ドイツ
ドイツでは、(番組作成時点の2011年で、)絶食療法は60年の歴史があり、人口の10~20%が絶食療法を経験済みであると言われている。身体の中の老廃物の排出のため、ドイツにおいては、治療の一環として運動も行う。
ブヒンガークリニックは国際的評価が高く、年間2,000人が絶食療法のために訪れる。慢性疾患を治すために訪れる人もいれば、高血圧、糖尿病、肥満の予防などの体調管理のために訪れる人もいる。
患者の一人であるユルゲンバールは、肝臓を温めてもらっている。彼は銀行員であり、ロシアや東欧への出張が多い。出張先での脂肪分の多い食事に付き合い、ウォッカを飲みすぎることが常となっていた。このため、血液検査の結果は最悪であり、仕事を変えるかモスクワと心中するか検討をするよう医師に迫られたと言う。彼は絶食は無理だと思っていたが、やってみるとできないことはなく、血液検査の結果が正常値にまで戻った。その後食生活に気を配るようになり、毎年絶食療法を受けて身体をリセットしている。
ブヒンガークリニックでは、初期に1日2回スープかフルーツジュースが出る。1日250kcalの摂取によりアシドーシス(血液の酸性化)の症状を和らげ、最初の数日を乗り切りやすくするのである。これはオットー・ブヒンガーが創設したやり方である。
オットー・ブヒンガーは軍医であった。彼はリウマチ熱にかかり、1918年に車いすでの生活を宣告された。ところが、二度の絶食により劇的に改善した体験を経て、治療法として絶食するクリニックを創設した。
ここでの絶食療法プログラムは1~3週間である。
モーリン・バルクはこの年二度目の絶食療法を受けていた。彼女は重度のリウマチに悩まされており、12日間の絶食中であった。前年は、リウマチのためにもう動けないかもしれないと絶望した。寝たきりになるには若すぎる。本当にそうなりそうに思えて、一人暮らしをするのも怖かった。一般の抗リウマチ薬をすべて試し、疲れ切って、心身ともボロボロになっていた。絶食は彼女が思っていたのとは正反対だった。体力を消耗されるのではなく、浄化されている感じがした。身体が自ら立ち直るエネルギーを見つけている。治癒力を実感し、また受けようと思った、と言う。薬も今はのんでいない。
病気の重さや病歴の長さによっては薬を中断できない場合もある。進行性の関節炎に罹患した患者は、完治はあきらめているが、絶食療法によって薬を減らしたいと思っている。リウマチ性の多発性関節炎の場合、非ステロイド系の抗炎症薬を絶食中は減らすことができる。薬の副作用は無視できないので、薬を減らせるのは良いことである。
ブヒンガークリニックの患者として最初に登場した銀行員のユルゲン・バールが絶食を終えるときがきた。このときに不用意に食べてしまうと絶食の効果が台無しになる。非常に危険な事態を招くこともある。身体を徐々に食べ物に慣らすことが不可欠である。
絶食によって薬の売上高が減少するので、製薬業界の抵抗は必至である。それでもドイツでは変化させる方向に進んでいる。
ベルリン大学付属シャリテ病院は、絶食療法専門のフロアを持つ欧州最大級の総合病院である。絶食に関する科学的な研究を行い、それを踏まえてリウマチ、メタボリックシンドローム、心臓疾患などの患者に対して絶食療法を実施してきた。ブヒンガー医師の開発した治療法を毎年500人程度の人が受けており、それでも希望者が多くてまかないきれないほどである。
同病院のミッシェルセン教授は、絶食療法に関するロシアの研究についての情報を持っておらず、独自にアドレナリン、ドーパミン、セロトニンといった代謝や調節に強力な作用を持つ体内のホルモン変化を調べてきた。その結果、セロトニンの量が増加し、精神状態の改善が認められた。また、痛みが和らぎ、インスリン受容体の感度が上昇した。健康的な生活を受け入れやすくなるとも言われている。