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アメリカ

 南カリフォルニア大学ジェロントロジー学部のヴァルター・ロンゴ博士は、アルツハイマー病やがんなど、年齢とともに現れる慢性疾患の発症を遅らせ、加齢の影響を全体に遅くすることを目的に研究を行っている。

 ロンゴは、動物の餌を減らすとより長く生きられるという研究結果に着目し、絶食の効果について研究した。絶食にはあらゆる種類の毒素から身体を守る働きがあると考え、マウスにがんを発症させた後、一方には通常通り餌を与え、もう一方には48時間の絶食をさせてから(それら双方に)化学療法剤を投与した。投与量は、通常の治療に用いる3~5倍とした。重度の副作用を起こす量である。その結果、通常通りに餌を与えたマウスがすべて死んだのに対し、絶食したマウスは全て生き残った。再実験の結果も同じだった。

 南カリフォルニア大学ノリス総合がんセンターでは、絶食が化学療法のがん細胞へのダメージを増加させる一方で、正常細胞へのダメージを減少させるとの仮説に基づき、臨床試験を募集したが、希望者は少なかった。栄養を減らすことは、化学療法のガイドラインとは逆だったので、不安を持つ患者が多かったのだろう。
 こんな中、乳がんを患っていた判事のノラが臨床試験を申し出た。効果が確認されるまで10年も待つことはできないと考えたようである。化学療法は5回実施することを予定していた。主治医の助言で2回目と3回目は絶食をしなかったが、あとの3回は絶食した。ノラは、絶食した方が副作用が弱まり、疲労や認知障害が少なくなったと感じていた。

 絶食による遺伝子の発現として、mRNA量を測定したところ、心臓、肝臓、筋肉において大きな変化が見られた。絶食が細胞の機能を変化させ、守りの体制を作った。古代の遺伝子を呼び覚ましたかのようである。栄養分があまり得られないという変化によって、細胞ができるだけ自らを守ろうとするようになる一方、がん細胞はそうした体制になじまず、ブドウ糖の少ない環境では増殖が難しくなる。そこに化学療法も効いてくる。絶食下という体内環境は、がん細胞にとって不利、正常細胞にとって有利なのである。

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