北海道コンサドーレ札幌戦マッチレビュー?〜青と夏〜
雨の季節がやってきた。
僕は雨が嫌いだ。雨が嫌いというか、手に持つ荷物が増えるのが嫌いなのである。
雨が降ると、強制的に傘を持つことになる。
傘を持つと、片手が塞がる。
これが嫌なのである。常に両手は空けておきたいのである。
別に両手が空いていても何かをするわけではないのだが、とにかく開けておきたいのである。
だから雨が降ると、かなり憂鬱になる。
雨が嫌いで嫌いでめちゃくちゃ雨を嫌い続けた結果、僕が外に出ると雨が止むという謎の能力を手に入れた。
そのため、僕は一般的なサイズの傘を持っていない。雨に当たらないため、折り畳み傘で十分なのである。
信じるか信じないかは、貴方次第。
そんなこと話はさておき、身につけた特殊能力が全然活かせなかったので、ずぶ濡れになりながら僕は等々力陸上競技場へと向かった。
なお、雨が本当に嫌いなのでギリッギリに等々力に向かおうと思い、数分単位で家を出る時刻の調整を繰り返した結果キックオフに間に合わなかった。全部雨のせいである。
………ここから試合の振り返りをつらつらと書いていけたらと思うのだが、先述した通り傘で片手が塞がってしまったため、カメラも無ければ財布すら家に置いて等々力へと向かった。
折りたたみ傘と家の鍵と特茶(最近ハマってる)を持ち、僕は夢の国こと世界最高ファンタスティックフットボールスタジアム等々力陸上競技場へと向かった。
想像以上に大雨でスマホすら出せなかったため、昨日撮ったまともな写真は下記の1枚なのである。
本来撮って載せたかった写真をこの1枚のみで頑張って表現していこうと思う。注釈はつけるので、是非みなさんの心で写真をイメージしてほしい。これは新しいチャレンジ。俺たちならきっとできる。書き物のセオリーをぶち壊していこうじゃないか。
さぁ、本日の世界最高ファンタスティックフットボールクラブ川崎フロンターレのメンバーは、GKソンリョン DF山根 谷口 車屋 橘田 MF大島 脇坂 チャナティップ FW家長 遠野 知念
橘田を左SBに配置し、大島脇坂チャナティップが久々の揃い踏みとなった。
得点までのプロセス
ゲームは早速、脇坂がチャンスを作る。
前半2分、ペナ角奥で獲得したFKのチャンス。相手の壁は1枚。GKは完全に合わせてくるボールを警戒しているように見えたセッティングを見てか、裏を描くように直接ズドン。
脇坂から放たれた魔法は、欲しくもクロスバーによって解かれてしまったが早速チャンスを作った。
(写真、こういう感じで出していきます。皆さんついてきてください。)
ゲームはこの一撃以降、お互いがイニシアチブを握ろうとする展開が続く。
大島僚太をアンカーの位置に据えたことで、恐らく川崎の選手たちは自信を持ってボールを受けることが出来ていたはずである。
何故なら、自分のところで詰まっても「大島僚太」というある種の逃げ道が確約されているからである。
実際にあの広大なピッチでサッカーをやっていると分かるが「本当はボールを受けられるけど、受けても潰されるから受けない方がいい」という心情の局面が自チームがボールを持っている時の約6割くらい。
しかし、すっとサポートに来てくれる選手が居ると「とりあえず詰まっても渡せば大丈夫だから、受けよう」という心情に変わる。その抜け道が大島僚太だったら。。。
そう。低い位置であろうと前を向いた状態の彼にボールを渡すことは「逃げ」ではなく「攻め」と言っていいであろう。
戦術的な側面ももちろんあるが、彼が中盤の底にいることで周りの選手たちは心理的にも優位に立てているはずである。
そんな中、ゲームは突然動く。
27分、札幌の攻撃。
ボランチの位置まで落ちてきた荒野を起点として組み立てると、1トップの興梠へ楔が入る。
興梠は1タッチで叩くと、1タッチでパスを繋ぎ一気にペナへ侵入。
駒井が送ろうとした斜めのパスは帰陣途中の大島僚太の足に当たり、青木の元へ。先制は札幌。
一見大島の足に当たってしまった不運なプレーにも見えるが、その前の荒野→興梠の縦パスの時点でこの失点は6割くらい約束されたものだったのかもしれない。
1タッチで相手の深いところへ侵入することで我が軍の目をずらして行くイメージを、全員が共有出来ているように見えた。
このゲームも追いかける展開を余儀なくされてしまう。
良くも悪くも時間がたっぷりと残されていたので、決して我が軍は焦るそぶりを見せなかった。
38分には家長昭博がキレキレのキープから菅のイエローカードを引き出し、心理的に優位に立てる状況を作り上げる。
札幌は我が軍のボールホルダーに対してタイトめに寄せて自由を奪うことを徹底していたため、イエローを引き出す作業はその後を考えても重要になってくる。
ピッチ上の戦い方でなく、カードの切り方も変えさせることに繋がる。こういうゲームでの家長昭博は恐ろしいほど冷静である。
そして41分、その冷静な男が結果を残す。
大島からやってきた上質な縦パスを受けた知念がターンをして前を向くと、自身の外側を走っていた家長にパス。家長は冷静に流し込み同点。
その前のイエローを引き出したところから、全てが繋がっていたように感じた。まさにストーリー仕立てのゴールであった。
ピッチの中で自由に動いていいサッカーという競技に置いて、プロセスはどうしても重要になる。そんなことを改めて感じたゴールであった。
しかし、雨に打たれた家長昭博、カッコ良すぎでは。
イニシアチブの奪い合いを45分続け、激しい消耗戦を予感させた前半は1-1で終了。勝負の行方は後半に持ち越しとなった。
これが、川崎フロンターレ。
雨足が一層強まった後半も、ゲームのテンションは変わらない。
我が軍に対して札幌は強度の差はあれど全員がきちっと前に立つ。しかし、我が軍横へのずらしを使い、縦パスの配給を何度も試みる。
攻め切るために多くのエネルギーとリソースを使う展開であるため、ボールを失えば一気に大ピンチ。中盤に防波堤を築けないため、一気にvs最終ラインといった展開が続く。
しかし、そんな我が軍にアクシデントが発生する。
55分、コンタクトプレー後に足首を気にした知念がピッチに倒れ込む。そのまま担架に運ばれて後退。
知念に替えて、小林悠が投入された。
知念と同じように最前線で起点を作らせるのであれば間違いなく定石は知念→ダミアンだったであろう。
しかし、鬼さんは迷うことなく小林悠を投入。
何となく、何となくではあるが、あの瞬間の等々力は小林悠を待っているような、そんな雰囲気であった。
一切迷う素振りを見せずに小林悠を呼んだところを見るに、鬼さんは勝負師の勘に掛けたのかもしれない。そんなシーンであった。
しかし、ゲームは思わぬ形で動く。
66分、古巣対戦となった福森のCKに合わせたのは荒野。再びリードを許してしまう。
70分を目前としてセットプレーから失点。一瞬、肩を落としてしまう選手たち。
しかし、ただ1人。ただ1人。獣のような目をしてセンターサークルでバカでかい声を出し、チームを鼓舞している選手がいた。
小林悠である。
この顔を見た瞬間「まだ大丈夫だな」と、そんな心境に陥った。
そして、まるで漫画のようにその小林悠が等々力に魂を吹き込む。
69分、家長を起点にして攻撃の形を作ると、脇坂の腿に当たったボールは小林の胸元あたりに。
迷うことなくジャンピングボレー。ボールはゴールに吸い込まれていく。
同点。小林悠のリーグ戦今季初ゴールで再び川崎が追いつく。
このゴールも、場面だけ見ればラッキー要素の強いゴールであった。偶然脇坂に当たったボールは小林悠の元へと落ちていき、決定機が訪れた。
しかし、僕はその前。失点した時の小林悠の表情が忘れられない。
まるでこの試合に全てを賭けていような、全力の鼓舞。
ギラギラと輝いている目。
小林悠の声を受け、仲間が少しずつ顔を上げていく。
まるで水溜りに太陽の光が差し込んで乱反射する様な。
カラカラの大地に一滴の水が滴るような。
大雨のピッチに、小林悠が生命を吹き込んだ。
こんなことを言っていいのか分からないが、僕はどこか約束されたゴールだったように感じた。
80分、ダミアンとシミッチを投入。
シミッチを投入することで、少し長いボールもちらつかせる交代となった。
シミッチが交代ゾーンに立った瞬間、大島が下がろうとしたがすぐさまシミッチが「コウタイ、オオシマジャナイヨ」と言わんばかりの表情。少しシュールなやり取りであった。
85分、相手のクリアボールがシミッチの足にあたり即興反動蹴速迅砲も、ボールはゴールを捉え切れず。
そのプレーの再開となったらゴールキック。短く繋いでGKに戻したところをダミアンが猛プレス。何と3度追い。執念である。
CBにボールが入ると、マルシーニョで引っ掛ける。
奪ったボールをダミアン、家長が狙うも相手が何とか防ぐ。そして家長のシュートのこぼれ球に反動したのは………
小林悠。小林悠。小林悠である。
泥臭く、ゴールに対する執念を燃やし続けた小林悠のゴールでついに逆転。
ゴール後の小林悠の雄叫びは、グッとくるものがあった。
今季はここまでリーグ戦の出場機会も限られ、苦しい期間が続いた。
見ている僕たちももどかしかった。歯痒かった。辛かった。
でも、きっと誰よりももどかしく、歯痒く、辛かったのは小林悠本人なのであろう。
まさに、言葉にならない雄叫びであった。
チームメイトが覆いかぶさる中、今までの想いを全てぶちまけるかの様な、魂から出てきたような声。
その瞬間、僕はとあるゲームがフラッシュバックした。あの試合も、曇り空だったか、雨が降っていたか。そんな日だった。
2017年、等々力で行われた仙台戦。
数的不利、1-2のビハインドを小林悠の2発でひっくり返したあのゲーム。
点を取った後、迷わずバックスタンド向かって走り出し、サポーターに向かって「見たかーーー!!!!!!」と叫んだ。
あのゴールの情景がどっと甦ってきた。
でも、決定的に違うのは小林悠がサポーターではなくベンチメンバーに向かって駆け抜けたこと。そして、言葉にならない言葉を叫んだこと。
僕には、得点を決めた小林悠がベンチに行かなければならない理由があったように感じた。
5年前、押しも押されぬ川崎の大エースだった当時から状況は変わったのかもしれない。チームはエースの活躍もありあれから6個のタイトルを手にした。
世界トップレベルを知っている選手や、有望な若手がチームには多く加わった。
きっと、いや恐らく。小林悠はすごく悩んでた気がする。
人生には答えの出ない悩みなんてものは沢山ある。モヤモヤを抱えたまま、情熱を失うことで解消していく方法を大人になると習得する。
小林悠は、それを良しとしない人間だ。
言ってしまえば、不器用だ。
でも、だからこそこうやって結果で解凍する。
「これが、俺の答えだ。俺の存在価値だ。」
言葉にならない雄叫びは、僕にはそう言っているように聞こえた。
だからきっと、彼はチームメイトの輪の中で、そう叫ぶ必要があった。
雨に打たれながら叫び続ける彼を見ていて、試合中だが少し涙が出てきた。
本当に不器用だ。不器用過ぎる。
それでも、その不器用さに。真っ直ぐさに。実直さに。僕たちは何度も心を打たれてきた。
そして今日も、そんな小林悠のゴールに。また力も貰う。川崎フロンターレが好きで良かった。小林悠が好きで良かったと。そう思うのである。
ゲームはこの後、家長昭博とマルシーニョのゴールを加え、終わってみれば5-2で幕を閉じた。
次節に向けて
3連敗を阻止し、久々の勝利を手にした我が軍。
今季は本当に楽なゲームが1つもない。全てが死闘。
4失点したゲームが3つもある。3点以上取ったゲームはこの札幌戦のみ。
それでも何故かワクワクしてしまうのは、川崎フロンターレにあるちょっぴり人間臭いところが好きだからであろう。
2017年から毎年タイトルを獲得しているが「絶対王者」と呼ぶにはまだまだ早い。
チームは生き物なんてよく言うが、川崎フロンターレほど「生きている」ことを実感できるチームもまた珍しいと思う。
このチームを応援できていることに最大限の感謝を込め、微力ながら後押しをさせて貰いたい。
等々力を後にする頃、気付けば雨は上がっていた。
「川崎フロンターレが好きで良かった。」
雨でびしょ濡れになったポンチョを脱ぎながら、何故かそんなことを思った。
そりゃ、チームが勝ってくれれば嬉しい。タイトルを取ってくれればもっと嬉しい。
でも、多分僕が求めているものってもっともっと根本的なもので、川崎フロンターレが在り続けること、週末等々力に足を運べること。それが何よりの幸せなんだろう。そう感じた。
人間は贅沢な生き物なので、満たされると幸せの水準が上がる。
だからこそ。僕は川崎フロンターレが在り続けてくれることが何よりの幸せということからはブレてはいけないと思う。
「こっから夏ですし、どんどんゴールを決めて行きたい」
ヒーローインタビューで小林悠が語った言葉。
夏が始まった合図だ。川崎に、全国でどこよりも早い夏がやってきそうだ。
小林悠、主役は貴方だ。
映画じゃない。僕らの番だ。