廣瀬悦子さんという建築家がいます。この方との出会いは、2003年でした。大分県の蒲江町という場所で行われた廃校利用についてのワークショップがあり、当時学生だった私はあてもなく参加をしました。まだ、リノベーションとか、SDGsといった言葉が一般に使われる前でした。青木茂さんという「リファイン建築」を掲げていらした建築家が主催するイベントで、廣瀬さんはそのイベント側のスタッフのような形で参加をされていました。しかもたまたま、大学の先輩でもありました。
その後、私が建築家の設計を主軸に置く会社に就職し、業務で廣瀬さんが勤務する設計事務所に相談をすることになり、そこで再会した記憶があります。その後はプライベートで飲みに行くこともありました。特に、近年は設計から軸足を離されている様子がなんだか楽しそうで、個人的にお声かけをして、たまに思い出したら、最近何をしているのか、情報交換をしていました。
シモノゲ共作所
(仮称)牧山テラスの見積もり中に、廣瀬さんが最近いくつか運営にかかわっている「シェアオフィス」「マルシェ」という単語が引っかかり、連絡をしました。忙しいところお時間を調整していただき、川崎市の武蔵新城駅の、シェアアトリエをご案内いただきました。
色々と、試行錯誤しながら現在に至っているそうで、当初想定していたことが実現できていることもあれば、予期しなかった発見もあるそうで、その辺りを実際に体験することができました。
自分の世界に没頭する「作業場」を求めている人はたくさんいて、それが自分の住む家やマンションでは実現できないことがある。考えてみたら当たり前のことですが、そのための施設は意外に少ないそうで、「シモノゲ共作所」は基本的には満室運営しているようでした。需要があるそうです。
しかも、金額の設定だけを見ると住むことを前提にした賃料と比べると幾分か高いようにも見える。実例や常識がまだ構築されていないジャンルなだけに、クリアしないといけないポイントはたくさんあるのでしょうが、その分やりがいもある施設形態だと思います。
廣瀬さんのシモノゲ共作所に遊びに行ったのが2023年7月。その後、初回の工事見積もりがオーバーし、方針転換を迫られる中で、工事費そのもの・設計仕様の変更だけでなく、全体の方向性も修正が始まりました。元の建物が住宅なので、住まいという基本的な性能は変えない中で、実際の機能としては工房やアトリエ方面へ修正する方針となりました。
修正案の提示
2023年11月ごろに、セルフ解体の結果荷物が無くなってかなりスッキリした状態確認と、見積もりの結果を受けた岩井くんによる施工会社とのヒアリングと、アトリエ方面の方針転換を組み込んだ設計案をご提示いただきました。
外壁の更新範囲を大幅に修正し、足場を使わなくても済む工事内容としました。水回りについては基本的な位置は変えない方針とし、考え方としては、「リフォーム」に近いものに修正しています。「リフォーム」という単語を使うだけで、工務店の受け取り方に影響が出て、安く見積もりが出ることも期待しつつ。笑
第一案では、内装は構造体以外はほぼ撤去して、天井高の高い空間を作り出すことや、解体して出てくるイレギュラーな要素をむしろ積極的にアウトプットに取り込んでいく方針でしたが、今回の案からは撤去する範囲を出来るだけ縮小しました。
このことは、実際に自分たちでDIY解体を実施してみて、物の搬出入の大変さが身に染みてわかったことも影響をしています。
また、今回の案から、見積もりは相見積もりで進める方針に変えました。特命で進めていたE社が尻込みしている雰囲気もあり、岩井くんに2社追加していただき、3社相見積もりで進めることになりました。
概算見積図面
翌2024年1月、概算見積もり図を確認。ほぼ現在の案に近しいものとなっています。
最終的には、アトリエ部分は5室となっています。初期案の時から、ガルバリウムの大波板の提案をとても気に入っていて、その部分はどうしても諦めきれず、減額しなければいけない状況ではありましたが、ガルバリウムの範囲をむしろ室内まで拡張してもらっています。ホール部分は、庭とのつながりを意識するため、床の高さは床レベルとほぼ揃えていて、アトリエ部分に入るには一段上がって小上がりのようになっています。また、外壁についても、中庭に向けた部分の外壁はガルバリウムの大波板を残しました。一面だけでも、「変わったな」と思わせる部分を残したくて。。
古い柱や古い天井はそのままとし、外壁材であるガルバリウムの波板が室内へ挿入され、古い素材との融合を肯定的に捉えることにしました。とにかく、解体・撤去が大変(お金がかかる)なので、古い建具を肯定的に捉え直し、使いまわせるものは使い回すこととしています。ただし、この部分は、実際に使ってみて不具合があれば、撤去して更新する必要はあるだろうと、心の中では覚悟をしています。ただ、色々と見学させてもらったリノベ案件では、多くの場合で古い建具の再利用がされており、「先輩たちが何とかなっているのだから何とかなるのでは」と過去の事例をベースに心を落ち着かせている部分でもあります。
「街の今、街のこの先」を作り出すこと
廣瀬さんのWebページに書いてあるテキストです。これを実際に自分で実践してみること、実践する中で修正して何かの形に残していくこと、その大切さは身に染みます。
新築の建築だと、コンセプトや設備構造との連鎖は必須項目で、作り手側との連帯や協業も大切です。もちろんその大切さや意義は心に抱きつつ、予定不調和的に周辺の環境との調整を図ったり、周りの住民と施設の使い手との関係性を考えたりする「小さな一歩」も大切だと思いたい。悪くいうと場当たり的であっても、今できることを実行すること「自体が大切」だと自分に言い聞かせて、先輩の真似をしながら、(仮称)牧山テラスはアトリエ・ものづくりのためのスペースへと方針が変わってきました。2024年初頭の出来事です。
FromFactory KITAKYUSHU - 住むこともできるシェア工房
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