もやもやもや
2023年3月6日(月)
「ママ、15分遊びしよう!」
ノコ(娘小3)が誘ってきた。
繰り返しが大好きな子どもの遊びは終わりが見えず、特に夕方の家事に忙しい時刻だと軽く「いいよ」といえない。そんなとき「15分遊び」を知った。とにかく15分間は集中して子どもと向き合う。片手間に家事をしたり、スマートフォンを見たりしない。
15分という終わりがあるから、子どもが提案する摩訶不思議なルールの遊びにもつきあえる。
だけど、今日のノコはまだやるべきことを済ませていない。
学習塾の宿題(5分の時間制限あり)とピアノの練習だ。
「遊ぶのはそれが済んでからね」
ノコにいってから、今夜の献立を思い出す。少し手間がかかるのでいつもより30分早くはじめたい。
「今日は4時半には夕飯作りをはじめたいの。だから、ママと15分遊びをしたいのなら、その15分前、遅くとも4時15分までには遊ぶ準備を済ませてね」
私としては、ノコに時間の計算をまかせず、4時15分までにと伝えたのだから丁寧だと思う。
ノコは「わかった」といったものの、すぐにやるべきことにとりかからない。
ソファーに両手をついてポンポン跳ねたり、目にとまった漫画本を開いたり、どこまでもマイペースだ。時間ギリギリをせめるつもりなのか、私は心配になってしまう。
ノコがおもちゃを並べはじめる。15分遊びはケーキ屋さんごっこのようだ。
準備までを15分に含めてしまうと、遊ぶ時間が短くなるため準備を終えてからキッチンタイマーを押すことになっている。
ぷつぷつつぶやきながら、ノコがケーキ屋さんの店を設置し、ケーキの材料をそろえる。
壁にかかった時計を見ると、4時15分を過ぎている。
15分遊びではなく、ひとり遊びになったのだろうか。念のため声をかける。
「4時15分過ぎたけど、大丈夫? ママは4時半になったらお夕飯を作るよ」
ノコは時計を見上げ「ヤダ!」と叫ぶ。
「4時15分までに準備を済ませてねっていったよね?」
「ヤダ!」
「準備ができたら教えてくれないとはじまらないよ。4時半までなら遊べるから遊ぼう」
「ヤダ! それじゃあ、15分遊びじゃないじゃん。15分遊ぶ!」
ノコが怒って立ち上がり、ケーキ屋さんのメニューを床に投げつける。紙は軽くて、ビシッと叩きつけられず、途中からふわっとあさっての方向へ滑っていった。それが気に食わなかったのか、ノコはソファーを蹴っ飛ばす。
「4時半までね。ママ、きちんと説明したよ」
「15分遊ぶ!」
地団太を踏んでノコが怒鳴る。
「30分までです」
「15分遊ぶ!」
「30分までです」
このやりとりが延々と続きそうなので、ノコにいう。
「そういっているあいだに30分になるよ」
「大人ってズルいよね、勝手にルール作って!」
思い通りにならないと、すべてノコにとっては「勝手なルール」のようだ。
「最初にママはお話したよ。今日はお夕飯を早く作りはじめたいから、遅くとも4時15分までに遊ぶ準備を済ませてねって」
ノコは怒ったまま、ケーキ屋の店員になる。メニューを投げて寄こした。
こんな状態でも遊ぼうとする精神もすごいが、こんな態度の悪い店員がいるだろうか。
私は眉をひそめて、見えない連れに向かって小声で話す。
「なんかここの店員さん、怒ってない? ほかのお店に行きましょうよ」
ノコが慌ててひきつった笑みを浮かべてメニューを拾う。
「メニューをどうぞ」
「あら、いらっしゃいませもないのかしら」
「い、いらっしゃいませ」
これから訪問する家のお子さんが今日誕生日だとわかったので、急遽手土産をお誕生日ケーキにしたいから急ぎ作ってほしい、と伝える。
4時25分に遊びがスタートしたから、正規の15分遊びならば4時40分までだ。4時半にぶつりと切り上げるのも不憫でついケーキが出来上がる4時33分まで相手をした。
「はい、おしまい」
そういった途端、ノコは「ママ、テレビ見ていい?」という。
私としては癇癪を起こせば願いが叶うと誤った学習をノコにしてほしくないので、ノコが怒鳴ったり、地団太を踏んだときこそこちらが折れないようにしている。
3分とはいえ、私としてはおまけしたつもりだ。
でも、あっさりと気持ちをテレビに切り替えたノコを見ると、不安になる。
遊びの途中であっても4時半でバッサリ中断したほうがよかっただろうか。不機嫌なしめくくりになったとしてもそのほうがよかっただろうか。
懲らしめたいわけじゃない。だが、ノコを見ていると一連の流れがわかっているのか、また同じことを繰り返しそうでもやもやする。