九月金曜の金木犀
9月10日金曜日、朝の8時を待ちわびて最寄りの宅急便の営業所に向かって家を飛び出した。
自宅に前の日に届いてほしかった荷物のうちのひとつがすぐそこまで来ている。この日の午前中に使う予定のその小道具がないと現場が解散になってしまう。私のせいで進行が遅れる、そのことを考えただけで昨晩からずっと血の気が引く気持ちでいた。
身分証を提示して配達まえの荷物を引き取らせてもらった。セーフ、第一案で進行できる!その場で仕事相手に進捗を報告する。雨雲が消えた3日ぶりの陽光で周りがきらめいて見える。
仕事場では10時ごろからこの案件のための準備をする。慣れているので難しすぎることはないが、やってみないとわからないのでやきもきする。
買い出しのために、職場の共用自転車を借りた。私は自転車を持っていないので、自転車に乗るのは仕事場でだけだ。ペダルを回すと、風が気持ちよく体にあたる。昨日までの寒いくらいの気温とは変わって暑い1日になりそうだった。
住宅街を走らせていると、アスファルトの水たまりが蒸発するあたたかく湿った空気に混ざる甘くやわらかな香りを吸い込んだ気がした。予感にときめいてもう一度深く息をする。
金木犀だ。秋が来たのだ。
すると私は急に、たぶんこの仕事はうまくいく、と強く感じた。
それに、ここのところ気が沈みがちだったのも、暮らしまわりの雑事を煩わしいと感じることも、子どもたちの奔放な振る舞いに眉を顰めてばかりの自己嫌悪も、ぜんぶ大丈夫だ。季節が変わるんだから私だってずっとこのままのはずがない、と唐突に、でもものすごく切実に思えて、足元のペダルを軽く感じた。
(写真は毎年私がアケビだと思って観察してるもの。仕事中で金木犀を探している場合じゃなかったのだ。ほんとうは探したかったのだけど)
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