科学と聖書にまつわる随想(26)
「伝わる速さ(その2)」
日本は地震大国と言われてます。世界に数ある活火山のうちの約7%が日本にあるそうです。地震の揺れが伝わる波にはp波とs波があることを学校の理科でも習います。p波は“primary wave”、s波は“secondary wave”ということで、要するに“第一波”、“第二波”という意味です。これらが時間差で到達するのは伝播速度の違いに拠ります。地盤に歪みが生じてその弾性によって振動を起こしたのが地震で、その振動が震源から周囲に波になって伝播する訳ですが、一般に、圧縮歪に対する弾性係数(ヤング率)はせん断歪に対する弾性係数より大きいため、波が伝わる方向に沿って平行に揺れる振動(縦波)の方が、伝わる方向に対して垂直に揺れる振動(横波)より速く伝わることになります。その結果、p波は縦波、s波は横波になります。弾性係数の違いは変位の大きさにも表れますので、p波より後から来るs波の方が大きな揺れになるという理屈です。ただし、縦波・横波の区別は、地震の縦揺れ(鉛直方向)・横揺れ(水平方向)と意味が違いますので注意が必要です。
伝播速度が異なるため、同時に発生した振動が波になって伝わる過程で次第にバラバラになって行く現象を“分散”といいます。100m走でスタートラインに一列に並んでた走者が、ゴールラインでは別々になっているのと同じです。物質の屈折率が光の波長に依存するため、光が物質中を透過する時も分散が起きます。虹が見えるのもこのためです。物質に斜めに光が入射すると、物質中では屈折率に応じて減速するため向きが変わる(屈折)ことになるのですが、その度合いが波長によって異なるので、曲がる角度に違いができて、色が分かれて見えるのです。
それぞれの個性に違いがあると、最初はまとまっていても、次第に分かれて違いが明らかになる、というのは世の常である訳です。天地創造の初めは、人はみな一つの共通の話し言葉であったのが、バベルの塔を建てたところから言葉が混乱して互いに通じなくなり、全地に散らされて行ってしまった、という事件を思い起こします。
イエス・キリストの十字架と復活の出来事を目撃・体験した弟子たちの証言・福音が周りに伝わって広がる過程においても、様々に“分散”が生じていたことがパウロの書簡から窺えます。
パウロがこの手紙を書いたのは、おそらく十字架と復活の出来事から数10年後くらいのことでしょう。たった数10年しか経っていないのに、その間にも既に様々なことを言う人々が出てきていたようです。
翻って、現代はさらにそれから約2000年が経過しています。その間に福音は世界中に広まり、私たちのこの日本にも届けられました。経過時間と伝播範囲からすれば、パウロの時代よりもさらにもっと内容が発散してしまっていてもおかしくはありません。しかし、聖書は、様々な言語で様々に翻訳されたバージョンがあるにも関わらず、その中心メッセージは変わることなく、使徒たちが伝えた福音のエッセンスは忠実に伝えられ続けている、ということは考えてみれば驚くべきことではないでしょうか。
人気漫画の主人公の決め台詞に「真実はただ1つ!」というのがありますが、時代を経て変わることが無い、という事実は、その輝きが本物の輝きであることを示していると思います。
もちろん、本物があるからこそ偽物も生まれて、おかしな方向に伝播して行ってしまったものもあります。いわゆる“異端”と呼ばれるものがその典型と言えるでしょう。エホバの証人(ものみの塔)やモルモン教、統一協会などがその代表的なものです。それらが偽物であるかそうではないかは、やがて時が近づくにつれて、いよいよその違いは明らかになるでしょう。
パウロが伝えた福音、最も大切なこととは何かは、パウロ自身が語っています。
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