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南アフリカワインの逸品!ロングリッジ「Cuvée Rika」の魅力と物語 ~鉄の拳をベルベットの手袋で包んだワイン~
はじめに
「南アフリカのワイン」と聞くと、ステレンボッシュやパールなど温暖な地域が生む、力強い赤ワインを思い浮かべる方も多いかもしれません。けれど、実は近年、南アフリカでも有機農法やビオディナミ農法を取り入れた高品質ワインが増え、“ニュー・ワールド”らしからぬ繊細でエレガントなスタイルを打ち出す生産者が注目されています。
その中でも、ロングリッジ(Longridge)が手がける「Cuvée Rika(キュヴェ・リカ)」は、一部の愛好家から“隠れた逸品”として高い評価を得ている特別なピノ・ノワール。香りや味わいの奥深さ、独特の製法、そしてボトルに秘められたストーリーなど、知れば知るほど魅了される要素が満載です。
本記事では、ロングリッジ・ワイナリーの歴史や哲学、「Cuvée Rika」の製造背景、味わいの特徴、さらにはユニークなエピソードまで掘り下げながら、この南アフリカワインの“真価”に迫ります。もし“ピノ・ノワール好き”の方がいれば、ぜひ最後までご一読ください。
1. ロングリッジ・ワイナリーの歴史と背景
1-1. ステレンボッシュの名門に成長した若いブランド
ロングリッジ(Longridge)の農地自体は1841年からの歴史を持ちますが、実際に「ロングリッジ」というワインブランドが誕生したのは1992年と、南アフリカのなかでは比較的新しい存在です
(Background | wine.co.za)。
ステレンボッシュ地区ヘルダーバーグ山麓の涼しい風と豊かな土壌を武器に、高品質ワインを生み出すべく取り組んだ結果、近年は地元のみならず世界的にも高い評価を獲得。現在は約50ヘクタールの広大な敷地のうち25ヘクタールをブドウ畑として活用し、年間18万本前後のワインを生産しています
(Longridge - Kapweine)。
1-2. “自然に寄り添う”経営方針
ロングリッジの最大の特色は、創業当初から掲げている「自然に寄り添うワイン造り」という哲学。除草剤や殺虫剤などの化学薬品を一切使わず、有機農法やビオディナミ農法を導入し、アヒルや牛などを放し飼いにして畑の害虫駆除や堆肥づくりを自然に委ねています
(Our Estate | Longridge)。屋根には太陽光パネルを敷き詰めるなど、サステナビリティへの投資も積極的。
2006年にオランダ人ファン・デル・ラーン一家が経営に参画し、国際的な視野と資本が加わったことで一気に評価が高まりました。現在では、南アフリカ屈指のビオディナミ先駆者として知られています
(Background | wine.co.za)。
2. 醸造責任者ジャスパー・ラーツと“キュヴェ・リカ”誕生秘話
2-1. 多国籍経験を持つ醸造家・ジャスパー・ラーツ
ロングリッジの醸造責任者であり、現オーナーのひとりでもあるジャスパー・ラーツ(Jasper Raats)氏は、南アフリカ出身でありながら、フランス、アメリカ、ニュージーランドなど海外でも豊富な実績を積んだ国際派。ニュージーランドではマールボロ地区のワイナリー「クロ・アンリ」で醸造長を務め、自身のブランド「Koru(コル)」を立ち上げた際には、当時“マールボロ最も高価なピノ・ノワール”と評されるほどの成功を収めました
(Cuvee Rika Reserve 2023 | Longridge)。
2009年前後にロングリッジに参画してからは、有機栽培のノウハウや世界各地の経験を活かしてワイナリー全体を刷新し、品質向上に大きく貢献しています。
2-2. “鉄の拳をベルベットの手袋で包んだようなワイン”
ジャスパー氏が手がけるピノ・ノワールのうち、とりわけ特別なのが「Cuvée Rika(キュヴェ・リカ)」。同氏が「まるで『鉄の拳をベルベットの手袋で包んだ』ような味わい」と表現するほど、繊細さと力強さを兼ね備えた一本です
(Cuvee Rika Reserve 2023 | Longridge)。
実はこのワイン名の「Rika(リカ)」は、ジャスパー氏の母親の名前に由来し、現地語で「小さなアフリカの一部」という意味を持つとも言われています。母への敬意と南アフリカの大地への敬意を重ね合わせた、まさに“家族と土地の物語”をボトルに込めたキュヴェなのです
(Cuvee Rika Reserve 2023 | Longridge)。
3. 「Cuvée Rika」ピノ・ノワールの醸造背景
“太陽と涼風が育む“チャーミング&力強さ”の絶妙バランス”
3-1. ステレンボッシュ地区ヘルダーバーグ山麓のテロワール
「Cuvée Rika」に使われるブドウは、ステレンボッシュ地区ヘルダーバーグ山麓の自社畑から収穫されます。海(フォルス湾)から5kmほどしか離れていないため、昼間は海からの涼風が吹き込み、夜間は山からの冷気が降りる、ステレンボッシュ内でも特に冷涼な区画です
(Cuvee Rika Reserve 2023 | Longridge)。
土壌は古代の花崗岩が風化した土に粘土質が混ざる特有の性質を持ち、水はけと保水力のバランスが優れているのもポイント。こうした環境下で、農薬や除草剤を使わないオーガニック栽培が実践され、収量もあえて抑えることで果実の凝縮感とエレガンスを両立させています。収穫はすべて手摘みで行い、完熟度や果実の状態を一粒単位で厳選する姿勢を貫いています
(Cuvee Rika Reserve 2023 | Longridge)。
3-2. 自然派志向の発酵と長期樽熟成
発酵
ワイナリーに運ばれたブドウは小さな開放式発酵槽で仕込まれ、野生酵母(天然酵母)による自然発酵を採用。培養酵母や酵素剤は使わず、亜硫酸などの保存料も極力抑えます
(Our Estate | Longridge)。
発酵中は1日数回手作業でやさしくピジャージュ(撹拌)し、色素や風味をゆっくりと抽出。こうしたクラフトマンシップが“自然でありながら濃厚”という両立を可能にしているのです。
熟成
発酵後はフレンチオーク樽で14〜15か月ほど熟成するのが通常の「Cuvée Rika ピノ・ノワール」。さらに限定リリースされる「Cuvée Rika Reserve」は、24か月(2年)もの長期樽熟成を施してより深みと複雑さを引き出します
(Cuvee Rika Reserve 2023 | Longridge)。新樽の使用比率はごく一部にとどめ、基本的には使い古した樽を多用することで、果実本来の風味を生かす方針です。
3-3. 味わいの特徴
「Cuvée Rika」は、グラスに注ぐとラズベリーやチェリーといった赤果実やスミレのようなフローラルな香りに加えて、ほんのりとカラメルやスパイスのニュアンスが広がるのが魅力。口に含むと、チャーミングな果実味がじゅわっと広がり、樽由来のヴァニラ香が繊細に溶け込みます
(南アフリカワイン|キュベ・リカ ピノ・ノワール 2022...)。
同時に骨格を感じさせるしっかりめの酸とシルキーなタンニンが舌を包み込み、甘さに頼らないピュアな味の伸びを演出。余韻には果実の旨味と、ほろ苦いニュアンスが長く残り、“もう一杯”を誘われるようなバランスを見せます。
まさにジャスパー氏が言う「鉄の拳をベルベットで包んだ」ようなスタイル。ピノ・ノワールらしい繊細さの奥に、南アフリカの太陽が育む力強い果実味が隠れています。
4. 幅広い料理とのマリアージュ
“鴨や豚肉、果ては伊勢海老まで楽しめる万能選手”
4-1. 鴨のローストや鶏肉の赤ワイン煮込みなど濃厚系との相性
ピノ・ノワールといえば鴨肉が伝統的に好相性。「Cuvée Rika」は華やかかつコクのある味わいを持ち合わせるため、鴨のロースト(オレンジソース添え)や鶏肉の赤ワイン煮込みなど、濃厚なソースともバランスよくマッチします
(南アフリカワイン|キュベ・リカ ピノ・ノワール 2022...)。
4-2. 幅広い食材への柔軟性
一方で、伊勢海老のテルミドール(ロブスターのチーズ焼き)のようにクリーミーな魚介料理や、ポークソテー、和食の鶏の照り焼きやメンチカツなどにも寄り添う懐の深さがあります。脂の乗ったマグロやきのこ料理とも好相性で、ピノ・ノワールの中でも特に“万能選手”と言えるでしょう。
5. 他のピノとの比較と意外なエピソード
5-1. ブルゴーニュと“南ア”の違い
ブルゴーニュのピノ・ノワールが酸味主体のエレガントさにフォーカスするのに対し、「Cuvée Rika」はもう少し果実の凝縮感としっかりしたボディを備えます。しかし「ニュー・ワールドっぽい重たさ」は感じさせず、絶妙なバランスを実現しているのが特徴。
醸造家ジャスパー氏自身が「南アフリカのピノ・ノワールとは思えない充実感」と語りつつも、決して厚ぼったくない“品の良さ”を誇っています
(Cuvee Rika Reserve 2023 | Longridge)。
5-2. “価格設定ミス”が招いた嬉しい誤算
実は「Cuvée Rika」が日本に初輸入された際に、ロングリッジ側が正規の出荷価格を間違えたために、本来5,000円以上で売られるワインが格安で流通してしまったというエピソードがあります
(赤ワイン キュベ リカ ピノ ノワール 2022 ロングリッジ : COCOS Yahoo!店)。
瓶の口には高級ワインに使われる“蝋封キャップ”まで施されているのに驚くほどお手ごろ価格だったため、輸入元も「もうこの値段で案内してしまったので…」と大量買い付けで特別価格を維持。それをきっかけに「安くて美味いピノ」として知られるようになりました。
とはいえ、専門家からの評価も非常に高く、プラッターズ・ワインガイド4つ星、ティム・アトキンMWから90点超など、単なる“コスパ良”では終わらない本格派です。
6. ロングリッジの哲学とサステナビリティ
“ブドウと時間以外は、極力足さない”
6-1. 有機栽培・ビオディナミへのこだわり
ロングリッジは、ワイン造りにおいて人工的な添加や化学薬品に頼ることを極力避ける方針です。自然発酵や無濾過を徹底するのはもちろん、畑にはアヒルや牛を放牧し、害虫や雑草対策を“生物多様性”のなかで完結させています
(Our Estate | Longridge)。
また、ビオディナミ農法特有の“宇宙のリズム”を重視し、太陽や月の周期に合わせて畑作業を行うなど、手間暇のかかる手法を惜しみなく取り入れ、オーガニック認証を取得しています。
6-2. 長期的視野で土地を守る
醸造家ジャスパー・ラーツ氏は「自然な方法こそが土地を守り、より良いワインを生む。174年続いてきたこの農園も、こうした農法を続ければあと200年はワイン造りができる」と語っており、目先の利益よりも持続可能性と品質向上を両立する経営を志向
(南アフリカワイン|キュベ・リカ ピノ・ノワール 2022...)。屋根のソーラーパネルやリサイクルシステムの導入など、環境負荷低減への取り組みも着実に進めています。
7. まとめ
“家族と土地の物語を、一杯に詰め込んだ南アフリカの逸品”
ロングリッジ「Cuvée Rika」は、
有機栽培&ビオディナミを徹底したサステナブルなアプローチ
ステレンボッシュ内でも冷涼なヘルダーバーグ山麓のテロワール
天然酵母発酵&長期樽熟成で引き出される豊かな風味
“母親へのオマージュ”というパーソナルなストーリー
──といった要素が重なり合い、繊細さと力強さを兼ね備えた逸品として高い評価を得ています。日本では輸入時の“価格設定ミス”がきっかけで、お手ごろ価格の“安旨ピノ”として話題を呼びましたが、実際の味わいは専門家にも絶賛される本格派。その潜在力ゆえに、過去ヴィンテージのいくつかはすでに入手が難しくなっているほどです。
もしピノ・ノワール好きで「南アフリカワインは力強いイメージしかない」という方がいれば、ぜひ一度この“Cuvée Rika”を試してみてください。エレガントながら決して軽すぎない、まさに“ベルベットに包んだ鉄の拳”の一杯が、南アフリカの新たな魅力を教えてくれるはずです。
参考リンク・引用元
(※リンク先の一部は、該当のハイライト箇所へ直接ジャンプする形で提示しています)
おわりに
ロングリッジは、南アフリカ・ステレンボッシュの温暖なイメージをいい意味で裏切り、「自然と人の営みを調和させる」という手間ひまを惜しまないアプローチで高品質ワインを生み出す存在です。
「Cuvée Rika」には、家族への想いと南アフリカの大地への敬意が詰め込まれており、その味わいは単なる“ビオワイン”の枠を超えた奥行きを感じさせます。もし手に取る機会があれば、静かにグラスを傾けながら、母へのオマージュや土地の物語にも思いを馳せてみてください。きっと、その一杯がいつも以上に特別なものになるはずです。