THERE SHE GOES,AGAIN.
大学の時に在籍していたのが、ライブなどの音響・照明を手がけるサークルで大変個性の強い先輩たちと一緒に過ごした。みんなお金がなくて飲み屋の後半戦では1杯でも多く酒を頼みたいがために醤油に七味をかけてつまみにしていたタフな人たちだ。
市ヶ谷方面に通っていたのだが、なぜか体育の授業だけが多摩キャンパスのため、電車の時間が少し長かった。高尾駅で乗り換えたりして毎週火曜はピクニック気分でもあった。ある日、部室の片隅に積まれていたカセットテープを1本持っていき、電車の中でウォークマンで聴いた。
当時はオアシスとブラーが流行り出す手前くらいの頃。カセットテープからは名も知らぬUKロックが流れていた。その中で、一際、イントロから最後まで完璧に輝いていた曲があった。たった2分50秒ほどの曲だ。のちに先輩に聴いたところ「ラーズ」だよ。という。当時はインターネットもまだまだおぼつかず、ロッキンオンを隅々まで読んでラーズを探した。「THE LA'S」だった。リヴァプールのバンドでリー・メイヴァースという人がリーダーらしい。その心を撃たれた楽曲は「THERE SHE GOES」。極めてシンプルなギターコードで何度も何度も繰り返しこの曲聴いたりギターで練習したりした。アルバムはこの1枚しか出ておらず、お茶の水にあったマニアックなレンタル屋でライブ映像を見つけて擦り切れるまで見た。
大学2年の時、音響を手掛けたバンドサークルに誘われるがままに入り、ヴォーカル&ギターで THE LA'S のコピーバンドをやった。唯一、バンド演奏に打ち込んだ時間だった。当時付き合っていた女の子が、当時かなりの貴重盤だったLPを誕生日にプレゼントしてくれた。今でもこの曲を聴くと、山奥のキャンパスに向かう途中の車窓から見えた鬱蒼としげる森とその女の子のおぼろげな笑顔を思い出したりする。
数年後、ロッキンオンの後ろの方のモノクロページでTHE LA'Sのリー・メイヴァースがドラッグの影響で発狂?していて取材陣に対してわけのわからないことを言ってひどいセッションを演奏して一同ドン引き、みたいな記事が載っていた。リー・メイヴァースはボロボロになってまで必死にロックンロールしていた。悲しかったけど同時にちょっと嬉しかったのを覚えている。
それから数年後、お金で動いたのだろうか?THE LA'Sが謎の1回限りの再結成をして東京にやってきた。狐に摘まれたような気持ちで今は泣き SHIBUYA-AXに、大学時代の先輩たちと行った。おじさんになったリー・メイヴァース率いるTHE LAS'は、たった1枚しか出ていないアルバムのほぼ全曲、未収録曲まで入れても1時間に満たないレパートリーをぶっきらぼうに淡々と演奏して去っていった。感動というよりも生存確認、という気持ちが強かった。それでも「THERE SHE GOES」の演奏には心が躍った。
リー・メイヴァースはその後どうしているのだろうか。久々にLP棚から取り出したレコードのジャケットの大きな瞳と目が合って、何だか感慨深い気持ちになった。「THERE SHE GOES」が今日も色褪せることなく新鮮に鳴り響いている。