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連載【癌で死ぬか死刑が先か・12】ヤクザと殺人者と老人と

※ お読みになる方へ : 事件の詳細が書かれており、不快な思いをされる場合がございます。ご注意ください。

このVol.11に出てくる登場人物は、Vol.10 Vol.11からのつづきになります。

 話が飛んでばかりで申し訳ない。
森の担当に「クソボケ」と担当抗弁してから、6ヶ月以上、昼夜独房で過ごした。
もちろん懲罰を受けた。懲罰とは、その罰によって日数が違うが長い懲罰となると60日とかもあるが、俺の場合は15日の懲罰で済んだ。
懲罰中は、夕方の点検まで、朝から食事以外は、扉の方に頭を向けて、ちょっと前までは正座だったんだけど、俺の時は、胡坐でOK。
トイレの時は必ず看守を呼び、許可を得てからトイレに行く…
1日中その繰り返しで、夕方からラジオが流れるんだけど、懲罰者にはラジオもNGなので、本も読めないし、手紙も許されないので、ボーとしているだけの毎日、唯一の楽しみが寝る事。

 懲罰も終り、やっとホッとした。
昼夜独居の仕事は部屋の中で内職作業をさせられる。
この当時は、風呂は夏が週3回、1回の入浴時間は15分。冬が2回。
運動は風呂の無い日で休日以外にするのだが、鳥小屋って呼ばれてる。
鳥小屋はコンクリートに囲まれた、小さい運動場のこと。
ここは流石にロングプリズンだけあって、極悪人が多いと言うか…
頭が狂っている奴が多い。
正直、刑務所に入れるより精神科に入院させた方がいいのではないかってぐらい狂ってる。

 意味の判らん言葉を大声で喋り、看守に飛びかかったり…
この人の未来は、これじゃー又、刑務所だなぁーと思ってしまう。
何故こう言う人を、もっと社会は、この人の為に、心のケア―をしないで、刑務所に閉じ込めるんだ?
暴れたら保護房に入れて、押えつけるだけ。
どう考えても、普通じゃないのに、この人は、裁判で、責任能力があると何故に認められたのだろう!?不思議でならない。
出所したら又、やるぞ!このタイプは。
バイオレンスだから殺人してもおかしくねーぞ!ってか、今件も殺人かも?

 俺はこの社会の歪みに原因があると思う。
これで、外出て、犯罪を犯して、この人を悪だと言う社会そのものが間違っていると思う。
だって、外に出るのが怖いとか言って、またムショに戻ってくるって言う人も多いし。
って事は、出たら犯罪するって言ってるのと一緒じゃん!
そんな裏話とか皆様知ってましたか?
だからと言って、その人を、ずーと刑務所に入れとけとは違うと思う。
その受刑者の心のケアをする事や、出所後の支援をする事が一番大切だと思うし、ムショでは更生出来ない。
そもそもが、受刑者を呼び捨てにしないで、同じ人として、さん付けで呼ぶ事から看守の受刑者に対する見下し方を改善しないとダメだと思う…
何の為にもならない作業をさせるより、欧米とかの国みたく、人権を大切にしてほしい。
その国の刑務所の質がその国のレベルともよく言われてます。
そんな方が多いここは、、、狂ってる人!

 何だかんだと、生活している内に、独居房に2人で、居る人を見付けた。
それが、何と何と汪楠さんだった!
(※「怒羅権と私」の著者で、受刑者の支援団体「ほんにかえるプロジェクト」の事務局長)
もう1人は汪さんが可愛がった、よっしーくん。
よっしーくんは無期囚でとても悪いことをした極悪人には程遠く見える。
いつも周りの目を気にして、オドオドしていて、本当に人を殺したの?って、疑いたくなる人。
人を殺めたとしたら、それは、心の闇が深い根の部分に問題があって、好んでとか悪意とかとはまた別の次元の話で…
一括りに人を殺めたから、悪とかで人間を善悪で、区別するのは、権力者側の都合であって、これは、社会の問題である。と俺は思う。

 またまた、話が逸れてすみません。
そのよっしーくんの面倒を本当に、汪さんは良くしていたと思う。
それはよっしーくんの心のケア―とか、無期囚となれば、残りの人生を獄中で、終る人は多く…
きっと、汪さんはよっしーくんに、獄中で生きていく為のイロハとか、人間関係の難しい、このムショでの色々な事を教えてたと思う。
それは、誰でも出来ることではなく、一癖も二癖もある、受刑者やヤクザ者から難癖には、それなりの様々な防御と言うか、対応が必要であって…
有期刑の受刑者と違い満期刑は出来ない訳で…
その点、無期囚は、他の受刑者より弱い立場であり、悲しい性なのだが、、、
気力が無ければ、生きて行けない為に、よっしーくんを可愛がり、弟のように接してた汪さんこそ、ヤクザ者や一癖も二癖もある、受刑者や、ムショでの生活云々のあしらい方は心得ている汪さんであるので、よっしーくんにとっては社会とは、また違う社会の中の塀の中の社会では在るが、汪さんとの出会はきっと彼にとってプラスだったと思う。


 そんな昼夜独居生活も半年は過ぎただろうか。
或る日のこと職員から「松井、そろそろ工場に出ないか?」と聞かされる。
俺は「はい出ます」と伝え、いざ、工場に…
え?ここは、、、工場が在った所やなぁー、、、工場に入って担当を見たらビックリ、昼夜独居のフロアー担当だった人が、工場担当だった。
一通り、説明を受け食堂で色々としていたら受刑者が入って来た。
いわば、対外の工場に居る、ヤクザ者で、どちらの方ですか?や、
現役(ヤクザ)の方ですか?どちらの組の方ですか?と工場の窓口を任されている。ヤクザ者であり、トラブル回避のあいさつだ。

 だが、俺の場合は違った。もう最初から俺がこの工場に配役されるのを知っていた。
一人が、俺に言って来た「お前のことは、◯◯会の人から聞いている。俺はまだお前を許してない。いいか!!この工場に居たかったら、大人しくしてろ!!」と言われた。
どうも前々回のKさん達のブレーンが、◯◯会の全ての人間に俺の事でハトが飛んでいる様だった。
俺はまいったなぁー…どこで間違ったか知らんが、Kさん側と仲良くしていた事もあり、俺は、◯◯会の人間にされていて、その◯◯会のKさん側を裏切って、俺は工場を飛びだしたと思われている様だ。
この誤解を解くのに、本当に苦労した。
そもそも俺は、◯◯会どころかKさん達からも、盃は貰ってないし。
◯◯会に入るとも一言も言ってない!
何や、ここは、◯◯会の人と仲良くしただけで、一組員の押し売りをされるのか?もう、◯◯会の人間とは関わらんことにした。

 しかし、俺が他の組の方と話しているだけで、一々とそこの工場に居た、◯◯会の枝の会長だかが怒って俺は呼び出される。
シャバなら、その会長は◯◯会の中でも偉い人らしく、そこいらの組の下端の三下には雲の上の存在らしい。
その枝の会長と二人で、向い合い話し合いをする。
俺はとにかく、噂話の誤解を解かなきゃ、この先ず〜っと、嫌な思いをすると思い腹を括って、掛け合った。
とにかく、その会長の話を全て聞いた上で、一つ一つ違っている事を指摘した。
そこは、誤解で間違ってますと、いつ兵隊が飛んでくるかも知れないので、丁寧に話したつもりだ。
その会長は全てを呑んでくれた訳では無いが、条件付きで納得してくれた。

 それは、俺が他の組のヤクザに入らない事!!
俺は、◯◯会のKさんらから、盃を受けてもないし、組に入るとも言ってないし、そんなことを言われる筋はないが、どの道、ヤクザになる積りもないので、まぁーいいかと思い了承した。
本当に、疲れる…。
刑務所では、特に岐阜刑は当時、◯◯会と◯◯組の派閥が強く、◯◯組が多い岐阜刑では、関東の◯◯会は少なくなく、その分、結束力は強かったと思う。

 刑事施設には、月に1回のペースで宗教教誨( ※ 宗教的な講話や宗教行事)がある。
キリスト教とか仏教の◯◯派とか幾つかのメジャーな宗教があり、これらに入る為には、定数があり、多くの人が入れる訳ではない。
よく知られている、仏教などは、応募が多いのだが、これらの宗教教誨は本来は、受刑者の改心のために、設けられている訳であるが…
岐阜刑の当時は、◯◯派が◯◯会のヤクザ◯◯派が◯◯組とかで決められていて…
要は、同じ刑務所でも工場が違えば、なかなか顔を合わせる事がない為、宗教教誨を使って、ヤクザの同じ代紋同士で参加しようとする。
ヤクザではない受刑者が、定員が多い宗派に入信した場合、入れなかったヤクザが、そのヤクザではない受刑者に、圧力を掛け、辞めさせるのだ。
なので、当時の岐阜刑の宗教教誨は、同じ代紋のヤクザの月に1回の顔合わせの場と化していた。

 俺の居た工場は、一般工場と言うよりも、年寄りや、体の不自由な人がメインの工場で、健常者が半分。
汪楠さんやよっしーくんも同じ工場に来ていた。
工場の中で汪さんがよっしーくんの面倒をよく見てたので、やっぱり、面倒見のいいよっしーくんからしたら、頼れる兄貴みたいな存在だったんだなぁーって改めて思った。
工場に来てからは、汪さんもなにかと忙しく、よっしーくんばかりを構っていられないので、俺がちょくちょくよっしーくんと喋ったりした。
本当にこのよっしーくんは、殺人してたのか?って不思議なくらい、どこから見ても、無害者しか見えないのだが、、、彼は無期囚だ。

 色々な無期囚を見て来たが…いや殺人者含め、凶悪犯と社会で叩かれた多くが、全て、俺個人的に観察して見てると、色々なタイプが居ることが分かった。(※注意・この時点では俺は、殺人者ではない!)
もう、彼らは実刑になって、刑務所に務めているので、本人らの人格がよく分かる時がある。
それは、その人の行動だったり、言葉を交わしている時であったりだ。
俺がこいつ怖いなーって思う奴は、根が腐っている奴。

 例えば、その本人が殺した被害者をネタに、笑っていたり、自慢している奴や(武勇伝の様に)…
見付かってない、殺人の話をしてきたり…
殺人以外の話も含め、別の人は般若心経やそれらを、筆で紙の上に書いて、被害者供養の一環か?って思って、感心したかと思えば、
「あのヤロー出たらブチ殺してやる!!」と急に般若心経を書いてる人が般若の顔よろしくのごとく、豹変する、、、
現に、その人は殺人でパクられているので、その人の言葉が冗談に聞こえないのが、またリアルで怖い。。。

 皆様どう思います!!?こんな人らと、同じ雑居で、朝から寝るまで一緒に暮させれる、俺の気持ち分かりますか?
これが、不思議と、何年も同じ空気を吸っていると、その人らの事が余り気にならなくなるんです。
これ、大問題じゃないですか!!俺をこんな極悪刑務所に入れた、国は間違ってる!
聞きたくもねー人間のバラし方やら、どうしたら、遺体が出ないかとかetc
エグイ殺し方とか、聞かされる身になれ!このクソったれの国め!

 何でここに入れたのかミステリーと言うか…もう怪奇としか言えん。
片や、同じ殺人者でも、もの凄く後悔している人もいて、話しても、根はいい人だし、そんな人達はきっと、殺人を楽しんだのではなく、人生の中で、歯車がずれてしまっただけで…
きっと上手く、感情がコントロール出来なかったんだろうなって俺は思う。

あとのパターン、これは、精神異常者としか言えない!
こんな人が、そもそも刑務所に居る時点でおかしいと思う。
刑務所より、精神科で入院やろ!!
この人らは、何故に、裁判官らに、責任能力があると言われてるのか?
このクソったれの日本の刑事司法のもとも歪んだ裁判だー。
中には、冤罪だと訴え続けている人も、いる。
 
 無期囚で年寄りや、刑の長い年寄りは、ムショでは定年はなく、認知症だろうが、とにかく、工場に行かせて、働かせる。
ムショに人権はないのだ!
俺は、雑居房でも工場でも、お年寄りの人には出来るだけ、優しく接した。雑居房のお年寄りとか耳が不自由な方とかの手伝いはしたつもりだ。
同じ房でスーさんってお年寄りで、耳が不自由な方は特に、大変だった。
本の買い物でも、工場に行っても、スーさんは俺を呼ぶので、「スーさん、何が買いたいの?」
スーさん「あのね。松井さん、篤志家の先生がねー〇〇さん、何か本を買って、勉強した方がいいですよーってねー言われてね。」
俺「分かった!!とにかく、その話は置いといて、何って本を買いたいの?」
スーさん「えーっとねー。かりんとうが一つって本がね」云々と言い出したので…
俺は「スーさん、分かった!とにかく、かりんとうが一つって本だね」
スーさん「うん」周り失笑、、、オレ苦笑い。
「じゃースーさん、かりんとうが一つって俺が代筆していいね?」
スーさん「うん」
俺「じゃー名前だけは自分で書いてね。」と言ってやっと終わった。。。

 お年寄りのお世話は、クソ腹立つ&ナメ腐った偉そうな受刑者や、看守(ごく一部)の奴と接しているよりは数倍楽だし、こう言ういい方はお年寄りに申し訳ないが、インゴじじぃーは別やけど、可愛い。
俺の肩に顎を乗せてカクカクしてくるお年寄りもいて、このおじいさん、可愛いなーと思う半分…
心の中で、それらのお年寄りの何人が…
いや、ムショ全体だと何十人、何百人が、このロング刑務所の岐阜で亡くなっていくのかと思うと悲しくもある。

 逆に俺は、こんな所で年寄りになって一生を終えたくない。
看守は一切、お年寄りだろうが病人だろうが、殆どの全てを刑務所側が、外部の介護士に頼まず、素人の受刑者に世話を任せる。
本人にとって恥なことまで、同囚に面倒を見てもらって、それも適当に扱われ、そんな生き恥を晒すぐらいならば、俺は、死刑の方がいい。
だから、俺は殺人なんて、絶対しないと思ってた。
まさか、その後の己の身に振りかかるとは、夢にも思ってなかった。
この時までは…。

Vol.13に続く


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