシューズが良かったのかもしれない。この商品の新たな実績を今大会で彼女を作ったと言っていいだろう。

New Balanceアスリートとしての可能性を高めた赤崎選手


自己ベストで6位入賞、日本の赤崎暁選手はTOP10で唯一のNew  Balanceアスリートであった。

トラックでは、400mハードルのS・マクラフリンやH・ボル、200mのG・トーマスのような女子スーパーアスリートの活躍が目立っているが、彼は世界的に見てもロードではNew Balanceアスリートとしてはじめての好成績だと言っていいだろう。

写真:NHKテレビ画面より

彼が当日履いたNew Balance FC SC Elite v4、いわば“赤崎モデル“はエナジーアークというスプーンプレートが蹴り出しの応援と、同時にミッドソールとの共同作業での横たわみ形状にもなっていて、それを利用した反発弾性を高めたモデルであることが特徴。

そして、今回は、シリーズ初、反発弾性の高い素材PABA(ポリエテールブロックアミド)ベースで構成されたミッドソールを持つモデルで、このプロダクトへの思いとそして、赤崎選手の力の結集がこの成績につながったと言っていいだろう。

彼は大学時代(拓殖大学)からNew Balanceを愛用し続けて、箱根駅伝ではFC5280を履いていた、いわば生え抜き。正直、その時は他にも着用していたランナーはいたのは確か、それを貫き結果に繋げた。

アフターオリンピックでは、彼の商品価値は自ずと高まるわけだが、ブランドとしてもその評価は大きく変えていかなくてはならないはず。彼が6位入賞で掴んだチャンスは、もしかすると彼より上位の選手よりも大きかったのもかもしれない。


今後も各ブランドのモノ作りの凌ぎ合いは続く


2017年から始まった新たなステージのレーシングシューズの進化は、7年のときを経て、また違う段階に進みつつある。それが垣間見えたオリンピックシューズ事情であった。

すでに、これらブランドの切磋琢磨は、トラック競技にも落とし込まれている。長距離のスパイクはもちろんのこと、短距離、中距離スパイクにも大きな影響を与えている。それもあり、11月にはトラック種目のスパイクに新たな規制、ミッドソールの厚み20mmが導入される。

そして、今回男女マラソンで圧倒的な存在感を見せたAdizero Adios Pro Evo 1、その技術を落とし込んだトラックスパイクだって今後ありえる。技術の進化、選手への助力感は、どこで線引きすべきなのか、その駆け引きはこれらもっともっと続くはずなのだ。

そして、今大会で中国ブランドの存在も垣間見える中、日本のMizunoやアメリカのHOKA、Sauconyのようなブランドだって黙っているわけではないだろう。

今後も競技会でのアスリートの足元から目が離せない。


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