サッカーを通してライフスキルを学ぶために
スポーツが子供の総合的な発達にとても大きな影響を与えることは最近のスポーツ心理学では浸透しつつあります。(Pierce et al., 2016)
サウサンプトンやディナモザグレブのアカデミーコーチ達もまずは選手を人として成長すること、サッカーを通して学ぶライフスキルの重要性を強調していました。前のノート「人としての育成をすることで身につく22の要素が違いを作る。」でも書いたのですが、ライフスキルを育成することが結果的にもサッカー選手として成功するための鍵なのではないと自分の中では思っています。そして一番大事なのはライフスキルはサッカー以外の他の分野で活躍するためにもとても大切なスキルになります。
自分がここで言っているライフスキルというのは「個人が学校、家庭、生活環境などのさまざまな環境で成功するためのスキル」になります。(Danish et al., 2004)
そのスキルは認知的(判断)、知的(問題解決)、感情的(ストレスへの対処法)、身体的(フィジカルリテラシー)、社会的(コミュニケーション)などなどたくさんあります。(Neely and Holt, 2014)
このようなライフスキルは学んだ環境は違えど、他の環境にもそのスキルは転換可能でなければいけないと自分は思っています。例えば、自分はサッカーというスポーツを通してコミュニケーションの重要性を学んだのですが、確実にコミュニケーションは他の環境でも重要です。
究極ですが、選手達に突然就職活動の面接みたいなのを行い、「サッカーを通して何を学びましたか?」と言う質問をした時に、生き生きと「サッカーを通してたくさんのライフスキルを学んだ」と言えるようになって欲しいです。
「サッカーを通してインサイドキックを学んだ」としか言えない選手にはなって欲しくないと思っています。
ライフスキルを育成するためには?
サッカーを通してライフスキルを発達させるために一番と言っても過言ではないくらい大きな影響を与えるのはコーチです。
ヴィゴツキーの理論では子供は大人がサポーツすることにより独力でよりも効果的に早く発達することが可能になることを最近接発達領域として強調しています (Vygotsky, 1978)。ここからもわかるようにサッカーを通してライフスキルを育成する時に、コーチの役割は重要になってきます。
なので、今回はコーチとして選手のライフスキルを育成するにあたって大事なことの一つ紹介しようと思います。
Browley and Cox (2020)のThe Model for life skill development through coachingというフレームワークの中の一つなのですが、ここでは選手達のライフスキルを育成するにあたってまずはコーチ自身のフィロソフィーを確立することが大切だとしています。
Camire et al. (2012)もコーチが自分のフィロソフィーを持つことは選手のライフスキルを育成するためにも重要になって来ることに同意しています。
コーチが自分のフィロソフィーを持っていないと状況ごとに言うこととがコロコロ変わったり、最悪ただそこにいるだけコーチになります。確立されたフィロソフィーはコーチと選手に一貫した考え方や行動を持つための基礎を与えてくれます。
イングランドサッカー協会も”Who we are”と題してサッカー協会として確立したフィロソフィーを持っていますし、インタビューなどを見るとたくさんの監督がそれぞれ自分のフィロソフィーを確立しています。
では自分の確立したフィロソフィーを持つためには何を考えれば良いのか?
このフレームワークでは三つの要素に分けています。
1. 自分の価値観や信念を決める。
なぜ自分はコーチをするのか?
自分の中でスポーツの何が大切なのか?
自分の選手達に何を期待するか?
自分の役割は何か?
2. 選手達や親のニーズを理解する。
なぜ選手達や親は自分の練習に来るのか?
選手達や親は何を達成したいのか?
選手達や親は自分のことをどんな役割として見ているか?
3. 言動の一致。
「発言していること」「価値を置いていること」「実際に行っていること」は必ず一致すること。
言動が一致していないと選手や親は当然不信感を持ちます。
この三つがフィロソフィーを確立するにあたって大事な要素になるとしています。上を見たらわかる通りフィロソフィーは自分だけで考えるものではなく周りの環境も関わってきます。この他にもチームとしてのフィロソフィーも自分のフィロソフィーを作るにあたって影響してきます。
今回はコーチングを通してライフスキルを育成するためのフレームワークの一部を本当にさくっとなのですが紹介させてもらいました。
自分のフィロソフィーを確立することは大事ですが、固執することは危険です。自分も定期的に上の質問を思い出し、常に目の前の選手が自分のサッカーの中心だということは忘れずにいたいなと感じます。
References
Pierce, S., Kendellen, K., Camiré, M. and Gould, D., 2018. Strategies for coaching for life skills transfer. Journal of Sport Psychology in Action, 9(1), pp.11-20.
Danish, S., Forneris, T., Hodge, K. and Heke, I., 2004. Enhancing youth development through sport. World leisure journal, 46(3), pp.38-49.
Neely, K.C. and Holt, N.L., 2014. Parents’ perspectives on the benefits of sport participation for young children. The Sport Psychologist, 28(3), pp.255-268.
Vygotsky, L., 1978. Interaction between learning and development. Readings on the development of children, 23(3), pp.34-41.
Camiré, M., Trudel, P. and Forneris, T., 2012. Coaching and transferring life skills: Philosophies and strategies used by model high school coaches. The sport psychologist, 26(2), pp.243-260.
Bowley, C. and Cox, H., 2020. Emphasising Life Skills for Positive Youth Development. In: Dixon, J., Barker, J., Thelwell, R., and Mitchell, I. THE PSYCHOLOGY OF SOCCER., pp.91-104.
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