今、ChatGPTの使い方を学ぶのは、効率が悪い?
今、ChatGPTの使い方を学ぶのって、効率悪くないですか?
今のChatGPTが抱えている問題を回避するためのハックをいろいろ覚えても、そんな問題の大半は、今後のバージョンアップでどんどん克服されていっちゃうんじゃないですか?
初期バージョンの抱えていた問題点の多くが一通り改善した後にChatGPTを使い始めた方が、無駄足を踏まずに、本当に必要なノウハウだけを、効率よく学習できるのでは?
また、今、ChatGPTの使い方のWeb記事を読んで学習しても、そこに書かれているノウハウって玉石混交じゃないですか?
1年後、2年後にその記事を読み返したとき、そこに書かれていることの大半は、重要度の低いことだったり、ピント外れだったり、意味のないことだったり、間違いだったりすることが判明することになったりしないでしょうか?
だって、それらを書いているのは、まだChatGPTの経験が浅く、理解度の低い人たちなのですから。
1年後、2年後に、ChatGPTで大量の試行錯誤を行ってがっつり使いこなしている人が書いた、素晴らしい入門書が出てから、その本でChatGPTを学習した方が効率よくないですか?
もちろん、これは職種や業務内容によります。
たとえば、今のChatGPTでも、ある種のプログラミングにはめちゃくちゃ役に立つことは明らかなので、プログラマーの中には、今すぐChatGPTを使い始めないと、機会損失が大きすぎてしゃれにならないという人は多いでしょう。彼等には「待つ」というオプションはありません。
しかし、まだ自分の業務にChatGPTがどのくらい役に立つのかはっきりしない業務をやっている人は、自分の業務に役に立つことが明らかになるまでは、学習を開始するのを待った方が、学習効率が高くなるのではないでしょうか?
などと考えていたのですが「意外とそうでもないな」と思い直したので、自戒を込めて、その理由を書いてみたいと思います。
僕が新卒でソフトウェア開発会社に就職したとき、UNIXというOSを使い始めたのですが、仕組みが複雑すぎて、なかなか理解できませんでした。
そこでUNIXを使いこなしている先輩たちに学習のコツを聞いたら、以下のような趣旨のことを言われました。
「昔はUNIXはもっとずっとシンプルで、仕様が小さかったんだよ。だから、UNIXの仕組みを根幹から理解するのは、そんなに難しいことじゃなかった。ぼくはその頃に、UNIXの根幹と全体像を理解した。その後、UNIXはどんどんバージョンアップし、仕組みがどんどん複雑になっていった。それに合わせて僕の知識もアップデートされていった。だから、今もUNIXの根幹も全体像も感覚的に把握できている」
僕はその時、「古いUNIXの仕様を覚えるのに費やした時間って、無駄だったね。今なら、最新バージョンのUNIXの知識だけ覚えればいいから、ずっと効率よく覚えられる」と内心思ったのですが、数年後、その考えが誤りだと思うようになりました。
先輩たちは、古いUNIXの仕様を知っているために、「新しいバージョンのUNIXの仕様が、なぜその仕様になったのか?」を、速く深く理解できるということに気がついたからです。
なぜそうなるのか?
以前も書きましたが、新しいテクノロジーの意味と価値は、従来のテクノロジーでは出来なかったことができるようになる点にあります。
「従来のテクノロジーでやると何が効率的で何が非効率なのか」を深く理解せずに新しいテクノロジーだけを見ると、従来のテクノロジーでやった方がいいことまで新しいテクノロジーでやって非効率になってしまったり、新しい技術によって新しく可能になった価値ある部分を見抜けず、それを効果的に活用してイノベーションを起こしたりすることに失敗したりします。
従来のテクノロジーを深く理解している人の方が、新しいテクノロジーを的確に使いこなしている、というケースは多いのです。
それと同じように、UNIXの古い仕様と比較しながら、新しい仕様を見ると、「その仕様がその仕様になった意味と価値」が速く深く理解できることが多いのです。
古い仕様の知識は、一見、完全な無駄に見えますが、実際には、そこまで無駄ではないのです。
実は、経営会議でも同じようなことが起きています。
経営会議で決まった方針を部下たちに伝えても、いまいち、方針の理解度が低く、動きが悪かったりします。
「説明の仕方が悪かったのかな?」と思って、時間をかけて丁寧に説明するのですが、それでも、やはり、方針の理解度がいまいちで、肝心なところの判断が良くなかったりする。
そこで、経営会議の出席人数をめちゃくちゃ増やしてみたら、現場の動きがかなり改善された経験があります。
どうしてそうなるのか?
廃案になった案を深く理解することができるから、というのが、その大きな原因の一つだったと思います。
結論が出るまでには、たくさんの案が出され、それらの案のメリットデメリットが出され、案が比較分析されます。
また、納得しない人たちを説得するために、直感的に分かりやすい喩えや説明をどんどん出します。
反論に反論、そのまた反論が出されて、議論が深まっていきます。
その結果、最終的に選択された案だけでなく、廃案になった案たちも、深く理解されます。
廃案になったいくつもの案を学習し、理解した時間は、一見、無駄のように見えますが、実は、無駄じゃないのです。
最終的に採択された案が、なぜ採択されたのかは、廃案になった案と比較分析することで、深く理解できるからです。
廃案を深く理解している人の方が、採択された案の理解が深いので、現場において、それに基づいた的確な判断ができるようになるのです。
今、ChatGPTを使い、学び、使いこなしはじめるということは、UNIXの初期バージョンを使い始めることと同じです。
あるいは、経営会議で廃案になる可能性の高い案について学ぶことと同じです。
今のChatGPTを使いこなすための知識やスキルの多くは、将来、陳腐化するでしょうが、陳腐化した知識やスキルの全てが無駄かというと、案外、そうでもないのです。
今後、ChatGPTの発展系のさまざまなプロダクトを学習するときに、「それらの仕様が、なぜ、そうなっているのか?」 は、古いバージョンのChatGPTの仕様やノウハウと比較分析することで、速く深く理解できるようになるからです。
今はまだ、ChatGPTの仕様が小さく、単純です。その使い方も、単純なものしか知られていません。
だから、ChatGPTの仕様やその使い方の全体像を把握するのは、簡単です。
いまのうちにChatGPTの全体像を把握しておいて、新バージョンが出るたびに自分の知識とスキルもバージョンアップしていけば、やがてChatGPTの仕様や使い方が複雑で高度になったときも、その全体像を感覚的に把握できるのではないでしょうか。
かつてUNIXの達人たちが、そうやって最新型の複雑なUNIXを使いこなせるようになっていったように。
数年後、ChatGPTやその後継プロダクトや発展プロダクトが、高度で複雑になってからそれらの学習を始めた人は、それらの高度な仕様や使い方が、なぜ、そのようになっているのかの理由が理解しにくく、学習のハードルが高くなりすぎてしまうリスクがあります。
さらに言うと、「ChatGPT以前の仕事スキル」のうち、ChatGPTやその後継技術によって陳腐化していくものも多いと思いますが、同様の理由で、その陳腐化したスキルも、役に立ちます。
「ChatGPTがなかった時代の仕事の仕方」を深く理解している人の方が、「ChatGPTを使った方がいいところ」と「ChatGPTを使うと逆に非効率になるところ」を速く深く見抜けるようになるからです。
「ChatGPTがなかった時代の仕事の仕方」の理解が浅い人は、ChatGPTを使うべきところと、使うと非効率になるところの区別がつかず、結局、仕事の効率で「ChatGPTがなかった時代の仕事の仕方の理解が深く、かつChatGPTを使いこなしている人」には敵わなくなりがちなのです。
というわけで、今まで培ってきた仕事スキルの多くは無駄にはならないし、今すぐChatGPTを使いこなしはじめるのも、そんなに非効率ではないと思うのです。
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