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科学と聖書にまつわる随想(40)

「マグナス効果」

 小学生の頃、放課後の校庭に、二人の高校生くらい(子供の目からするとずいぶん大人に見えました)のお兄ちゃんが来てキャッチボールをしているところを見たことがあります。たぶん、野球部の人たちだったのだと思います。一人がキャッチャーミットを着けてしゃがみ、もう一人が投球フォームで球を投げていました。通常、物理の原理によれば、空中に投げた球は、空気抵抗の影響が無ければ、重力を受けて放物線を描いて落下します。しかし、彼らのキャッチボールの様子を横から眺めていると、ピッチャーがオーバースローで投げた球は、球をリリースした高さから最初はやや斜め下向きに進むのですが、途中から次第に軌道が上向きに反って、キャッチャーミットにはむしろやや上向きの軌道でバシッと収まるのです。投げた球が上向きに反って飛ぶなんて、と子供心に驚いたものです。

 オーバースローで投げたストレートの球の場合、球にはバックスピンの回転が生じるため揚力が働いて、これが重力に打ち勝てば軌道が上に反ることは理解することはできます。よく野球の解説で「ストレートがよく伸びている」というような表現を聞くことがありますが、おそらくそれはこういう現象を指しているのだと思います。

 バックスピンで回転をしながら球が進む場合、球に視点を置いて見ると、球の上側の気流の方が下側の気流より速くなるため、流体力学のベルヌーイの定理によって上側の圧力の方が低くなり、球に揚力が働くことになります。このように、回転をしながら移動する物体に進行方向と垂直な向きに力が働く現象を“マグナス効果”といいます。野球のピッチャーが投げるカーブやシュート、スライダーなどの様々な変化球もこれを巧みに利用したものです。

 一方、球に回転が無ければマグナス効果が起きないのだから、球は真っすぐに飛ぶのかというと、そうでもないようです。高速で飛ぶ球の後ろには渦が生じるため、その渦の影響を受けて揺さぶられ進行方向が変化することになります。サッカーのいわゆる“無回転シュート”はこれを応用したもので、ゴールキーパーに球筋の予測を困難にさせて目を惑わしてシュートを決める高度な技です。

 サイクリングをしていて、道の左端を走っている自転車の右横を大型のトラックが追い抜いて行く際、トラックが自分を追い越した瞬間に自転車がトラックの後ろにスッと吸い込まれるのを感じることがあります。あまりトラックに近づくのは危険ですが、この瞬間はトラックに引っ張られながら走ることになるので、自転車をこぐのが少し楽に感じます。これもトラックの後方に渦が生じていることによるものと考えられます。鳥の群れが編隊を組んで飛ぶのも、同様の原理によるものと考えられます。

 空気中を真っすぐ飛んで行くためには、したがって、形を流線形にして周囲の流れを均一にし、後ろに渦を作らないようにすることが必要と言えるでしょう。飛行機の機体の形もこういうところを考慮して工夫されているのだと思います。また、飛行機のように長さのある物体の場合は、尾翼を付けることで機体の向きを安定化し、飛んで行く方向を定める仕掛けも必要になります。弓の矢羽もこれと同じ働きをするものです。ただ、その矢羽根が歪んでいると、飛んで行く方向が反れてしまいます。

「けれども 彼らはいと高き神を試み 神に逆らい そのさとしを守らなかった。
彼らは元に戻り 先祖たちのように裏切り たるんだ弓の矢のように それて行った。」
 

(詩篇78:56,57 )

 本来、神(創造主)によって造られた者が、造り主の方を向かずに、造り主を忘れて的外れの矢のように反れて飛んで行ってしまっている状態を、“罪”と聖書は指摘します。

 結局のところ、回転していても、していなくても、球はそもそも完全に真っすぐには飛べないということは、私たちがそもそも生まれた時から“罪人”であることを示しているように思います。

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