幽霊花の咲く頃に ~第九話~
※ 流血表現があります。苦手な方はご注意下さい。
【桁】
桁違いな血の量だった。倒れ伏す人物から流れ出る血は何時の間にか足元に到達していた。
「彼岸花の赤ってね、血の色なんだよ」
足元の血に目を向けているともう一人の私が口を開いた。顔を上げると満面の笑みを浮かべた自分と目があって、逸らしたくなった。なのに視線は縫い止められたかのように動かない。
「死んだ人の血を吸って赤くなるんだよ。ほら」
死体の周りに咲いていた白い彼岸花が次々に赤く染まっていく。目の前の自分の発言を証明するようにじわりじわりと白から赤に変わっていった。
「綺麗だよね」
「え?」
「此処にあるやつを全部赤く染められたら綺麗だと思わない?」
小首を傾げて問いかける自分から感じるのは純粋な狂気。それがただただ怖かった。
じっと私を見ていたもう一人の私は不意に足元の死体に目を向けた。先程までの笑みが嘘みたいな、氷のように冷たい視線が死体に突き刺さっている。
「もう血が出なくなっちゃった」
抑揚の失せた声で呟き、死体を爪先でつついた。
「次のを探さなきゃ……じゃあね」
手を振って私に背を向けて歩き出すもう一人の私を呼び止めようと口を開きかけ、意識が途切れた。