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閉店二日前の八重洲ブックセンター本店
久しぶりに八重洲地下街を通る。キャラクターグッズの店舗が随分増えたように感じる。その種の店が集住する一角が、東京キャラクターストリートと名付けられ専門店街のようになっている。コンテンツビジネスは、令和の日本において最も勢いのある産業なので、首都の中心駅直下に関連施設が盤踞するのは当然と言える。現在流行中の、シン・仮面ライダーのショップ。ちいかわらんど。国産のコンテンツに舶来のコンテンツ。星のカービーのショップが、開店準備中だ。四月一三日に開店するという。
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地上に出る。東京駅八重洲口は巨大バスターミナルだ。スーツケースを曳いた旅行者が多い。外国人の姿も少なくない。良い天気だ。桜が咲いている。
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最近竣工した、八重洲ミッドタウン。ミッドタウン兄弟の末弟。その壁面の巨大なシティビジョンを外から眺めつつ、京橋方面へ進む。
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八重洲ブックセンター本店が、この三月末で、一度営業を終了するというので、別れを告げにやってきた。この店に来るのも久しぶりならば、そもそもリアル書店に来ること自体が、久しぶりだ。
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本店ビルの周囲では、人々が盛んに写真撮影を行っている。自分もまた、そうする。
店内に入る。賑わっている。閉店の告知が掲示されている。カウントダウン。確かに、後二日だ。
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全フロアを一通り見て回ろうと思ったが、地下階には立ち入ることが出来ない。
上層階の、専門書の書棚には少なからず空隙が出来ている。理工書、建築書、医学書などの棚は、場所によっては殆ど何もなくなっている。伽藍洞だ。
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ブックセンタービル角の窓から、東京駅の方角を撮影する。階を移動しつつ、似たような画像を何度も撮る。この三月をもって、消失してしまう画角、もうすぐ見られなくなる風景。ここにも、同じように撮影に勤しむ人間が、私以外に何人も居る。この位置、この高さ、この角度だと、中央線と東海道新幹線が見える。中央線の高架は、やはり他の路線と比較して突出して高い。
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今自分が居るのはビルの上層階なのだが、窓の外には時折、春風に吹き上げられた桜の花びらが舞っている。肉眼では確認できるが、スマホで撮影した動画には映っていない。テクノロジーの限界だ。
幼い頃の自分は、祖父に連れられて都内まで出かけることが多かった。祖父も自分も千葉県民であり、目的地は主に都区部東側の街であった。上野なら国立科学博物館、秋葉原なら、その当時万世橋に在った旧交通博物館、東京駅周辺なら、先程通ってきた八重洲地下街や、ここ八重洲ブックセンターである。総武線快速に乗れば、祖父の家から東京駅まで一本である。
総武線快速は、本来は両国や秋葉原、お茶の水の方向に真っ直ぐに延伸する予定であったが、工事中に地盤沈下で線路が沈んでしまったため、仕方なく地下鉄にして錦糸町から南下し、東京駅まで乗入れることとなった。その話も、移動中の総武快速線の上り列車の車内において、祖父から聞かされたように記憶する。
ここブックセンターでは「まんが日本昔ばなし」が百話分収録された総集編的な本を、祖父から買ってもらった記憶がある。自分が小学校低学年の時の事だ。民話集であり、民俗学本であり、アニメムックであり、フィルムコミックである。見開き二頁で一話となっていて、児童書としては、それなりに浩瀚な書籍であった。昭和時代の事であり、一九八〇年代前半である。
そう言えば、八重洲地下街のアイデア商品店「王様のアイデア」でも、変わった筆記具を買ってもらった想い出がある。芯を交換するタイプの色鉛筆。替え芯を収納するカートリッジが、本体と一体化しているため、太い。色のバリエーションは三〇色か五〇色ぐらいあったように思う。
当時、内閣総理大臣であった中曽根康弘がこの店を訪れて、話題になっていた記憶がある。中曽根の写真や揮毫が、店内のどこかに掲示されていたのを、後の時代になって見たような気がする。今日は見かけなかった。
祖父との想い出が残る書店ではあるが、成人してからは、来る機会が少なくなった。生活圏、行動圏が東京都の西側になり、大学生協や新宿、池袋の巨大書店を主に用いるようになったためである。勿論、二十世紀末からのブックオフの台頭、新世紀におけるネットショッピングの普及、とりわけアマゾンの物流制覇も影響している。
八重洲ブックセンターは総合書店なので、あらゆる分野の本が揃っている。官能小説、エロ小説のコーナーもある。その棚もかなり冊数が減っているが、理工書ほどではない。記念に、或いはウケ狙いに一冊買おうと思ったが、詰まらないことに気づいたので止める。
二階には、ベストセラー本のコーナーが設けられている。年代別、分野別に分けられ、それぞれにキャプションが付されている。直近の人文書で最も売れたらしい、オデット・ガロ―『格差の起源』を買う。全くの衝動買いだ。著者についても、この本自体についても、管見にして何も知らないが『銃・病原菌・鉄』や『サピエンス全史』ぐらいの話題性があるのだろうか?
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レジでブックカバーをかけてもらい、手提げ袋も貰う。このブックカバーも、手提げ袋も、良いものだと改めて思う。
メッセージカードを貼り付けるボードが用意されている。自分の想いをそのまま綴る。祖父との思い出が残る書店であることを、そのまま書く。
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中二階のドトールで荷物を整理し、少し読書をする。無論、ドトールは昭和時代には存在していない。『格差の起源』のレシートを確認すると、明細欄に「文芸書」と記載されている。何か違う気がする。
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帰路、日本橋の方向に向かって散歩をする。平成時代の中頃から、八重洲の街全体が大規模な再開発工事を行っている。林立するクレーン。令和に入り、コロナウイルスの時代を経ても、現在進行形だ。
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途中で、おかしのまちおかを見つける。何故だかホッとする。
春の宵を粋人気取りでノンビリ歩いていたら、新世紀の東京名物、ゲリラ豪雨に遭う。ベローチェに逃げ込む。中々止まない。一番奥の席に座り、買ったばかりの『格差の起源』を、三分の一ほど読み進める。
随分と長居してしまう。ようやく外に出られる。夜の東京の路傍を、桜の花が流されていく。
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