9月のこと 紅茶と読書
紅茶
その日は突然やってくる。
たいていは暑がりの私が身震いを感じて夜中に目覚めてクーラーを切るのが続いた日。朝起きて、窓を開けて吸い込んだベランダの空気がからりと冷たく、唐突に思いが湧き上がる。
ーー熱い紅茶が飲みたいな。ミルクたっぷりのチャイもいい
それは私にとって本格的な秋の始まりだ。
戸棚を漁って買っておいた茶葉を見つけると思わず口角が上がる。20年以上使っている取っ手が黒く焦げたダンスクの小鍋に浄水を注いで火にかける。その間に食器棚からポットを取り出した。
牛乳をレンジで温め、砂糖袋を出して(2年前に瓶を割ってからずっと袋のまま保存のスタイルだ)、家族に声をかける。
「今日は温かいミルクティーをいれます。砂糖の量は1杯でいい?」
秋の準備は飲み物から。紅茶が好きなので美味しく飲める季節になったことがとても嬉しい。ふだん使いはあっさりした和紅茶、時間のあるときはダージリンやチャイをいれる。時間をかけてゆっくりと台湾烏龍茶も飲むのも好き。その時間を思い描くだけでときめく。
読書
9月中旬に読書を再開する。図書館で、子どもの本を借りるついでに久しぶりに『時をさまようタック』を手に取った。去っていく8月を惜しむつもりはないのだけど、読んでいると盛夏の景色が脳裏に広がる。ひと昔前の外国の風景を描いた本なのに、むせかえるほど色濃い夏の描写にくらくらする。
なんとなく勢いがついたので、ジャック・フィニィとスタージョンを再読しようと図書館で借りた。再読SFつながりをハロウィンまで引っ張って、ブラッドベリで締めようかしら、とか思っている。
花
9月27日の夜には、金木犀の気配が漂っていた。
子どもを保育園に迎えに行った帰り、すっかり暗くなった夜の道に、朝とは違う予感のようなものが漂っていた。保育園から家まで金木犀がある場所では視野に入れて歩く。枝には小さなグリーンペッパーじみた蕾が鈴なりだった。
翌朝、わくわくしながら窓を開けた。その日一日中、会う人会う人に話題にしてしまいそうなほどしっかりと甘い香りが空気に含まれていた。
結局、家で仕事だったので家族以外の誰にも言えていないけれど。
金木犀を覚えたのはいつだっけ、と思い返すと、香りが良い植物と認識したのは『美人画報』(安野モヨコ著)で、庭木だと意識したのは『黄昏の百合の骨』(恩田陸著)だった気がする。その次が桂花茶で、最後が本物だ。
親は奇妙な順番をたどって本物に出会ったけれど、子どもたちは最初から本物で覚えている。しかしあまり好きではないようだ。
花ではないけれど、9月は、銀杏ぎらいの長男がくさいくさいと言いながら強面の顔をいっそうしかめてイチョウの下を歩くのがみられはじめる月でもある。
音楽
9月の後半からまた仕事がどさりと舞い込んできて薄給にありがたい。気安く請け負ってしまいがちな性分のくせに放っておくとぼーっとする隙を探しがちな自分を働くように鼓舞する。
9月30日、Pokémon × Ed Sheeranの曲のミュージックビデオがリリースされたので、大喜びで昼休憩に動画を見てみた。
かわいいが山ほどいっぱい詰まった、たいへん心躍る作りのMVだった。11月発売の新しいソフトの挿入歌だそうだ。通勤時に聴けるようすぐに曲をダウンロードした。
子どもと一緒に見ると、ふたりとも「おもしろいね」と笑顔である。「エドシーランさんは歌がうまくて本当にポケモンが大好きなんだね」と長男がしみじみと言った。
celestial (Pokémon × Ed Sheeran)
Youtubeにリンクを貼るのは著作権的に違法でないかなと心配なので、歌詞の一部を私なりに意訳してみたものを載せておく。
この一週間というもの、思いがけずほぼ毎日MVを見ています。よかったらみなさんも見てみてください。すごく夢がある映像で、イギリス(たぶん)の雰囲気もあるし、長場雄さんの線画(グッズがでたら理由をつけてつい買ってしまいそうだ)が動きますし、アニメパートも映画かな?って思うほど動いてるし、エド・シーランのポケモン愛が伝わってくるし、なんといっても、温かないい曲ですから。
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