『性別「モナリザ」の君へ。』内でのターコイズブルーに関する考察 ver2
皆さんこんにちは。Fronと申します。
2022年12月12日
『性別「モナリザ」の君へ。』9巻10巻が同時発売されたことで、この物語は終焉を迎えることになりました。私自身それを待ち望んでいたようで、終わってみるとなんだか夏祭りが終わった後のような気持ちです。しかしながら、私は未だに燻ぶったような思いで一杯でした。何故なら……
ターコイズブルーが結局何を意味するのか言及すらされていない!!!
本作の良い所ナンバー1と言っても過言ではない(※私見)特徴的な色使いが単に演出上の物でしかなかったとしたら悲しすぎるので、今回はタイトルの通り、『性別「モナリザ」の君へ。』内に登場するターコイズブルーの意味に関して焦点を当ててどうにか意味を見出そうと考察したものになっています。
そのため、いくつか注意事項があります。
原作(漫画)1~10巻(全巻)までの情報を含みます
・私自身の独自解釈があります
・↑のため、現時点での暫定的な解釈や誤謬を含む可能性があります
また、あくまでも本編を一通り読んでいる方を想定して執筆しています。勿論考察を行う上での内容に関する説明は適宜行いますが、とても表面的な物なのでまだ原作を読み切っていない方は閲覧をオススメしません。こちらの先駆者様の記事を見てからの閲覧か(私自身もnoteを書く上でとても参考になりました)、原作に目を通した上での閲覧を強くオススメします。
以上の事を踏まえたうえで、見ていって下さい。それでは、始めます。
2023/1/9 ver2を公開。3と補足1を大幅に加筆&修正した上で補足2を新設しました。
1.準モナ・リザ症候群とターコイズブルー
さて本題に入っていく訳ですが、本作では先ほど述べた通り二色刷りが採用されています。普通の漫画は白黒ですが、そこにターコイズブルーが追加されている訳です。いいですよね。ひなせの透明感が表現されてて素晴らしい。……でも、ここではその意味にフォーカスしたいのでやめておきます。はい。
その中でも、ひなせが特にターコイズブルーの使用頻度が高いのは原作を読んだ方なら言うまでもないでしょう。実際原作1~8巻を通して有馬ひなせの瞳の色はこの色で統一されていますし、他の人物がターコイズブルーを使用している描写は一場面に留まっています。(5で言及しますが、この辺の話はかなり曖昧です)
ここで私が問いたいのは、「何故ターコイズブルーの使用はひなせに偏っているのか」という事です。ここで参照したいのは、主に7巻におけるリザの存在です。
ここで初めて、ひなせ以外にも恒常的にターコイズブルーを使用している人物があらわれます。ひなせと同じ準モナ・リザ症候群を生じているリザにターコイズブルーが用いられているのは明らかなヒントでしょう。つまり、「何故ターコイズブルーの使用はひなせに偏っているのか」という問いは単にひなせの登場回数が多いからであり、準モナ・リザ症候群を生じている人には少なくとも共通して見られる色であるという推測が立ちます。……準モナ・リザ症候群自体とても稀な症例なので、固有といってもほぼ差し支えないとも言えますが、あくまでも厳密な話です。
9巻における性成期を終えたひなせを参照すると、この推測はさらに補強されます。この時点でのひなせは既に準モナ・リザ症候群から脱して性別を持っているので、準モナ・リザ症候群を乗り切ったからターコイズブルーを失ったと解釈できます。(9~10巻は後々様々な論点が生まれたのですが、それは後述します)
2.準モナ・リザ症候群=無性?
では、その準モナ・リザ症候群とは何なのでしょうか?しかしながら作中それが語られる事は少なく、断片的な情報しかないのが現状です。
作中の性別に関する説明を箇条書きにすると、
通常は12歳付近までは無性のまま過ごし、その後ホルモン値が変化することで男性、女性のどちらかに移り変わってく。(大体はその人の意思に沿って変化する)
恋愛がホルモン値に影響を与え、それが性別の変化に影響を与える可能性がある。
今のところ無性のまま20歳を超えた人は確認されていない。(死因は事故死、病死、他殺、自殺、衰弱死等様々で、それらが無性であることと関連があるのかは事例があまりに少なすぎる為不明)
以上のようになります。それを踏まえた上で、準モナ・リザ症候群は『12歳を超えても未だに性別の変化がない症例』と言えます。
また、ひなせは少なくとも二人の告白を受ける前までは性的欲求や恋愛感情が一切なかったことも言及されており、作中ひなせはリザの死亡(18歳5か月)によって、世界最年長の無性者です。
では、ひなせは身体的に無性で、精神的な性別についてもまた無性なのでしょうか?私はここで、一つの仮定を置きたいと思います。それは、ひなせは精神的な領域では無性(男性でも女性でもない)ではなく、むしろ両性的であると捉えた方が適切ではないか?という事です。
私がそう考えた理由は、2巻におけるデートの際の服装です。
上はりつとのデート、下はしおりとのデートの時のひなせの服装です。ひなせは無性であるが故に基本何を着ても似合う(文化祭でのメイド、執事のコスプレが顕著)のですが、2巻におけるこれらのシーンでは上では男性的な、下では女性的な服装に寄っているように見えると共に、ひなせは自身を無意識に異性愛者として想定していたのではないかと考えられます。
(これに関してはひなせが、というよりもこの作品の登場人物の多くが自身を無意識に異性愛者だと捉えているようです。作中の世界観における性別の見方については、本筋から逸れてしまうので別途補足を用意しました。興味のある方は是非ご覧ください。)
確かに、1巻後半でりつもしおりもひなせを異性にしようと躍起になっていたので、2巻でのデート時はひなせが自信を異性愛者だと思い込んでいたから、というよりはひなせがそれに配慮した側面が強いのかもしれません。
しかしながら、5巻でひなせがあおいに指摘されて初めて自身の向かっていく性別と告白の返事を切り離すことが出来た所を考慮すると、ひなせにも元々そのような価値観があったと考えてもおかしくないのではないでしょうか。
無論衣服の選択は原理的にはひなせの好みではありますが、男性と女性のジェンダーの両方を無意識に持っていて、それらの影響を大きく受けたと考えるのは難くないでしょう。すなわち、異性愛者としての価値観からりつに対しては男性の、しおりに対しては女性のジェンダーが‟優位に”働いているという事です。
あくまでも‟優位”なので、確実にどっちだという訳ではありません。これは8巻におけるひなせの性別に関する考えと大体同じものですね。
3.性の接触としてのターコイズブルー
引き続きひなせ、しおり、りつの幼馴染み三人へ主に焦点を当てながら、ターコイズブルーについての考察を深めていきます。
この場面のように、ひなせがしおりやりつと接触した際にはターコイズブルーのモヤが必ずと言って良いほど出現します。単純にひなせの色が移っただけとも捉えられるのですが……
このように、ひなせがしおりに触れられた場合においてもこの描写は発生しました。なので、これは移ったというよりは単に「接触」によってモヤが発生していると考える方が自然でしょう。では、ここでの「接触」とは具体的に何の接触を示しているのでしょうか?
ここで参考になるのは4巻におけるたまきとゆうくんの描写です。この二人は現在進行形で交際しており、現代の一般的なカップル像として描かれています。この二人の周りにターコイズブルーが用いられているところからも、恋愛とターコイズブルーは比較的近い距離にあることが推測出来ます。しかしながら、それだとひなせやリザの瞳がターコイズブルーで彩られている事に説明が付きません。この仮説ではナルシストのようになってしまう上、ひなせにいたっては恋愛感情が分からない段階でさえ瞳の色は今と同じです。
私はこの閉塞した問題を打開するために、2において述べた準モナ・リザ症候群は単に無性(男性でも女性でもない)ではなく、両性的であるとという解釈に立ち戻って考えました。すなわち、恋愛感情と性別を結び付けて考えるという事です。
簡易的ではありますが、ひなせと幼馴染み二人の関係図です。ひなせの中にある性別なき性自認、要するに無性であるひなせの中での右往左往する性自認がしおりとりつに対して相互反応することでターコイズブルーが生成されると考えました。そして、ひなせの中にある男性と女性同士もまた反応することでターコイズブルーを生成しているのです。
この仮説ならたまきとゆうくんのような一般人同士の恋愛においてもターコイズブルーは生成しうるでしょうし、友人間での接触なら性別をさほど意識しないと思われるので問題なく解釈出来ます。
2巻におけるちあきから見たひなせの描写はまさにその典型例です。クラスメイトという関係で、ちあきはひなせへ性別を見出そうとしなかったのですが(あくまでも無性として扱っていました)ひなせに女性を見出した瞬間、ターコイズブルーが煙のように広がっています。これはちあきとひなせの「接触」と言って差し支えないでしょう。
4.異性愛と同性愛の置換可能性
さて、ここまで性別を主軸に置いたターコイズブルーの解釈を展開してきました。しかしながら、それらは便宜上あくまでも異性愛を前提にした考え方です。ここからは9~10巻で描かれた同性愛の関係性を視野に入れながら軽く話していこうと思います。
この他異性愛verにおいてもあくまでも交際からある程度時間が経っているからか、普段の接触では発生していません(いつまでも初心ではないということですね)。しかしながら恋人としての場面、すなわち性別の「接触」があると思われる場面ではターコイズブルーは用いられています。
ここで読み取れるのは、何も性別の「接触」は異性である必要はないということです。つまり、3で上げた図はこのように直すことが出来ます。
5.解釈不能だった部分について
文字通り、ここでは1~4まで広げてきた解釈では解釈しきれなかった物について簡単な紹介だけしようと思います。(本来こういった物はあってはいけないとは思いますが……)
これら場面におけるターコイズブルーの使用は、明らかに私が今まで展開してきた解釈にそぐわないものです。上の方とか恋愛感情がそもそも存在しない上にりつに見出しているのは性別というよりは無性時代の面影ですし……
私自身どうにかしてこれを落とし込めないか苦慮しましたが、どう考えても最初に述べていた「単に演出としての使用」という側面も否定できませんでした。私的にはこれはある種のダブルスタンダードなので納得出来ていないのですが、ここでは例外として、ざっくりと「心が通じ合っている時にも使われやすい」と言及するだけに留めておこうと思います。
おわりに
では、ここまでの話を簡単にまとめます。本編はここで終了ですが、興味がある方は是非補足1と2も見ていって下さい。
ターコイズブルーは主に性別の「接触」によって生じる。
↑は異性、同性ともに生じることがある。
性別を無意識下に置いている時(友達間や普段の生活での恋人など)は性別の「接触」が起きないので、ターコイズブルーは生じない。
単に演出としての使用も見られる(そもそもの解釈が違う可能性が高いですが…)
編集後記
さて、やっと一段落した所でここからは編集後記的なものを書いていこうと思います。まずはここまで拝読ありがとうございました。このような考察を交えた記事を書いたのは生まれて初めてでしたが、初めてなりに出来るだけ見やすく、面白く書くように努力したつもりです。
私自身最初はこのような形に残すつもりは毛頭なかったのですが、ネッ友に「どうしよう、9~10巻を見てたらターコイズブルーの解釈が分からなくなってきた……しかもネットに私の考えと近しい人が見当たらなかったんだよね~」と愚痴った所「それなら、お前が先駆者になるんだよ!」という言葉を(有難く)受け取ったので、この記事が一応の完成を見ることができました。この記事の執筆を通して、改めて『性別「モナリザ」の君へ。』への愛着を確かめることが出来ました。
また、今回解釈不能だった部分は私の解釈が不完全だからだと信じているので、別の方がそれを包括した解釈を展開してくれることを願いながら、編集後記としたいと思います。ありがとうございました。
質問、感想、指摘等お待ちしています。
補足1.リザとひなせの話
ここからは余談というか、本題とは直接かかわりのない事を話していきたいと思います。
作中、リザとひなせはどちらも準モナ・リザ症候群の患者であり、ひなせにとっての先駆者的存在です。しかし、その考え方はかなり異なります。
2において、ひなせは『異性愛者としての価値観からりつに対しては男性の、しおりに対しては女性のジェンダーが‟優位に”働いている』と述べました。しかし、それとは対照的にリザはジェンダーをその場のTPOで変えてしまう程度にはこだわりがありません。実際彼氏が三人、彼女も二人(本人曰く『ここ(パリ)に来てから』)いるという事で、無性ライフを存分に満喫しているようです。
ここで注目したいのは、リザは相手の要請するジェンダーに対して割と寛容だという事です。勿論上で述べているように基本的にはフリーなのですが、それはあくまでも基本原則的な物で、ナオ(引用内で登場している黒髪ロングの女性)の要望にもすんなり合わせてる辺りそういうことはよくあるのでしょう。リザは少なくとも自分が良ければそれでいい、といった性格では無さそうです。この辺はひなせと似通っていますね。
では、ひなせは何故リザのような生き方を選ばなかったのでしょう?自殺は一旦置いておいても、そのような生き方を選択しても問題なかったはずです。……これに関しては誠に身勝手ではありますが、ひなせの性格としか言いようがありません。
また、このような根っこを探る話は往々にして後出しじゃんけんの様な物で、そこには大きな『if』が混ざっています。ひなせがリザのような生き方をしていたら、しおりも、りつも、ひなせに惚れなかったかもしれないし、どちらか片方だけだったかもしれないし、それはそれで二人ともアリなのかもしれません。それについて私たちには全く計り知れない事なのです。なのでここでは簡単に、生き方or性格の違いということにしておきます。
リザの作中の役割は畢竟ひなせにとって同じ境遇にありながらも、悲観的になることなくエンジョイして生きていたという事に尽きるのではないでしょうか?
(もし仮にひなせがリザのような立ち振る舞いを急に始めたら、真っ先に私が解釈違いで吹き飛んでしまいそうです)
補足2.作中の世界観における性別の見方について
この世界では2で言及したように、通常は12歳付近までは無性のまま過ごし、その後ホルモン値が変化することで男性、女性のどちらかに移り変わっていきます。しかしながら、その割にはあまりにも今と世論が変わらないのです。
普通に考えて、12歳(小学6年生)まで無性だとしたらもっと性的マイノリティへの理解や男女差への理解があってもいいはずです。
何故なら、初恋の平均年齢は男女ともに12歳よりも幼い時期に起きることが多いからです。つまり、割合多くの人が「無性期に惚れた相手が同性になってしまった」という体験をしていても良いはずです。その場合、考え抜いた末に「同性でもいいから付き合いたい」(同性愛)と考える人が現代より多くいても、ましてや「性別なんて後から勝手に決まった物なんだから気にしない」(バイセクシャル)という人が多くいても何らおかしくありません。
……まぁ、結論から言ってしまうとこの問題に関しては作者も分かっていたようで、むしろ、モナ・リザや虫めづる姫君の話も出ている辺り作者も相当悩んだのでしょう。元々性別「モナリザ」の君へ。は電子コミック出身の漫画ですし、設定に忠実にこだわりすぎても却って敬遠されてしまいかねませんしね。
作者的にはむしろ、そんな細部よりもひなせやひなせを取り巻く人たちがどのように考え、行動し、成長していくかに注目して欲しかったのではないでしょうか。
以上本編とは関係のない、だけど触れてはおきたかった補足でした。
改めて、ここまでの閲覧ありがとうございました。
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