隣の土地は借金してでも買え
父方の実家の隣の土地を、母方の祖父が買った。正確には隣でも何でもない。嫁いだ娘の嫁ぎ先の隣地を突然私の祖父が買うと言い出したのは、2015年ごろのことでした。
今にして思えば、ここには祖父の戦略があったような気もしている。
東京のおじさん
私には、叔父がいます。母の弟です。10代から東京にいて、フーテンの寅さんのような人です。独身ということもあり、叔父に対して東京から福岡に戻ってきてほしい、という期待が祖父にはあったのではないかと思っている。いずれにせよ、私の両親と弟とが住む桂川の家の隣を、母方の祖父が購入した。
買ってどうするの?という話なわけですが、祖父母の痴ほう症や介護が少しずつ大変になりつつあり、母が桂川と戸畑を車で1時間以上かけて行き来していたことも事実でありました。痴呆症が進み始めている祖父母の介護のための住宅の設計が進むこととなったわけです。
平面図
結果的に、この住宅は費用のメインを叔父が支払い、私も一部を出資することになりました。ただ、その段階では叔父が住むという話には至らず、あくまで祖父母の介護のための設計となった。とはいえ、この段階で二人とも80歳を超えていたので、何年使うのかははっきりしない。
工夫①取り外し可能な壁
思い切って主寝室を家の中心にする考えとしながら、主寝室周辺の壁は後々完全に取り払ってワンルームに変更できる構造が採用されました。将来性を担保することで、家の中心に寝室があり、文字通りその周辺に動線や家族の個室が配置され、祖父母を見守るような配置計画になっています。叔父がいつ福岡に帰ってきてもいいように、主寝室の脇には叔父用の個室と書斎が設けられています。
工夫②母にも対応可能な設計に
この隣に、私の両親と弟が二世帯で暮らしていることは既に述べました(詳しくは、前回の記事を参照ください)。弟が当時独身であったため、将来結婚するようなことがあった場合には、新しく設計している住宅の方へ母が住むことも考えられる。母は少しふくよかなタイプであり、将来足が悪くなることはほぼ確実。祖父母の介護ができることをメインの目的としつつ、母が使うことになった場合にも対応できる。扉などの寸法形態は車いすでも通過できるように、トイレはかなり大きく設けています。これはまさに、「隣の家は借金してでも買え」と言われる理由で、家族のどんなシチュエーションに対しても、隣同士に二つの家があることは活きてくる可能性があるのです。
工夫③屋根の工夫
平屋ですが、天井の操作が加わっていて、主寝室を囲うように配置された三つの部屋は、天井高がかなり高くなっています。主寝室は採光面の心配がされたので、天窓を設けました。
その後、現在に至るまで
下の二世帯住宅で弟と両親が住みながら、上の住宅で祖父母が住む状態がしばらく続きました。実はこの段階から、戸畑にある(仮称)牧山テラスは空き家の状態になっています。(そう考えると、じいちゃんが突然隣地を買った行為が、現在につながっています。)
しばらくしたら東京に住む叔父が病気をしてしまい、一人では暮らせない状態になったとの一報が。。結果、東京を離れ九州に戻ることになりました。もちろん、戻る場所は生まれ育った北九州ではなく、嘉穂郡桂川町です。叔父からしてみれば、「なんで俺が嘉穂郡で暮らさないかんのや」の思いがあったかもしれません。奇しくも上の住宅で、叔父と祖父母が約50年ぶりに親子生活することになってしまいました。母は、隣に住む自分の弟と自分の両親のケアをしながら生活をする状態に。
そうこうしているうちに、祖父母がなくなりました。そのうち、私の弟と両親の二世帯住宅状態は自然と解消され、現在では私の両親が上の住宅で暮らしています。そうしたところ、弟が結婚し、子供が生まれ、下の家で暮らす孫をみんなで見守る生活に。
昨今、核家族化が進み、自分のように親元を離れて生活をする家族はたくさんいます。そんな中、三世代が絶妙に絡み、支えあって暮らすなんともフレキシブルな住まいが、私の実家である「桂川の住宅」です。ちなみに私が帰省した時に泊まる部屋も、状況に応じて都度変化しています。
最初から二つの敷地で設計したらこんなことにはならないのに、その都度その都度最適解を考えながら進めることで、結果的にはこれ以外の状態が想像つかないことがある。実に面白い経験です。亡くなった祖父の狙いがこんなところにあったのか、それは今では誰も知ることができません。
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