麻みより

地方出身都内在住。なんてこともない普通の日々。閲覧がメインです。

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最近の記事

9月のこと 紅茶と読書

紅茶 その日は突然やってくる。 たいていは暑がりの私が身震いを感じて夜中に目覚めてクーラーを切るのが続いた日。朝起きて、窓を開けて吸い込んだベランダの空気がからりと冷たく、唐突に思いが湧き上がる。 ーー熱い紅茶が飲みたいな。ミルクたっぷりのチャイもいい それは私にとって本格的な秋の始まりだ。 戸棚を漁って買っておいた茶葉を見つけると思わず口角が上がる。20年以上使っている取っ手が黒く焦げたダンスクの小鍋に浄水を注いで火にかける。その間に食器棚からポットを取り出した。

    • 夏と音楽についての長文

      仕事に用事など気を緩められないものが立て込んだので、7月から意識的に本を絶っている。 日常で本を読み進めていると、電車を乗り過ごしたり仕事中に続きが気になったり私の意識は簡単に逸れるので対策が必要だ。いい大人のくせしてほんとに駄目なやつなのである。 代わりに音楽を聴こうと、久しぶりにイヤホンを引っ張り出してきて電車に乗ることにした。 はじめに、iPhoneのAmazon musicアプリを立ち上げ、家事中に流す曲をメインに好きな曲をどんどんダウンロードする。以前に音楽を

      • 親子で走った土曜日のこと

        金曜の翌日のできごと 土曜の朝、窓を開けると少しひんやりした空気の中にも金木犀が含まれていた。大きく息を吸う。 前日の夕食中、きょうは保育園でどんなことをしたの?の質問に、相手に被せるように話し出した長男と次男の話をまとめると、10月に予定されている運動会の練習をしたらしい。それがあってか、長男が急に「あした一緒に走ろう」と誘ってくれた。 土曜の昼はまだ暑いし雨もぱらつく微妙な天気だったので、午後のおやつのあとに準備をした。 息子は保育園に行くような普段着のTシャツと

        • 九月金曜の金木犀

          9月10日金曜日、朝の8時を待ちわびて最寄りの宅急便の営業所に向かって家を飛び出した。 自宅に前の日に届いてほしかった荷物のうちのひとつがすぐそこまで来ている。この日の午前中に使う予定のその小道具がないと現場が解散になってしまう。私のせいで進行が遅れる、そのことを考えただけで昨晩からずっと血の気が引く気持ちでいた。 身分証を提示して配達まえの荷物を引き取らせてもらった。セーフ、第一案で進行できる!その場で仕事相手に進捗を報告する。雨雲が消えた3日ぶりの陽光で周りがきらめい

          らせんの花

          私の実家には庭とは名ばかりのただっぴろい敷地があり、半分は車を停めやすいように砂利が敷き詰められていて、もう半分には芝が敷かれていた。小さいころ私はこの庭をうろつくのが好きで、ちょうちょやバッタを追いかけたり、東側にある大きな栴檀の木に集まるクマゼミを捕まえたり、発育の悪い松の幹にくっついているカミキリムシを眺めたりして過ごしていた。 毎年5、6月にはブロック塀で道路から視線を閉じられた北側の隅に、赤いグラジオラスやアマリリス、純白のテッポウユリが次々と大きな花を咲かせた。

          らせんの花

          ひなげしのどんぐり

          ある土曜の午前、夫が5歳の長男と2歳の次男を外へ連れ出してくれた。 だれにも中断を迫られずに好きに家事ができるありがたさといったら!私は家事が好きではないが、気がかりは引きずりたくない。2回目の洗濯物を干し掃除機をかけコロコロを転がし本やらブロックやらお薬手帳やらを元の場所に戻すとすっきりした。 時計を見るとお昼が近い。そうめんを茹でるべく鍋いっぱいの湯を沸かしていると、玄関のチャイムが鳴った。 続いて元気いっぱいの大声で、ママー!と叫びながら子どもたちが入ってきた。(彼

          ひなげしのどんぐり

          姿よりさきに匂い立つ

          上京する前は、都内といえばどこもかしこもコンクリートとアスファルトで覆われた灰色で硬質な景観だろうと思い込んでいた。けれども私が住むことになった東京の下町は、ひしめいて居並ぶ住宅地のそこかしこに穏やかな小さな緑が覗いていて、この土地をすぐに好きになった。 庭の多くはほどよく手入れされ、季節の花を植えた鉢が並んでいる。植物も多様で、春の球根に花のきれいな樹木、常緑のグリーン、本格的なイングリッシュガーデンのようなつるバラのアーチ、ハーブのプランターや、塀や柵からこぼれそうなコ

          姿よりさきに匂い立つ