Gain stagingの簡単な説明を試みる
専門的な話はちゃんと英語圏の専門的な資料をあたりましょう。専門的な理解のある人は、大雑把な説明を許容してもらえるとたすかります。
Gain stagingとはなんなのか
「アナログ機材にはおおよそ適切とされる入力のゲイン(電気の増減量)が設定されているので、機材を繋ぐ時に気にしましょう」
「各段階における音量をちゃんと管理しましょう」
(ゆるい解釈)
なにも難しいことはありません。これだけの意味です。Gain stagingという言葉に踊らされる必要はありません。
「Gain Sweet spot」で検索すると事例がたくさん出てくると思います。これが1.の意味で言う『おいしいところ』というわけです。
元々は「各入出力の電気信号の大きさを管理する」という概念であり、それ自体が何かをもたらすわけではありません。
そして、現代では「各段階における音量をちゃんと管理しましょう」という調整の意味で用いられることが増えています。「コンプで叩いた分をOUTPUTで上げておく」みたいな場面ですね。
この点が混乱を招くところで、解説する人も切り分けていなかったりします。
語としての理解は以上ですべてです。実際の接続時にはインピーダンスの問題があったりするのですが、それについては話が煩雑になるので今回は省きます。気になる人は調べてみてください。
Gain stagingってなんで必要なんですか?
アナログ機器の取り扱いにおいて、電気的に設定された「めやす」だからです。電気信号をやりとりするために設けられた基準なので、ちゃんとGain stagingすれば過大入力や過小入力を避けることができます。
設定されたスイートスポットは「スタートポイント」で、基準です。それに合わせる作業がGain stagingです。
なんでGain stagingって仰々しく呼ぶんですか?
英語だからです。日本語には代替する概念がありません。
DAWでも必要なんですか?
アウトボードを使うなら適切な管理が推奨されます。すべてをDAW内で完結するときも、アナログシミュレートしたプラグインを使うならば、スイートスポットが設定されていますのでマニュアルを読んだほうがいいでしょう。
すべてをデジタル環境下で行う場合、これをGain stagingと呼ぶかは人によって立場は分かれます。電気の話をなんでデジタル演算環境でするんじゃい! というわけです。この手の原理主義的な取り扱いはいかにもエンジニアらしいですね。でも使ってる概念上のパラメーターが電気を模しているので、そのまま使ったほうが実際的といえます。
デジタルプラグインにおいてもスイートスポットに近い概念は存在しますし(コンプのスレッショルドを最低まで設定しないと、まったくリダクションされないような入力信号の大きさはおかしいですよね)、入出力が管理されていないと、どこでどう設定されてるかぱっと見てわからないので、困ってしまいます。
というわけで、どんな環境でも入出力の管理はしたほうがいい、ということになり、これもまたGain stagingの解説に含まれることが増えています。
個人的な経験則としては、どちらの意味でも「意識し、管理する」という考え方があるかないかが作業内容に影響します。
そんなの無視して適当にゲイン突っ込みたいし管理したくない
それも間違いではありません。
どちらの意味においても、Gain stagingは規格の話であり、音楽の表現とは無関係な概念です。ですから、すべての定石を無視して作られた音源であっても、音楽としてはそれが正解なら正解です。
アンプでエレキギターを歪ませた例を見ても、電気的な間違いが音楽的な正解を導くことは多々あります。スイートスポットに関しても、設計者によって推奨される設定よりもより突っ込んだほうがおいしいと感じるなら、それが正解です。音作りに間違いはありません。PultecのEQを正しく使っている人が現代にいるでしょうか?(EQP1は元々BoostとAttenを同時に使うことを意図されていません)
しかし、大雑把であっても知らないよりは知っているほうが道具として便利に使えます。問題を回避したい時、問題を切り分け、回避するための知識が増えます。
そして、全体を管理することはモニターバランスを一定の音量で管理することにも繋がります。
結果的にモニタリングの精度が上がり、仕上がりがよくなることにつながる、という効果もあるでしょう。
また、AD/DAにも適切な入出力ゲインが設定されていることは極めて重要です(そして、モニターコントローラーを使っていたら、その入力にも)。
考えてみれば当たり前のことなのですが、多くの人が見逃しています。お使いの機器のリファレンスを調べてみてください。想像より低い推奨値になっているはずです。今までモニターしていた信号が、DAされた瞬間に歪んでいたとしたらどうでしょう?
なんでたびたび話題になるんですか?
それでもなぜ音量調整という意味でのGain stagingが度々話題になったり、多くの動画や記事で解説されるのでしょうか?
ひとつは、多くの場合めちゃくちゃに機器の入出力が設定されていて、たびたびそれが問題を引き起こしているから、と考えるのが妥当でしょう。例えばドラムのトラックをまとめたバスが、入力で赤ついてるなんてのは日常茶飯事です。
もうひとつは、結局なんなのかわからないがために、わからないまま「気になる」存在であり続けているからではないかと思います。ネットの情報は寄り道や余計な情報ばかり多くて、結論がないからです。
終わりに
実作業上、リテイクを受けたり修正を施した場合、機器の設定間のバランスは絶対に変化しますし、崩れて当たり前です。
「完璧な設定」というものはありません。あくまでも基準や目安、規格上の作法であることを理解することが重要です。