科学と聖書にまつわる随想(33)
「オームの法則」
“オームの法則”は、電気回路について考える上での最も基本的な法則の一つです。中学校の理科でも学びます。ご承知の通り、「電気を通す物体に流れる電流の大きさは、それに加えた電圧に比例する。」というものです。そして、その時の電圧と電流の比のことを“抵抗(電気抵抗)”と呼びます。
(抵抗)=(電圧)÷(電流)
と表されます。抵抗の単位が“オーム(Ohm)”で、記号は[Ω]で表します。1V (ボルト)の電圧を加えた時1A(アンペア) の電流が流れたら、その物体の抵抗は1Ωです。
電気の流れの様子については、“水流モデル”で考えると直観的に理解し易いと思います。“電圧”は“水圧”に、“電流”は“水流”に対応します。この時、“抵抗”は水を流すパイプの“流れ難さ”を表す量になります。パイプが細いほど水は流れ難く、抵抗は大きな値になりますし、長さが長いほど、やはり抵抗は大きな値になります。別の言い方をすると、同じだけの水の流れを作るのには、より大きな水圧が必要ということです。電圧は電気を流す力、電流はそれによって起きた流れ、ということです。力が強いほど流れも大きくなるはずですから、両者は比例する、というのが“オームの法則”です。
ただし、ここで、“比例”という言葉を使う場合は注意が必要です。科学の分野において“比例”という場合は、数学的に厳密に捉えるする必要があります。2つの量の間が“比例”の関係にあるとは、単に、一方が大きくなったら他方も増える、というだけではなく、両者の比が一定であるという意味になります。つまり、一方が2倍になったら他方も2倍、3倍なら3倍、という関係です。それぞれを横軸・縦軸のグラフで表すと、原点を通る直線で表されます。原点を通りますので、一方がゼロなら他方もゼロです。“比例”とは数学的にはこういうことを意味します。
そうすると、“オームの法則”は、一見尤もらしく正しいように思えますが、実際には、厳密に言えば成立しません。
抵抗の大きさは、基本的には、物体の材質と寸法・形状で決まります。単位長さ(1m)で単位断面積(1$${\rm m^2}$$)の寸法の時の抵抗の大きさを、その物質の抵抗率と呼び(固有抵抗ともいいます)、材質に固有の値です。金属のように抵抗率が非常に小さいものもあれば、ガラスやセラミックスのように極めて大きな抵抗率を示すものもあります。材質の特徴を表す物理量には様々なパラメータがありますが、その中でも抵抗率はそのダイナミックレンジが最も大きいものと言えるでしょう。ほぼ無限大に近いようなものもあれば、片や、超伝導体は完全に抵抗ゼロです。
抵抗率は材質に固有のパラメータではありますが、常に一定という訳ではなく、温度に依存します。一般には、温度が高いほど抵抗率は大きくなります(中には逆の傾向を示すものもあります、その代表例が半導体)。温度が高くなるということは、物質を構成する原子・分子の振動が激しくなるということですが、その中を電子が移動して電流が流れる際、原子・分子の振動が激しいほどそれらと衝突する確率が高くなります。日体大の集団行動は実に見事ですが、それぞれがフラフラしながら歩いていたのでは、おそらくぶつかってしまうでしょう。移動する時にあちこちにゴツゴツぶつかっていたのでは、当然、移動し難くなります。電子が移動し難くくなるということは、電流が流れ難くなるということで、抵抗が大きくなるということを意味します。温度によって抵抗値が変化することは、温度センサ(測温抵抗体)として用いられたりもします。
ところで、物体に電流が流れると、そこでエネルギーが消費され、熱を発生します。これを“ジュール熱”といいます。1V の電圧を加えて 1A の電流が流れた時、そこで1W(ワット)の電力が消費され、1秒間に 1J(ジュール)の熱量が発生します。電流が流れると物が熱くなる、ということは直観的にも理解できると思います。熱くなるということは、温度が高くなるということです。そうすると、抵抗は大きくなることになります。電流が大きくなるほど消費電力も増えますので、発熱量が増加し、より温度が高くなって、それに従って抵抗が大きくなります。
実際、白熱電球や電熱線などのヒータでは、この現象が起きています。電源がOFFの状態では電球のフィラメントや電熱線は温度が低いので抵抗値は小さい状態にあります。しかし、電源を入れて電球が点いている時は、フィラメントが1000℃以上の高温になることで光を発していますので、かなり抵抗値は大きくなっています。電源の電圧は一定ですから、したがって、電源を入れた瞬間、まだフィラメントが温まっていない時に、抵抗値が小さいので最も大きな電流が流れることになります。これを“突入電流”と呼びます。その後、フィラメントの温度が上がるにつれて抵抗値が大きくなり、定常状態に達すると、表示されている定格電力に相当する電流に落ち着くことになります。
“オームの法則”で電圧と電流が比例するいうのは、あくまでも抵抗が一定という前提の話です。しかし、現実には、電圧を上げて電流を増やすにつれ、抵抗での発熱量が増えて温度が上がります。それによって、程度の差はあれ抵抗値が変化します。つまり、電圧を2倍にしても、厳密に言えば電流は単純に2倍になる訳ではありません。言い換えれば、完全に“比例”ではない、ということです。ですから、“オームの法則”は、電圧と電流が比例することを表す法則というよりは、“抵抗”の定義を表す関係式として捉える方が正しいと言えます。
“オームの法則”は、電気回路の話では最も基本的な法則です。聖書の世界で言えば“十戒”が最も基本的な律法でしょう。しかし、現実には電気回路が“オームの法則”を守ることができないように、私たちには“十戒”を完全に守ることは不可能です。だからこそ、それを自覚して謙遜になって、イエス・キリストによる救いを求めることが必要なのだと思います。