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Bitwig 2.0(Beta3)

Bitwigおじさんの時間だよ。
というわけでBitwig 2.0です。現在既存ユーザー向けにβテストが行われています。先日、発売までバグ取りに専念するアナウンスがあったので、現時点からリリースまでに、大規模な機能追加はなさそう。すなわち、現時点で僕らが触っているものがほぼリリース版、ということになりそうです。

なので、はやいですがいつものやつを書きました。付き合うつもりのある暇な人は、あくまでβ、2.0初期リリース段階であることを念頭に置いてお読みください。

2.0になってこんな機能が追加されました! という、そのへんはまあ、後で触れますが、Bitwig2.0アップデートはけっこう特殊なアップデートです。こういう変化の仕方をしたのはほかにFLくらいかも。なんでかというと、Bitwig2.0で追加されたものは「新しい何か」ではなくて「使い心地をよりよくする」ための機能が多いからです。

もともと、Bitwig2.0以降には予定されていた要素がありました。これはBitwig1.0の発売前に「将来的な機能」として発表されていたものです。

・ネイティブモジュラーシステムの開放
・ネットワークコラボレーション関連の機能

しかしBitwig2.0でこれらの機能は実装されません。じゃあ何が変わったんだよ! という話になるんですが、いつも通り長いので、先にBitwig2.0で喜ぶ人を挙げておきます。

1.さらなる使いやすさを求める既存ユーザー
2.ハードウェアシンセとアナログシンセをガンガン使う人
3.モジュレーターをあらゆるパラメーターにかけまくりたい人

いるのか?

Bitwig2.0=ユーザーインターフェイスの洗練

Bitwigは1.xでもとても使いやすいインターフェイスを提供していたのですが、初期リリースだったこともあってこなれていない部分はちょいちょいありました。恐らくそのへんが思ったより多かった、というのが実情なのだと思います。2.0は1.xにおける「これ、使いにくいよね」という部分を徹底的に潰しに来ました。

まず機能的な面での追加と変更について、目立つところを列挙していきます。

・起動時のダッシュボード機能(プロジェクト管理、設定)
・パッケージと本体のアップデート通知機能
・メニューバーの機能表示を改変
・インスペクターバーの機能表示を改変
・ショートカット機能の拡充
・ブラウザの改変
・ポップアップブラウザの改変
・大量のデバイスの追加
・一部デバイスのアップデート
・一部デバイスに波形表示機能を追加
・すべてのデバイスに追加できるモジュレーションデバイスを追加
・アレンジャービューにおけるスマートツール機能を追加
・アレンジャービューにおけるトラックの縦幅の変更機能
・エディットビューにおける機能表示を改変
・内部バウンスの書き出しに32bit floatを選択可能
・オンラインバウンス機能の追加
・CV出力デバイスを含むハードウェアシンセとの連携機能強化
・VST3に対応

・クロスフェード機能の追加
・リモートコントロール関連機能の強化
・ピアノロール/トグルモードの仕様変更
・地味にGUIの質感が向上

というように、書いてみると分かるのですが「改変」が多い。もちろん機能追加によって便利になった部分もあるんですが、それよりも細かい部分が整理整頓された、という印象のほうが圧倒的に強いです。

fig.1 上がBitwig1.3のGUI、下がBitwig2.0Beta3のGUI

こんなん既存ユーザー以外が見せられても「う、うん、違うね……」以外の感想はないんじゃないかなと思います。


大きな変化はふたつ

モジュレーションデバイスの追加は、ものすごく大きいです。目玉機能だけあってとにかくよく練られている。VST2.4だろうとVST3だろうと、Bitwig側から引っ張れるすべてのパラメーターに好きなモジュレーションをかけることができます。組み合わせ次第でかなり詰められるので、シンセ好きにとっては夢が広がるアップデートです。

件のNative Modular Systemも、のちのちのアップデートで正式に開放されるそうです。でも、僕みたいにものぐさな人間はモジュレーションデバイスで十分な気がしています。

ソフトウェアにおけるモジュラー、セミモジュラー環境も過去色々触ってはみましたが、いまひとつしっくりこなくてどれも実用に至れませんでした。というか、僕はそこまで複雑なモジュラーシステムって求めてなくて、ここにちょちょっとモジュレーションかけたいなあ、くらいにしか考えないんですね。そういう人間からは、どこをどう結線して……という手間はめんどくさい以外の感想が出てきません。難しいことやろうとすると頭がおかしくなって死にますし。

そういうピュアなモジュラー環境と比べると、モジュレーションデバイスでやれることは限られます。ですから、Bitwigのモジュレーションデバイスは、僕くらいのパッパラパーにも使えるように、機能を再定義して編集した仕組みだと感じています。簡単に言ってしまえば特定の信号を元に自動で変調をかけるだけなわけですけど、僕みたいなやつでも「このデバイスのここにこういう変調をかけたいな」が一瞬で実現できる。リズムに合わせて他のパートがビットクラッシュされるとか、アタックがズレるだとか。

実際の動きはシンプルなんですけど、シンプルなことをやるために必要だった煩雑な手順を、相当な量、省略できるようになりました。サンプルのスタートポイントを時間軸でランダムに変化させるとか、理屈は簡単だけど手動でやりたくはないですから。

fig.2 何の意味もないモジュレーターの図

これ以外だとオンラインバウンスとCV出力機能の追加による外部連携強化があるんですが、僕は音の処理以外は徹底的に内部完結なため、全く使ってません。というわけで触れられない! とはいえ、ようやくハードウェアシンセのユーザーが入りやすい状態になりました。アナログシンセの流行も続いているので、選択肢に入る人たちも増える要素なのではないかと思います。

というわけで、モジュレーションとハードウェア連携強化以外、このアップデートの内容を新規ユーザーに伝えるのはとても難しいです。使ってないとピンとこないところが多すぎるんです。

僕の第一印象ですが、Bitwig2.0は「強化」よりも「洗練」するためのアップデートという側面が強いように感じました。過去に色々なDAWを触ってきましたが、ここまでワークフローの改善に力を入れてきたアップデートはほかに記憶にないです。しかも新興DAWなのに。

そういうわけなので、2.0になったからまた試してみようかな? という人は「できることはそれほど大きく変わってない」ということに留意する必要があります。Cubaseみたいなこととか、Logicみたいなこととか、今までできなかった当たり前のDAWとしての機能とか、だいたいできません。多くの部分は既存のユーザーが使いやすくなった最高! と喜ぶアップデートです。新規ユーザーは……前より使いやすくなったような気がするので、ぜひ触ってみて下さい!

fig.3 ピアノロール/トグルモードの仕様変更で
「サンプラーに割り当てられたノート」を自動でマッピングする

僕はいろいろと要望が通っていたり使いやすくなっていたりで嬉しい側なのですが、すべてに満足……というわけではありません。致命的な部分が改善されていなかったり、いじりすぎて逆に使いにくい部分もでてきました。


ここは変えなくてもよかったのでは

っていうところを挙げてみます。それはインスペクターバーです。
僕は以前、インスペクターバーにすべての情報が集約されているのはとても機能的で、めっちゃ使いやすい! という風にほめまくったのですが、同時に、ワイドディスプレイになると、横にポインティングデバイスを持っていくのがめんどい! というところを懸念していました。Bitwig2.0ではそこに対策がされたのですが、やや斜め上です。fig.4では複製、反転、クオンタイズなどのメニューの表示位置の変化を切り取ってみました。

fig.4 上が1.3、下が2.0β。インスペクター下から上部プルダウンへ

え、なんで? という。もちろんインスペクターバーの表示は問題があるんです。でもこれ、2.0になると同様の表示がインスペクターバーから消えてるんですね。

Bitwig2.0ではこうしたエディットメニューが、そのとき触っている機能ごとに上部に出現するようになりました。つまり1.xにおけるインスペクターバーの機能を、そのまま一部上部メニューに移動してしまったんです。追加ではなく。右のピンを指しとけば常に表示されるんですが、アイコンなので、あれ、どれだっけ? って一瞬考えます。

上部メニュー自体はいいんです。すごく便利! 横移動に比べて、上下移動のほうが移動距離も短いし、合理的です。今までは毎回画面の左下に飛ぶ必要がありましたからね。
でもインスペクターバーから消す必要はなかったと思います。美しくない二重表示を嫌ったんだと思いますが、ユーザーが使いたいほうを使えばいい。

これ、何が分かりにくいって初期設定はメニューをプルダウンしないとその機能が見えないんです。わかってる人にはいいけど、初めて触った人は、画面全体を見渡してもコマンドが見つからないんですね。他のDAWなら上部のメニューバーのEditを開いて見ないと分からない……というのと同じことなんですけど、Bitwigの場合は、そこのワンテンポ無駄がない分かりやすさが強みでもあった。

あえてめっちゃみにくい邪魔な画像を貼りますけど、スカスカ感を伝えるためなのでご了承ください。

fig.5 無駄に長いインスペクターバー

スッカスカやんけ。なのでインスペクターバーの表示領域が足りないとかじゃないんですね。これ、消す必要あったのか? というのはβテストグループでも話題になっているので、インスペクターバーにも復活するかもしれませんね。とはいえ、もしかしたらこの変更も、今後のアップデートに関わる意図があってのことかもしれません。


Bitwig2.0(Beta3)のだめなところ

要はこれ、Bitwig1.xのだめなところなんです。ざっくり挙げます。

・MIDIエディットツールは据え置き
・曲中での拍子変更不可能
・MIDI書き出し機能が全体を一括で書き出すのみ
・テンポオートメーションとMIDI CCの書き出しは不可能

・クリップの同期機能はなし
・書き出すWAVは全部ステレオなので、モノでの書き出しは不可能
・オートセーブ機能なし

この中で人によって特に致命的なのは「拍子変更不可」と「MIDI書き出しの貧弱さ」だと思います。他はなくてもなんとかはなる、補えたら補いたい機能。

この開発者たちは何を考えてるんだろう? というのが率直な気持ちです。もともと1.0.0を触ったときなんてMIDI書き出しの機能自体がなく、このソフトの開発者はほかのソフトの使用者と連携させる気がないのか? ということに衝撃を覚えました。今でもその姿勢は変わっていないようです。

fig.6 MIDI Exportを押すとダイアログボックスも何も出ず、
ノートトラックのみを一括ですべて書き出す男らしい仕様 

Bitwigはよくも悪くも独立独歩すぎるきらいがあります。今どきはコライトも珍しくないので連携は大前提ですし、そもそも共通規格であるMIDIすら相互にやり取りできないというのは、ツールではなくホビーだよね、と煽られても反論できない部分です……。


9割満足なんだけど、9割不満なアップデート

変な言い方になるんですが、プラス部分とマイナス部分って並立すると思うんです。そういう意味で、Bitwig 2.0、めっちゃいいアップデートです。絶対にアップデートします。でもまだ出来るようになってないことに関しては、そろそろなんとかしてくれないかなあ、という不満が大きいです。

言い換えると、挙げた不満点さえ何とかしてくれれば、基本機能としては本当に文句ないんですけどね。僕はですけど。不満点を潰してくれたら大喝采だし、そのうえで、もしVST Expression Mapみたいな機能追加してくれたら喜びのあまり昇天すると思います。期待しています!


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