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科学と聖書にまつわる随想(8)

「光と闇」

 現代の私たちの生活には欠かせないコンピュータやエレクトロニクスにおいて、半導体が用いられていないものは無いと言ってよいでしょう。半導体技術が依って立つ固体電子工学の分野においても、直観的にはなかなか理解の困難な事柄があります。

 トランジスタや集積回路(IC)などに用いられる半導体材料はシリコン(Si)ですが、純粋なシリコンは金属ほどには電気を通しません。かといって、全く電気を通さない絶縁物でもないので“半導体(真性半導体)”と呼ばれます。元素の周期律表で、シリコンは炭素と同じくIV族元素で、隣り合う原子との結合に使う電子を4つ持っており、いわゆるダイヤモンド型の構造の結晶を作ります。この結晶にリン(P)やヒ素(As)などのV族元素が不純物として混入し、シリコン原子と置き換わった位置で結晶に紛れ込むと、V族元素は結合に使う電子を5つ持っていますので、電子が一つ余分になって、その電子が原子同士の結合に関与せず、結晶内を自由に動き回れる状態になります。この電子が電気伝導に寄与することで、電気が少し流れ易くなります。電子の電荷はマイナス(negative)ですので、このような半導体をn型半導体といいます。電気が流れる(電流)時に、移動することで電荷を運ぶ担体をキャリア(carrier)と呼びます。n型半導体は、電子がキャリアです。これは金属と同じです。電子の電荷はマイナスですから、電流の向きは電子の移動の向きとは逆になります。

 一方、ホウ素(B)などのIII族元素が置換型不純物として紛れ込むと、原子同士の結合の手として使う電子が一つ不足し、電子の空席ができた状態になります。この空席は、本来、マイナスの電荷を持った電子があるべきところが何も無くなった状態になっている訳ですから、本来の状態に電子と同じ量でプラスの電荷を持った粒子が重畳された、と捉えることができます。こうして想定した粒子を正孔(ホール)と呼びます。この空席に隣の電子が移動して入ると、空席が隣に移動したことになります。こうして次々と順々に隣の電子が空席に落ち込むことで空席(正孔)が移動し、これによって電流が流れることができます。この場合、電流の向きと正孔の移動の向きは同じ向きです。このような半導体を、プラス(positive)の電荷のキャリア(正孔)を持つ半導体ということで、p型半導体と呼びます。

 p型半導体でも、正孔が移動するのは、隣の電子が次々と空席に落ち込むことによるものだとすれば、実際に動いているのは電子ということになります。しかし、現実にはそう考えると矛盾する現象が起きるのです。電流が流れている導体に磁界を加えると、電流の向きとも磁界の向きとも直交する向きに起電力が生じます。これをホール効果(Hall effect)といいます。この“Hall”は人名で、正孔の“ホール”は“hole(孔)”です。ホール効果は、荷電粒子が磁界中を移動する時、磁界の向きとも速度の向きとも直交する向きに力(ローレンツ力)を受けることによるもので、この力の向きは荷電粒子の電荷の符号に依存するため、結果的に、ホール効果による起電力(ホール起電力)の向きは、電流が流れる場合のキャリアの電荷の符号によって異なることになります。したがって、n型半導体であれ、p型半導体であれ、どっちにしても電子が移動することで電流が流れているのであれば、ホール起電力の向きは同じはずです。しかし、実際には、p型半導体の場合、ホール起電力の向きはn型半導体とは逆になるのです。これは、p型半導体において電流を流すキャリアの電荷はプラスの電荷であることを示しています。つまり、正孔は単なる“電子が抜けた空席”ではなく、実際にプラスの電荷を持った粒子として振る舞う、ということを意味しています。

 神(創造主)は“光”です。光の抜けたところは“闇”です。共に波動と粒子の二重性を持つものとして、電子を“光”に対応させるとすれば、“闇”に対応するのが正孔(ホール)です。天地創造の最初は、人は“光”の中にいたにも関わらず、“契約”を破ったことで、“死”が到来するという“闇”ができてしまいました。しかし、半導体にn型半導体とp型半導体があることで、これらの組み合わせにより種々の半導体デバイスが出来上がり、様々な機能を発揮して我々の生活に役立っているのです。すなわち、“闇”が存在することは、決して無意味なことではなく、むしろ、“闇”によって、いよいよ“光”が明らかになるのではないでしょうか。

 生まれつき目の見えない人がそのように生まれてきたのは誰が罪を犯したからか、その人か、その両親か、と弟子たちに問われた時、イエス・キリストは、

「この人が罪を犯したのでもなく、両親でもありません。この人に神のわざが現れるためです。」

(ヨハネの福音書9:3)

と答えられました。
 電子と正孔(ホール)が結合することを再結合といいます。この時、エネルギーが失われるのですが、そのエネルギーが熱として散逸するのではなく光に変わる場合があります。これを利用したのがLED(発光ダイオード)です。まさしく、“闇”があることで“光”が生まれるのです。


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