9.COSET
単収は栽培方法に大きく影響される。一口にトマト栽培と言っても、その栽培方法は様々である。
中でも通常スーパーで販売されている大生産地のトマトの多くは、収穫量を重視した「長期多段取り」という栽培方法で生産されている。
この栽培方法では、8月中旬に苗を植えて、11月頃から収穫を開始、翌年6月まで収穫する。1000m2あたり大玉トマトで年間約20トン、熟練農家で25トンを生産している。
長期にわたって茎や葉の成長と、果実の成長のバランスをとりながら病気にならないように管理するため、高度な栽培技術を必要とする。且つ、温湿度を適度に保つための設備、二重被覆や遮光カーテン、循環扇等を必要とするため、初期コストも高くなってしまう。
ただ、収穫量は多い代わりに糖度を上げることは難しくなるため、価格がどうしても安くなってしまう。その上、量が沢山取れるので販路もその分確保しなければならない。
事業を始めた当初は、上記の長期多段取りを目指したのだが、この福岡県で普通のトマトを作っても収益を上げるのは難しいとすぐに気づいた。
隣の熊本県がこの長期多段取りによる日本一のトマト生産地であるため、売り場にはトマトが溢れているのだ。
こうなると多勢に無勢で、環境に優しい方法で作っている「普通のトマト」は残酷なまでに価格競争に巻き込まれてしまう。
環境に優しいだけじゃなく、まずはトマトそのもので勝負出来ないと話にならないのだ。
そこで、取り組んだのが低段密植栽培である。
長期多段栽培では15段〜20段(トマトは一株あたりの果房の数を段数で表す)程度収穫するが、低段密植栽培では2~4段程度しか収穫しない短期間の栽培方法である。
その代わりに長期多段栽培の2倍の密度で苗を植え、一年に3回作付けすることで、収量を確保するのだ。
更に水を控えて育てると甘みが増すトマトの性質を利用し、水を極力少なく抑えて栽培することで味を向上することができる。
水を抑えることで成長も抑制されるが、短期間の栽培に特化することで成長の抑制は問題にならない。
味が良くなることで、他のトマトと差別化が図れるため、単価の上昇にも繋がる。
このように多くのメリットがある栽培方法だ。実際に、この方法で栽培し味は格段に良くなり、一作あたりの収量もある程度達成できた。
しかし、台風のリスクを避けるため、台風シーズンの栽培をしないとなると年2作が限界となる。年3作で収益が成り立つこの栽培方法では収量が足りない。
このため、一作あたりの栽培密度を1.5倍にする必要があるのだが、これ以上通路幅を狭くすることも、株と株の間を狭くすることも出来ない。
ではどの空間を使うのか?もう空いているところは今栽培しているトマトの下しかなかった。
現状は高設ベッドと呼ばれる腰の高さ程の棚に培地を設置して、トマトを栽培している。これは、栽培時の作業負荷を軽減するためなのだが、逆にベッドの下にデッドスペースが出来ることにもなる。
このスペースを活用し、2段ベッドで栽培しようと考えたのだ。
さらに作業負荷を極力抑えるため、本数は上段の2/3に抑え、収穫の手間が少ない大玉トマトを育てることにした。
我々はこの新しい栽培方法をCOSET(Cultivation Optimized Space, Energy & Time)と命名し、実用化を目指している。
この我々の事業の鍵を握るCOSETは現在試験栽培中である。課題は都度発生しているが、一つずつクリアしながら前進している。