その恋は光を超えて #3 前編
第3話 湖面に舞う黒きオデット 前編
カルデアのマスター藤丸立香は華奢な身体に似合わぬ異様な脚を武器とする少女、メルトリリスと契約した。遭遇した鎧の武人、英雄ヴラド公との遭遇戦に彼らは辛くも勝利した。
--------------------
「マスター!私、すごく心配したんですからね!」
令呪一画を消費して、奇襲でなんとか強敵ヴラド公を倒したはずなのに、怒られている。なんで?
「なんでじゃありませんよ。『俺は毒は効かない体質らしいから、たぶんメルトウィルスも平気だよ』なんてそんな曖昧な根拠で…信じられません!」
確かに根拠は薄かったが、事実マスター藤丸立香は無事である。なにより敵との戦力差を埋めるには奇襲と毒による弱体化は必要な手段だった。
「自分でもこの体質は不思議なんだけどたぶん大丈夫だよメルトリリス。うん、少し疲れてるだけだ。」
「私に言われたくないとは思いますけど、あなた本当に人間ですか?」
その疑問はもっともなのだが、メルトリリスと共に行動するにはありがたい体質だった。
「それに貴重な令呪を…私の性能が足りていればこんなことにはならなかったのに。」
悔いるようにメルトリリスは告白する。
「格上に勝つために躊躇はしてられなかった。それにカルデア式の令呪って便利でね、一日に一画回復するんだ。」
「そうなんですか?私の引き出せる知識では令呪の補充は原則として不可能とありますけど。」
カルデアでは膨大な魔力をマスターに供給できる、それはよって一日に一画の令呪を補充できるほどらしいとは座学でやった…気がする。もっともこの時自分は寝ていて、後でマシュに教えてもらったのだけど。とどのつまり魔力の詰まったパッケージがカルデア式の令呪であり、十分な魔力さえあれば補充できるということらしい。
「でもあなたは先程カルデアとの繋がりを感じられないと…」
そうなのだ、カルデアのバックアップがなければ令呪は補充されない。時間が経たないとわからないがここでは令呪は貴重品な可能性もある。だが今さらそれを悩んでも仕方ない。
「ねえ、マスター…私はあなたを守る、あなたを助けると誓って戦うことを決めました。それなのに貴重なリソースを使わせて、あなたの身を危険に晒してしまいました。これではAI、道具として失格です…」
そのように今にも涙をこぼしそうな彼女を見てこう口に出さずにはいられなかった。
「違うんだメルトリリス、戦いに連れ出して危険に巻き込んでるのは俺の方だ。それに道具だなんて言わないで欲しい。二人で一緒にここから出ようって決めたんだから。」
「あなたって人は…優しいんですね。その、お願いがあります。私のこと、気軽にメルトって呼んでもらえると嬉しいです。」
どうやらその呼ばれ方が気に入ってるらしい。もちろん、と快諾する。
ザ…ザザザザ…
空間にノイズが走る。
「あー、あー、テステス。あ、聴こえてます?まったく、人がイチャつくところを見せつけられるなんて本当にイラつきますね。」
「でも流石に何もわからないままゲームに参加されたら困りますからね、というわけでBBチャンネル、始まりです♡」
なんだこれは!?目の前が…スタジオ?しかも自分の身体の感覚がない!まるでカメラそのものになったかのような。
「はーい、無駄な抵抗はやめてくださいね?これはセラフィックスで登録者数一番の番組、BBチャンネルです。」
セラフィックスへと誘い込んだこのBB、今度は一体何を?
「あぁ、それにしてもムカつきますね、本当にムカつく。私の恥ずかしい性癖と黒歴史を切り離したエゴが、よりにもよってラブラブなところを見せつけられる。ゲームマスターじゃなかったら今すぐ消しちゃってるところです♡」
なんたる理不尽!だがそれより、このことは本当なのかメルトリリス?
「違います、違いますからねマスター!切り離されたのは本当ですけど恥ずかしい性癖なんかじゃないです!」
「その下半身がほとんど見えている格好は。」
「何か問題なのかしら…?」
アッハイ、ソウデスネ。だがBBから切り離されたのは本当らしい。
「何イチャイチャしてるんですか。これ以上居たら本当に潰しちゃいますのでさっさと済ませてしまいますね。私にとってはどうでもいい存在ですし。」
「この電脳化したセラフィックスでは128騎のサーヴァントによるバトルロイヤル、聖杯戦争が開催されています、もちろん商品は聖杯!なんでも願いが叶うなんてホイホイ呼ばれた128人のマスターによる殺し合いです♡」
「藤丸、あなたはカルデアからやってきた129人目の介入者。本来はルール違反としてサーヴァントを失って死んでもらう予定だったんですけど…でも、サーヴァントを得て、参加者を殺したんですもの。特別に参加者として認めてあげましょう。制限時間はあなたたちの体感時間で言うところの、10日ほどでしょうか?」
「見事生き残ってください、そうしたらカルデアに帰還できますよ?そしてこの事態を報告して収拾できるかもしれません。」
「じゃあ、あとは勝手に頑張ってくださいねセンパイ?無様にあがくところを見るだけが私の楽しみなのですから。」
それだけ伝えると視界は元に戻っていた。
「なんだったんだ、あれは…」
「仕方ないですよ、おかあさ…BBは狂ったAIです。」
少し引っかかるところもあったがとにかく目的ははっきりした。この馬鹿げた戦いを生き残りカルデアに戻る。カルデアならこの事件が発生する前に阻止することができるはずだ、それで解決できるはず。
そうして初めての一日が終わった。藤丸とメルトリリスの二人は教会をひとまずの拠点とした。そして二階の寝室でマスターとしての活躍やカルデアのこと、マシュのこと、とりとめのない話をしながら、彼は眠りについた。
メルトリリスは眠る必要がない、AIだからだ。
「この人は必ず守り通す、それが私の存在意義なの。」
「私を見つけてくれた人、私を怖がらないでくれた人…どうか、死なないで。」
【後編に続く】
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?