幽霊花の咲く頃に ~第五話~
【音】
音が消えたような気がした。初対面のはずの人に名前を言い当てられ、少なからず混乱する。
「何で」
「さあ。何ででしょうか?」
小首を傾げて問い返す女の子、リンさんに悪意や敵意といったものは感じられない。驚きはしたが、怖くはなかった。
何でなのか。聞いたところで答えてくれそうになさそうだった。そもそもいきなり全く知らない場所に誰かしらによって置き去りにされたのだ。見ず知らずの女の子が自分の名前を知っている、という怪現象が起こっても不思議ではない。
私は思考を放棄して意識を目の前に戻した。
「此処は何処なの?」
「何処と言われると説明が難しいの」
リンさんは困ったように笑った。反応からするに、説明は出来なくても此処については知っているみたいだ。ならば問題はないだろう。
「帰れるんだよね?」
「……うん」
間があったのが気になったが、帰れるらしい。ならば私のやることは決まっている。帰り道を探すだけだ。
一人で納得し、折角入ったのだから何かないかと室内を見渡す。
ふとあるものに目が止まった。