【古市公威】自らを妖怪と呼んだ土木のパワースポット!〜土木スーパースター列伝 #17
今日3/25は、東京大学の卒業式です。ご卒業される皆様、おめでとうございます。
東京大学には偉人がゴロゴロしていて、銅像の数もハンパないことをご存知の方もいらっしゃると思います。例えば…
建築家:ジョサイア・コンドル、機械工学・造船の権威:チャールズ・ディキンソン・ウェスト、東京帝国大学第3代・8代総長で文部大臣も歴任した巨人:濱尾新、カレーライスを初めて食べた日本人として知られる会津の白虎隊隊士から東京帝国大学総長まで上り詰めた山川健次郎、日光まで人力車を競争させた話で有名な医師:エルヴィン・フォン・ベルツ、ドイツの獣医学者:ヨハネス・ルードヴィヒ・ヤンソン、そして、忠犬ハチ公の主人:上野栄三郎博士とハチ公像などなど、銅像好きにはたまらない銅像のデパートです。
その中で、一二を争う大きさを誇るのが、今日ご紹介したいスーパースターの古市公威です。
申し遅れました、土木広報センター土木リテラシー促進グループ長の鈴木三馨です。論文博士の取得のために、東大に通っていた時期があったのですが、いつも東京大学本郷キャンパスに佇むこの古市先生の銅像に話しかけて力をもらっていました。ここはまさに、土木のパワースポットです!
古市賞を受賞した学生は、古市の銅像を掃除せよ!
古市公威は、土木学会の初代会長ですが、1854年(嘉永7年)江戸生まれ。1875年(明治8年)文部省最初の留学生としてフランスに留学。13年に帰国後、内務省土木局に勤務します。19年帝国大学工科大学教授兼初代学長になります(東京大学工学部の前身)。21年工学博士。23年内務省土木局長。全国の河川工事、港湾修築などに携わり、日本の土木工学、土木行政の近代化に尽力しました。
土木関係以外にも、東京仏学校(法政大学の前身の一つ)初代校長、日本工学会理事長(会長)、理化学研究所第2代所長、そして、男爵の称号も持つ華々しすぎる経歴の持ち主です。
東京大学社会基盤学専攻では、優れた修士論文に古市賞が授与され、古市賞を受賞した学生は、古市の銅像の掃除をすることが慣例となるそうです。古市賞を授与されなくても、毎年掃除したいくらい、偉人中の偉人です。
これは過去の古市賞の受賞者一覧です。皆さん、銅像の掃除をされたんでしょうね。
自らを『妖怪』と呼ぶ
今年の大河ドラマ『鎌倉殿の13人』やアニメ『平家物語』を観ていますか? 私は、毎週楽しみに観ています。聖地巡礼ということで、『平家物語』で源頼政が鵺(ぬえ)を退治した鏃(やじり)を洗ったという言い伝えがある京都の鵺池に行ってきました。近くに鵺神社もあります。
『土木偉人かるた』では、古市の読み札に「鵺のよう?」と書いてあります。
鵺(ぬえ)とは、頭は猿、尾は蛇、足と手は虎のようで、泣く声は鵺(トラツグミのこと)似ている妖怪のことで、古市本人が自分について「僕はどうも学者でもなし、実業家でもなし、技術家でもなし、行政家でもなし、何だか訳の分からない人間で、まあ鵺的人物とでも言うのだろう」と語っているところから、読み札に決めました。
「私が1日休むと日本が1日遅れるのです」
これは、古市がフランス留学時代に発言したエピソードとして、作家の司馬遼太郎に紹介されるほど有名なのですが、半世紀をかけて、爆速で日本を近代化させた古市は、本当に1日も休むことはなかったのではと思えるほど、帝国大学の学長として、内務省の土木技官として、さらに、土木局長として、治水、道路、築港、近代水道、鉄道などの整備に尽力した、様々な顔を持つマルチなスーパースターなのです。
わたしが1日休んだところで、日本どころか(無職真っただ中なので)会社も遅れることはない身からすると、どれだけの使命感と責任感を古市が背負っていたのか、想像することができません。
でも、ふと思ったのです。どうして彼はマルチな活躍をしたのか? 一つのことを突き詰めて博士論文をまとめた経験がある私にとって、あれもこれもと実現していく古市の妖怪ぷりの謎を紐解きたくなりました。
能は土木!? マルチな才能を持つ由来
この「鵺」は、『平家物語』を元にした世阿弥の曲目でもあります。源頼政によって退治され、淀川に流された鵺の亡霊が三熊野詣での旅僧の前に現れ、供養を願う曲で、古市は公務が多忙になるほど「能」に入れ込んでいたといわれています。この「鵺」の例えは、能からきているのは間違いなさそうです。
古市が能をこよなく愛していたと知った後、私の母校である関東学院中学校高等学校の同窓会誌で観世流能楽師の清水義也さんを知り、是非会いたいと思って、私は土木学会誌の連載『外から見える土木』でインタビューをさせていただいたことがありました。
清水先生は「能の魅力とは何か」という問いにこのようにお答えになられています。
日本は台風や地震など厳しい自然と共に暮らしている国です。これら自然災害から人の暮らしを守るため、求道者のように土木技術によってできることを探索し実行していったことが、古市が鵺のように色々な顔を持つようになったのだと思います。今風に言えば「鵺=マルチな才能を持つ」ということなのでしょう。
古市のようにあらゆる分野で、しかも超高次元で実績を残す人は限られていると思いますが、皆さんの周りにも鵺のような妖怪みたいに、類い稀なマルチな才能を持っている人はいませんか?
古市から学ぶ、時代を拓く社会的なリーダーに必要なことは?
実は私も、社会人として働きながら、東京大学社会基盤学を専攻して論文博士の学位を取得し、2019年3月に行われた学位授与伝達式で答辞を述べさせて頂く機会がありました。(古市賞を受賞していないですが、そこで銅像の掃除のネタを仕入れました!)
私は学歴ロンダリングした身なので、学位授与伝達式にいる東京大学の皆さんたちは想像を絶するような優秀な方々なのだろうなと思って、他人事のように小っ恥ずかしい作文をしてしまいました。しかし、『土木偉人かるた』に収録した48人の土木偉人の内、古市をはじめとする実に20人の土木偉人がゆかりのある東京大学の学位授与伝達式という晴れやかな機会をいただき、微力ながら培ったものを社会に還元できるようにしなければと思っています。
今回は『妖怪』をキーワードに近代土木の最高権威と呼ばれる古市公威をお伝えしました。あまりにキラキラした華々しい経歴が凄すぎて実感が湧かないくらいですが、古市から未来のリーダー像のあるべき姿を学んだ気がしています。
「他分野の技術者をも統率する広範囲な視野と技量を身に着けて能力を発揮する気概を持て。」
私が答辞に込めたこの言葉が、それです。土木の分野も多機能化しているだけでなく、暮らしを支えるインフラもさまざまな分野との連携が必要な高度化が求められています。
今、もし古市が生きていたら、全く新しい分野の人たちの懐に入り込み、縦横無尽に横串なネットワークを作りながら、力強い未来を創造していったことでしょう。「令和の妖怪」と呼ばれながら(笑)。
参考
土木学会HP:古市の土木学会第一回総会会長講演・全文
お知らせ
最後に、土木リテラシー促進グループから土木偉人イブニングトークのお知らせです!