第一回川辺の創作怪談会 感想&ピックアップ
こんばんは。
2021年2月7日(日)20:00~2021年2月23日(火)にかけて開催しました、第一回川辺の創作怪談会の全作感想を発表いたします!
感想を始める前に注意事項です。
では早速全作感想行ってみよう!
全作感想
1. 勝手に開く/淡海忍
一番槍ありがとうございます!
ワンパン怪談です。ワンアイディアでソリッド。いいですね。
押し入れが勝手に開く、それをカメラで撮る、というのはよくある展開で、見えない何かを認証する、というのも最近ではあるような気がするのですが、その数が多い、というのは新鮮です。
文体も正統派怪談といった雰囲気で、ドライで淡々とした筆致が内容にマッチしています。
体験者が苦笑しながら話しているので、そこまで恐怖度は高くないのですが、不思議な話といった趣でした。
因果がねじれる系の怪談ですね。好きです。
旧Iトンネルというと、例の旧Iトンネルをモデルにしているのかと思ったのですが、N県と書いてあるので違うようですね。
かなり要素が多いです。窓からこちらを見ている住人、謎の声、塗りつぶした覚えのない紙、夢、そして「何か」。
わたしがわかったのは「窓から見ている住人」が「10年後の夢の中の僕」だったらしい、というところのみで、「何か」とは何なのかを含め、謎が残りました。
これは好みによりますが、個人的にはもう少し答えがわかりそうで、最終的に一点を残して矛盾する、くらいの謎具合が好きかなと思いました。
とはいえ、未来から過去に干渉する時空のねじれ怪談は大好物です。この話が好きな人は、「呪われた心霊動画XXX」に収録されている「赤いキャップ」というエピソードも好きだと思います。
禍話リライトやnote連載「百談」など、怪談の手練れであるドントさんの参戦です!
開催概要のnoteで、わたしは「創作怪談」を
と定義したのですが、今作は「他者の怪異の体験を伝聞調で語る形式」で始まりつつ、本題は「自身の怪異の体験」、しかも「語れない」=語らないことでその恐怖を伝えるというもの。ほとんど何の話もしていないのに、しっかり怖い。
これすごいのが、恐怖の存在ポイントがどこかというと、語り手と読者の間らへんにあるんですよね。
普通は「体験者」の位置に恐怖ポイントがあり、それが伝聞であれ一人称であれ、読者は他人事としてそれを受け取るのですが、本作は体験者→語り手→読者という流れに置いてそれぞれ秘匿された情報があり、「詳細を教えてもらえないから不気味」という語り手の体験を、そのまま読者が自身の体験として得られる、というのがかなり面白いです。
さすがの手腕といいましょうか、捻りの利いた実に結構なお点前でした。
4. ブランコの家/ダメクジラ
出たー! 家モノ! 禍ホームだ!(※禍ホームとは、ツイキャス「禍話」で語られる家にまつわる怖い話のこと)
「ブランコの家」というあんまり怖くない名前だが、その示すところがあとで明らかになるという作りが「アイスの森」のようで非常に禍(まが)いですね。さすが禍話リライト勢のダメクジラさんです。
Aの様子が途中からおかしくなってるのも好きです。バケオに共感しちゃってますね。何かの影響を受けている……。
強いて言うと、5人の登場人物が活かしきれていない気がしたのと、人が死んでるのに放置しちゃうの!? という点で別の怖さ(人間怖い)にスライドしちゃったかな……と思ったのですが、これは好みによると思います。
人死にを「就活に影響がある」って見捨てちゃうの、岡山の地底湖の事件とか案外そんな理由かもな……って思うと、それはそれで怖いですね……。
これいいですね。こちらも下限に近い約1,000字の非常にキレのある作品です。短い作品はオチでぐるりと景色が変わると気持ちいいですね。
「いない猫」であるところの「ムギ」の記憶が、名付けの由来まで含めて湧いているのがニクいです。畳の部屋もなかったのに「懐かしい」。
原因がはっきりしないので、怪談とも、「世界5分前仮説」のような、一種SF的な味わいとも捉えることができます。
懐かしい記憶の描写が非常にリッチなので、たった4行のオチが際立ちます。
感想が短めになってしまったのですが、とやかく言うよりまず読んでほしい、良い「よくわからない話」でした!
6. 爪/白身
実話怪談調ではなく、小説調の作品です。
怪異譚というよりは呪いとヒトコワ系のお話と読みました。すみません、先に謝っておくのですが、わたしがヒトコワ系に対する感度がちょっと低いので、十分に読み取れていないかもしれません。
面白いなと思ったのが、「爪を入れる」が呪いのフックになってそうで「食わせる」方じゃない(対象者以外も食べる)ということです。丑の刻参りで藁人形に髪の毛とか入れるみたいな感じでしょうか。でもなんとなく、食べた側に害がありそうな感じがしちゃいます。
とはいえ、本文中で触れられている通り、ごはんに爪入ってたらわかるやろ、ということで、実際には入っていないのかもしれません。その場合、すべてNの妄想なのか、それとも……。
冒頭で触れたとおり、怪談というより小説調なので、Nなどイニシャルを使わなくてもいいのかな、と感じました。これはわたしの個人的な感じ方ですが、怪談は怪異や語られるモノに焦点が当たっており、語り手はほぼ不在という作りが多い気がします。語り手の主観が介在しないドライさが怪談の恐怖の一因と言えるかもしれません。今作は語り手のエモーションが全面に押し出されているので、イニシャルトークでなく、ホラー小説としてそのウェットな怖さを追求するとより魅力が増しそうだと感じました。
忍足さんの解像度!!!!!
取り乱しました。ツイッターにも怪談を投稿している川系ホラー作家の盟友(と勝手に思っている)ジュージさんの作品です。
ベーシックな怪談はキャラクターより怪異に焦点を当てることが多いと思うのですが、今作に関しては「忍足さん」という、いわゆる「ちょっとやばい人」に執着される嫌〜〜〜な感じにがっつりフォーカスしています。
これは偏見と言われてしまえばそれまでですが、冒頭の外見の描写だけで「どういう性質のやばさか」がものすごいリアリティを持って目の前に迫ってきます。
そこからの「擬似的な彼氏」にしようとしてくる仕草……役満! こんな人知り合いにいないけど、絶対に知っている手触り! ぷつぷつとした不快感が全身に広がります。
怪異としては「自称霊感少女のやばい女に執着されて、その女の生霊が出た」とまとめられそうですが、今作の本懐は生霊よりも前段の「やっかいな知人に執着される恐怖」と読みました。怖かったです。
これほんとに創作ですか? 実際の逸話ではなく? と思うくらい完成度の高い、伝承風怪談です。
普段現代怪談ばっかり読んでいたので、「天保の年間」から始まる作品が来るとは思わず度肝を抜かれました。
『夢十夜』の引用から始まることで、少ない言葉数でイメージをしっかり伝えてくるのがニクいですね。仏像は仏師の意思ではなく、彫られる側にすでに答えがある。そこにすでに「邪念」があったら……? というお話です。
語り口といい、因果といい、この観音像が納められているお寺に書いてある由来だとしか思えません。一応「観音像 丑の刻参り」とかで検索してみたんですがひっかからなかったです(当たり前)。すごい……。
怖いか、と言われると個人的に怖くはないんですが、「創作怪談」と銘打って集めて、こういった作品を読めたことはとても幸せなことと思います。
カクヨムにはこの作品のみの発表のようですが、他の作品も読んでみたいと思いました。
9. ガタンガタン/かねどー
ネット怪談調の作品です。いわゆる洒落怖、2ちゃん怪談の文体ですね。
音で来る怪異はこれまでの参加作で初でしょうか。音を文章で表現するのは難しいと思うのですが、改行もうまく活用して視覚でリズム感を出しています。
内容についてはトラディショナルな怨念のお話ですが、いじめに加担していたAだけでなく、Mや「俺」が対象になっているのがなぜかな? と思いました。いじめを看過したからか、あるいは「俺」が書き込み時点で自分もいじめに加担していた事実を隠した?
少しもったいなく感じたのは、「ガタンガタン」という音が一見で「電車だな」とわかってしまうと思うので、「工事みたいな音」→「電車だった」というミスリードがあまり効果的になっていなかった点と、2ちゃん怪談文体であるメリットがあまり見いだせなかった点です。特に後者は、追い込まれている状態で書いているにしては中盤が整っているので、いっそ小説調にしても「ガタンガタン」の描写含めより生きるかもしれません。
これ、結局AやMがどうなったかわからないのが怖いですね。このあと「俺」はどうなってしまうのか……。
10. 歌う男/シメ
ヘッドホン怪談といえば、「んーーーーーーーーーーーーーーー」が有名ですが、こちらは変なことに対応するためにヘッドホンをつける話です。
起きている事自体は「不穏な歌詞の替え歌が毎日聞こえる」だけなので、そんなに怖くないようです。本人も別に怖がっていないようですね。
本人が怖がっていない話で読者を怖がらせるのって難しくて、よくある手法だと「本人だけが気づいていないけど、それってもっとやべーことになってない?」という見せ方がありますが、そういう要素はちょっと見つけられませんでした。すみません。
ただこの話、よくわからない点があって、歌が聞こえないように「深夜に」ヘッドホンで音楽を聞いているという話なのに、「最近ヘッドホンよくつけてる」と誰かに言われているんですよね。この点もですし、全体として、この話を「誰に」語っているのか、どういうシチュエーションなのかが飲み込めず、すこし引っかかりを感じてしまいました。
いわゆる怪異ではなく、ヤバい人系のお話は本作が初だったかと思います。ヤバイやつはまじで物理的な危険があるので、有無を言わさず怖いですよね……。
11. 桜鬼/ポストマン
怪談というよりは手記調の小説なのですが、その中に「父から聞いた話」という怪談が入れ子構造で入っている、独特な作りの作品です。
初読時には、すみません、結構嫌だなって思いました。ただ、その嫌な感じが、その後に続けて複数作読んだあとも印象に残っていたので、怪談や怖い話としてはかなり完成されているのではないかと感じました。
何が嫌だったのかなと考えると……
この一文が一番嫌でしたね。轢き逃げをごまかした時点から怪異の干渉が始まっていた(父の本来の倫理観や判断ではなくなっていた)と考えたい内容ですが、それであれば「父は少女の虜になっていた」くらいであってほしいものです。「想っていないわけではない」くらいの曖昧な感情で死姦をするというのが、怪異の影響ではなく、この父親が最初っからクソヤバ人間なんじゃないかという質感を作っており、ものすごく嫌な気持ちになりました。
まあもちろん父親の妄想説もあるんですが、妄想の場合、それを息子に告白しよう、というところまで自分で構築しているのがやっぱりクソヤバなのですごく嫌です。
という具合にとても嫌な気持ちになりました。嫌だな〜と思わせるのは怖い話として大変素晴らしい技量だと思います。
12. だれかがみている/狐
理屈や因果がわかるようでわからない、違和感を残す作品です。
違和感がある点を列挙してみると、
・お婆さんは何の作業をしていたのか?
・梅雨とはいえ、数日間毎日欠かさず雨が降るのか?
・お婆さんを見るのはアンダーパス道なのだから、「傘を差すこともなく」は当たり前なのでは?(主人公の認知のゆがみ?)
・犯人は「あの日から誰かに見られている」と言った→怪異は事故当日の時点ですでに存在していた?
・怪異は悪意がある→事故にあった子とは関係ない?
それ以外にも、主人公の語り口が妙に淡々としていて、最初主人公が犯人で信頼できない語り手なのかと思ったのですが、それを確信できる描写は見つけられませんでした(犯人、捕まってますしね)。
お婆さんもいかにも呪詛してそうで怪しいけど実際にはしてなさそうだし……。
この怪しさは、ミステリーで言うところの「伏線」と読み取れる描写が多いから感じるのだと思います(例えば「俺は現在時刻を確認し」など)。
ここは難しくて、この怪しい点が多い文章自体で不気味さを演出する、というのも一つの手法だと思いますし、もう少し主人公を共感しやすく造形して、怪異を恐怖の対象に絞るというのもありだと思います。個人的には怪異の怖さより全体の違和感の座りの悪さが印象に残る作品でした。
13. バレンタイン奇譚/淡海忍
一番槍の淡海さんが、早速2作目を投稿してくださいました!
「勝手に開く」と同じく、スッキリとしていて無駄のない、とても読みやすい怪談です。
結構悲惨な人死にが出ているのに、現象自体はどことなくほっこりするような、さりとて感動話に持っていくわけでもない、絶妙なバランスで書かれていると感じます。
オチもいいですね。あえてモノは見せないが何が起きているか全員がわかる、スマートなオチです。
淡海さんの作品は本当に無駄がなくて、正直感想を書くのが難しいです。見せる怪異、見せ方に迷いがありません。普段から怪談を書いたり読んだりされているのでしょうか? もししていなかったらものすごい才能です。
イメージできて、かつインパクトのある怪異を思いついたら怪談は勝ち、みたいなところがあると思っていて、2作品ともこの点がしっかり抑えられているのが素晴らしいです。
どちらかというと不思議な、不可解な話だと思いますが、このドライな筆致で恐ろしい話もぜひ読んでみたいです。
14. 失われた部屋/@styuina
隠し部屋に入っていった友人がそのまま消えてしまったという、比較的オーソドックスな怪談です。
ただ、内容以前に一番気になるのが、全く同じ文章(全体)が、二度繰り返されているということです。これはループ的な怪異を表現しているのでしょうか?
ですが内容的にはループ要素を読み取ることができず……もしループものがやりたいのであれば、語り手がループする何かしらの怪異に遭う(例えば部屋に入るのが語り手の方で、部屋の奥にはもう一つ扉があり、その扉を開いたらまた冒頭に戻るなど)描写を入れると、読者が理解しやすいかと思います。
さて、ループを置いておいて語られている内容に目を向けると、なんの恐ろしい雰囲気や前触れもなく人ひとり忽然と消えてしまうのは結構嫌ですね。異次元に行ってしまったのでしょうか。とはいえやはりネタ自体はかなり古典的ですので、作者さんならではの一捻りがあると更に面白くなるかと思いました。
※後から繰り返しは修正されていましたが、投稿時の感想をそのまま掲載します。
15. 未知の先/草食った
第二回こむら川小説大賞で同期の草さんです!
これは体験者の語りをそのまま採録するスタイルの怪談ですね。聞き手に対する語りではありますが、作品中に聞き手は出てきません。
で、内容とこのスタイルがばっちり噛み合っています。普通、自分の行動と意志は連続していますが、自分の意志と無関係な行動をしてしまっていた、ということを語るのには、伝聞調より一人称のほうがより臨場感があると感じました。
いや〜……この話めちゃくちゃ好きです。こういう、「意味のわからないことをさせられる」系の怪異って嫌度が高いですよね。
死ぬ気ないのに自殺させられそうになっているの、めちゃくちゃ嫌です。しかも「あそこにたどり着いたら絶対にええことが起きる」って思わされてるんですよね……邪悪〜〜〜!
しかし男子禁制期間でも、おっさんも獣道の途中までは入れるんですね。なのに語り手は入り口で魅入られたのは……若い男性は危険とかなのでしょうか?
山の神は女性であるイメージが強くて、また山は女人禁制が多いイメージですが、逆に若く健康な男性が獲物にされるのかな……なんて考えました。
あと本筋には無関係ですが、「絶対移り住まんけどな。」とその前後の空行に声出して笑いました。わかる。
16. 謎のメモ/@kamodaikon
タイトルどおり、謎のメモについての話です。
これ、まじで謎ですね。というのも、例えば死ぬ人の前にそのメモが現れる、みたいな因果があればわかりやすいんですが、そういうことではなさそう。現象が先にあって、Mさんはたまたま介入してしまった、という形のようですね。
「Mさんは3日後にしますか?」というのはそのメモを書いている存在=上位存在? からの明確にMさんに向けたメッセージのように思えますが、ではそれ以外は誰に向けてのメモだったのか、「ありがとうございます」とはどういう意味か……?
もしかしたら実際にはMさんの命を取ることが目的で、怪異に干渉させる(興味を持たせる)ために、事故の犠牲者の名前を書いたのかも……。
「メモ」という、コミュニケーションツールを用いた怪異だけどコミュニケーションの目的が不明なので、結局なんなのかわからない不可解な話でした。
ただ、オチは怪談としてはちょっと反則技かなと……。
今回の創作怪談の定義は
としているので、語り手が死ぬ場合は2つめの第三者視点での語りが良いのではないかと思いました。
17. 耳が見えるよ/蒼天 隼輝
個人的にはかなり好きです。
文章では難しい、ビジュアル的な怪異をうまく表現しています。
壁に耳。まあこの時点でも嫌なんですが、耳から吐瀉物。嫌すぎる。100点。
もうここの描写だけで100点なんですよ。見たことがない・想像ができる・嫌悪感を呼び起こすビジュアルを表現できているので、怪談として完成していると思いました。
ただ、強いて言うなら、第二話は蛇足だと個人的には感じました。これは好みですが、やはり後日談というのは緊張感が途切れるので、ビジュアルの嫌さを全面に押し出したまま終わっても良かったのかな〜と思います。ですが、「体験者に観測されることで耳からなんか出る」という伝播系の怪異に変容している可能性が示唆されているので、ここをポイントにしたい場合は必要ですね……うーん、これは本当に好みです。
ナツメとしては、耳から吐瀉物のビジュアルだけで十分戦える、強度の高い発想だと思いました。
18. 乗客/尾八原ジュージ
ジュージさんの二作目、下限文字数800字で参加してくださいました!
いやあ……うまいですね。怖いんですが、怖さ以上に巧みさに感嘆してしまいました。
ここの流れのスムーズさたるや!
この短さで三段構えなんですよね。ぬいぐるみが泣くという怪談をしている女性たち→自分のことを知っている→そもそも居ないという。うーん、あまりにお見事。
健康に不安がある状態という前提でのマインドセットの作り方もうまいです。また、急ハンドルからの我に返る演出なども非常にリズム感があり、3分くらいのショートフィルムにしても面白そう。お手本にしたい怪談です。とっても面白かったです。
19. スケープゴート/大塚
推し作家の大塚さんが参加してくれました! ようこそ〜。
ご本人が「これは怪談なのか……?」とおっしゃってましたが、そうですね……個人的には怪談というよりミステリかなと思いました。
怪談的な要素があるとすると、おそらく「弁護士」が死者の声を聞くことができる、というその点かなと思うのですが、ただそれは怖い要素ではないのですよね……。この辺の言語化はわたしも難しいのですが、殺人事件が起きていて、その裏に忌むべき田舎の因習があった、という見せ方は、謎解き・ミステリとしての色がかなり濃くなってしまうかな、と思いました。
おそらく同じ題材を怪談的に構築する場合は、生贄にされる子供やその土地の神を本気で信じている人間の視点で恐怖を描き、だがその裏には虐待や殺人という人間の犯罪があった、という形がスムーズなような気がします。
一応怪談会なので、怪談として……という前提で感想を書いていますが、ミステリとしては非常に面白いです!
大塚さんの作品に同じ弁護士が出てくる「身の上話」という作品があるのですが、こちらが怪談に近く、またわたしのとても好きな作品なので、本作がお好きな方は読んでみてください。
20. 視える先輩の話/白木錐角
自称「見える」人がロクでもないというのは怪談ではよくある話ですが、この先輩は良い人なんですよね。だからこそ主人公は先輩に対して悪感情を持つわけですが、なぜ良い人の先輩がそんなしょうもない嘘をつくようになったのか気になります。
お話の中心となるのはシンプルな叙述トリックですが、まんまと引っかかってしまいました。見える先輩と見えない後輩なのかと思ったら、実は逆だったんですね。
読後感としてはヒトコワなのですが、「霊現象かと思ったら人間が怖い話だった」というパターンではなく、霊現象は実在しつつ、それによって人が死ぬ直接のトリガーが人間(主人公)の悪意だったというのが新鮮でした。この点が叙述トリックに引っかかった理由でもあると思います(自称「見える」人→実際は霊など居ないという思考回路になっていた)。
先輩を見殺しにしたことを告白しておきながら「もしまたご縁があれば、その時はどうぞよろしく」と終わるのも絶妙に後味が悪かったです。
21. 家族の思い出/小丘真知
過去を改竄するタイプの怪異だ!
「思い出」という言葉がつくタイトルながら、実際には「思い出」は存在しないのがニクいですね。
似た話で、「彼女にプロポーズしたらいつの間にか別人にすり替わっていた」という2ちゃんねるの怖い話(創作)がありますが、あれは相貌失認でしたというオチで、こちらは病院に行っても異常なしということで、その可能性もしっかり封じています。
だいぶ怪異に汚染されているようで、記憶にあるのは妻ではない、と明確にわかっていつつも、そのことが妻との生活を破綻させるものではない、このまま仲良く暮らしていきたい、というのが怖いです。客観性の不在、歪んだ認識を見せられるのも一人称怪談の良さですね。
この一文も、一瞬読み流しそうになるのですが、「ついこないだ」と「二歳」が嫌な感じに矛盾して、妻と同じように「二歳の娘」がいきなり湧いてきた可能性が高いですよね……。
まあでも、幸せならそれでいいのではないでしょうか…………。
22. 今晩は/惟風
ワンパン怪談! こういうのが来ると、下限文字数少なくしてよかった〜と思います。
「完全に脈絡がない」ことが怖いタイプの怪異です。意味があるセリフではなく、「ばあ」というほぼ音でしかないものなのもポイント高いですね。
正直、前半の話はちょっとかったるいな……と思っていました。怪異の前フリとしての電話の話は良いとして、この語り手の話しぶりがなんとなくいけ好かないというか……無神経そうな語り口だなと。ですが、そういうちょっと倦んだ気持ちになったところに「ばあ」が来るの、とても効果的だと思いました。
正明からその妻(前半の語り手)、そして友人(最後の語り手)へ伝播していそうですね。無言ですぐ切れてしまうのも嫌度が高いです。
23. 益虫/ライオンマスク
なんなんですか……?
という、結局なんなのか全くわからない話でした。
益虫というのはもののたとえであって、蜘蛛の妖精(?)ということではないと思うのですが、何がきっかけでそれが起こり始めたのか、1、2ヶ月何もなかった時期はなんだったのか、なぜ戻ってきたのか、最近ものを倒したりするのはなぜなのか、なんの臭いなのか。
ただ「部屋が片付いている」だけではなく、結構現象に変化があるのですが、そのすべてが不明(わたしの読み取り不足だったらごめんなさい)。
これは難しくて、これくらいなにもわからないほうが好き、ということももちろんあると思います。個人的には、もう少し見当がつくが、確信には至らない、くらいの情報量が好みかなーと思いました。
24. 祟り梅/宮塚恵一
本作の一番の特徴は、文末に語り手の名前(仮名)が記載されていることでしょう。非常に細かい部分ですが、フェイクドキュメント的なリアリティを上げるこういった工夫はとても面白く、好きです。
内容もいかにも実話怪談といった感じで、派手な人死にとかはなく、旅先で出会った奇妙な体験、といった内容。
実は近い時期にこれに非常に似た、人の首が生る木の怪談を聞いてしまっていたため、少し読むタイミングが悪かったなという部分はあるのですが、それがなければビジュアル的にも新鮮さをもって受け止められたのではないかと思います。
怖かった、でゴリ押しするのではなく、後から思うと滑稽だ、という着地も抜け感があり、全体的にリアリティと完成度が高い創作実話風怪談だと感じました。
25. 命からの手紙/椎葉伊作
四通の手紙と、手紙を受け取った人物の友人視点の小説で構成された作品です。
怪談か、というと……どうでしょうか。個人的にはホラー小説という印象でした。今回の創作怪談の定義は
としているので、1もしくは2のスタイルが推奨なのですが、そこには当てはまらないかなと思いました。
怪談云々は置いておいて、ホラー小説としては、「こいつドクズなのに五体満足でいられないくらいで済んじゃったか〜!」と個人的には思いました。作り的にも怪異・呪い側がいわゆる「被害者」と見せているので、もっとひどい目に合わして溜飲を下げたかったな〜という気持ちはあります。
ホラーではヘイトコントロールが難しくて、呪われ側がクズだと怖さが反比例して減っていくので、怖くするか、スカッとさせるかの指針を決めておくと良さそうです。
26. いとまき/@Mark_2
怪談に触れた人の話でした。
どうも「蚕」に関連しそうな、しかしそれぞれは全く関係のない2つの怪談を知ってしまったがゆえに、自身の身に何か起こりそう……という、「知る」そして「組み合わせる」ことが怪異の発動のトリガーになっているのは、ひねりが効いていて良いと思いました。
しかし、この話の怖さの核が、すみませんわたしはどうも掴みきれませんでした。2つの怪談はそれぞれ「不思議な話」の域を出ず、また「知る」ことで起こっている怪異も、そこまで危険性の高いもののように思われず……。
個人的には、この2つの怪談を結ぶ因果がもう少し明らかになるか、もしくは知ったことによって自身にも「蚕」にまつわるインパクトの大きい怪異が現れる、となっているとより怖く(面白く)感じられそうだと思いました(後者の場合は読むと呪われる、いわゆる「自己責任系」の怪談になりそうです)。
「くわこゆき」が「桑古ゆき」だと特定しているので、語り手がそれを特定するまでになにか恐ろしい事実があった、とかのアプローチも面白そうです。
27. 隙間/江川太洋
おばけの出ない怖い話が好きです。
人の意思とか恨みつらみとか、ウェットな話も面白いんですが、理解可能な分、共感にも近く怖さが薄れやすいと思っています。その点、現象の怪異は怖い。相手に共感可能な点がなく圧倒的だからです。
ということでこの「襖に隙間があると傾斜を感じる」という怪異も非常に怖く、また対処のしようがなく、とても面白いと感じました。
台形の部屋、隙間、傾斜と、それぞれの要素自体に本当はつながりはないのに、なんとなく関連して感じられる要素の配置も非常にセンスが良いと感じました。
風が吹いてくる、というのは、転げ落ちる・吸い込まれると逆向きの力なのでちょっと違和感がありましたが、襖の先が空間であるというイメージでしょうか。
理由も因果もわかりませんが、出遭ってしまったらめちゃくちゃ嫌な、攻撃力の高い怪異でした。
えーっと……これはSCPとか、そういうやつの系譜でしょうか?(SCPを履修していない人間)
なにかしらのデジタルデバイスへのアクセス、音声データの再生、データに紐付いた記録情報の出力、という形になっています。
今回の創作怪談の定義は
としていますが、かろうじて2に近いのか……しかし怪談かと言われると、怪談ではないのかなあと個人的には思いました。
内容は、認識すると自殺する認識汚染系ミームを拡散実験したが自殺には至らず、その際に汚染された人間への尋問?のログが二話目、そこで語られる「すぴっかりんぱりぷう」という語は実際にはそのミームそのものではなく(「記憶における秘匿性、思い出すことを躊躇わせる性質」)、この性質を引き継ぎつつ更に殺傷能力の高い認識汚染ミームの開発をしている……つまりテロ組織ということでしょうか?
文脈を共有していないので理解がかなり難しかったです……すみません。詳しい方の解説や感想を聞いてみたいです。
いやあ……怖いですね。怪異を招いてしまう人間の話です。
おじいさんのヤバさが怪異だけによるものではない感じなのがとても嫌です。あくまでこちら側でのヤバい人のロジックというか……ものが捨ててある、それはけしからん、だから拾う。ゴミ屋敷の人とか、そういう実際にいる迷惑な人のトンデモロジックに、おばけも乗っかってきたのでもう大変! という感じです。
最初の花のときに来ちゃったのが大物で、それにつられて他のお客さんも来ちゃったんですかね……。
お役所仕事にもやや闇がありますが、まあ実際どうしようもないし、全部やってくれるのはいい上司だなと思いました。
ところで二度ほど「Mさん」が登場しているのですが、これはGさんのことでいいのですよね……?
30. 独居/白身
お片付け系怪異です。本イベントで2作目ですが、お片付け怪異は結構ニーズがあるんでしょうか。
怖いというよりある意味ほっこりというか、怪異に遭ってるはずの人がめちゃくちゃ図太いという、あっけらかんとしたお話ですね。
しかしながら、金縛りが解けたと思った瞬間に声がするくだりなんかは結構怖いです。
最後にも「あのひとたち」って書いてあって、「えっ、複数なの!?」とここで明かされる新情報にぎょっとします。
しかし結局怪異すらも利用して生きていくという主人公の姿勢で読後に怖さはほとんど残らないので、やはり生きている人間が一番強いんだなと思いました。
31. 実話怪談と電話/尾八原ジュージ
ジュージさんの三作目です。
実体験とのことですが、レギュレーションに則り創作怪談として感想を書いていきます。
そうですね……創作としては、現象と原因の因果関係が薄すぎるかなと思いました。
切っていないはずの電話を切ったと言われることと、買ってきた怪談本の間に読者視点では因果関係を見出すのはやや難しいです。もう少し伏線めいたものがあったほうが満足度の高い怪談になるかなと感じました。
とはいえ、実際に経験した恐怖は本物だと思うので、現象を派手にしないのであれば、感じた恐怖をおばけでたとえて書いてたりすると、それはそれで読み応えがありそうです。まあジュージさんに怪談のことをどうこう言うのは釈迦に説法だとは思うのですが……。
もちろん読みやすい文章、表現力については文句なしです。
ドントさんの三作目です!
これはうまい。見る人によってその意味が大きく変わってしまう、という仕掛けの怖い話です。
半跏思惟像の手、思わず自分でもやってみてしまいました。確かに耳元で囁く形にも見える……ぞっとしました。
「生きましょう」→「逝きましょう」はすこしベタかもしれませんが、半跏思惟像でイメージしたビジュアルが「逝きましょう」と言ってくるのはかなり嫌です。
ところでこちらでも「Gさん」が二度ほど登場したのですが……「客の来る家」のGさんではないですよね?
33. 怪談を創作する/江川太洋
本イベントでは珍しい、上限に近い長めの作品です。
創作怪談会なので、怪談を創作すること自体の話もくるかな〜と思っていました。
面白いのは、語り手が「呪いを行う側」であることです。最初こそAから聞いた怪談ですが、怪異を伝播させるためにそれに肉付けをし、他の人間に吹き込む、これは明確な「悪意による呪い」であると思います。
そしてこれはメタ的に「読んだら呪われる」いわゆる「自己責任系」の怪談としても機能しています。
結果的に作りのスタイルとしては、怪談というより「怪談論」になっているのですが、ラストで語り手が「怪談」と言い切っているので怪談ということにしましょう。
この作品は読み手を選ぶ、と思いました。主人公が言霊を知覚する「スーパーパワー」の持ち主であることを受け止められるかどうかが分岐です。わたしは超能力系はリアリティラインのチューニングが難しく、ちょっと苦手なタイプです。これをスーパーパワーでなく、一般的な人間の認知の問題にしては成り立たないかな……? と思ったのですが、それだと怪異ではなくなってしまいますね……。
語り手の、他人の生き死により「言霊」にこだわる点は単純におぞましいと思いました。それを「以上が私の創作した怪談である」と締めるのは非常に邪悪ですね。
34. 廃神社の管理人/ナツメ
自作です。人から聞いた話を元に後半部分を創作しました。
たぶんそのうちBさんあたりが管理人になるんだと思います。
35. 母の遺品の原稿用紙/シメ
これは未来予知? なのか因果がねじれているのか……なんとなく割り切れないものが残ります。
この原稿はどの時点の、誰の視点で書かれているのか。母は向かいの首吊り自殺や近所のボヤ騒ぎは実際に見ないまま亡くなったはずですが、そうするとその後の
というくだりは、本当に母自身のことなのでしょうか? もしかしてこの文章全体が「私」の視点で書かれているのでは……と、なんだか不安な気分になりました。
一点だけ気になったのが「立地が鬼門」というくだりで、これはどこから見た鬼門なんでしょうか……? 不動産で一般的に(例えば皇居から見て、などで)「立地が鬼門」という表現があるのでしたらすみません。
36. 別れた理由/尾八原ジュージ
ジュージさんは4作目も下限文字数で参加してくださいました!
シンプル。そして嫌。生理的嫌悪に全振りした作品です。
蟻というチョイスも良いと思います。蛆とか芋虫などのうねうねしたウェットな質感のもの、もしくは大きさのあるゴキブリなどはそれ自体への嫌悪感が大きいですが、蟻はそれ単体であればそこまで不快でもない人も多いかと思います。しかしそれが生活空間に侵入してくる、そして彼氏の口から出てくる、という「現象」と組み合わさったときに最大風速の嫌悪感が出ます。
彼はそれを知らないまま、治しようもないまま、そのままなんでしょうか……。
顔に蟻というモチーフ、「へレディタリー/継承」を見た人なら尚怖く感じられると思います。
やったー! バカの怪談だ!
怪談だけど笑える話、心霊ドキュメントのネタ枠、そういったものは必要です。呪われた心霊動画XXXでいうところの「浴槽X」枠ですね。
とはいえ、出来事として怖くないわけではありません。花子さん側は冗談のつもりかもしれませんが(?)「はい」を「はーい」にするのもなんだか邪悪な遊び心って感じがしますし、1時間開放してくれないのもかなり意地悪です。
ドントさんは明確にこれを軽快でコミカルな話として書いているので、必死に謝るNさんたちの語彙など、クスリと笑えて怪談会の良い箸休めになってくださいました。
いやーこういうの好きだな。
38. カンザシメ/佐倉島こみかん
怪異と遭遇……と思いきや、田舎の因習だったホラーです。私事ですが、最近「ひぐらしのなく頃に」にハマっているので「雛見沢かよ!」と思ってしまいました。
さて、本作は今回の創作怪談の定義を満たしているのですが、個人的には怪談というよりミステリである、という印象を強く受けました(それが悪いということではなく、怪談とは、ミステリとは何か? と自分で考える良い材料になりました)。
作品の感想から少し外れてしまうかもしれないのですが、なぜそう思ったのか自分なりに分析してみると、この話の「怖い」部分は「現象」ではなく、「説明」だからそう感じたのかもしれません。
「私」はカンザシメを目撃していない=なんの現象も知覚していない、美晴はカンザシメを目撃しているが、それを目撃した事自体ではなく、それが村長に見え、そこから推理した殺人の可能性に怯えている。
だからこの話に「怪異」は存在せず、「殺人の可能性」という非常にミステリ的なものが恐怖の対象に置かれていると感じました。
5,000字程度と非常に短いため、推理に伏線がなく美晴のセリフだけですべてが説明されるのがやや唐突に感じてしまいました。2〜3万字程度のホラーミステリ作品として読んでみたい作品です。
39. 回転/川谷パルテノン
パルテノンさんの2作目です。
わたし、これめちゃくちゃ好きです。
ものすごく感覚的なことを言うのですが、幽霊画を見に行ったらポップアートだった、みたいな感じです。現象が非常に斬新で、いわゆる怪談的な恐ろしさの中で異質に感じました。
眼球がぐるぐる回り続ける、というのはセンセーショナルで、何故か無機質さやドライさを感じる不可解さがあります。
怪異を摘出しようとすると施術者に不幸が起きる、というのは、例えばこれが「呪われた桜の木」とかだったらよくある話なのですが、「回転し続ける眼球」になった途端新鮮さを持ちます。
まったく理解不能なのに、明確な現象と明確な結果だけがある。未体験の恐ろしさでした。
ちなみに「回転」と「眼球」のモチーフにぐっときた方は、「うずまき」という映画もおすすめです。
40. 崖/宮塚恵一
宮塚さんの2作目です。
現時点では「怖い」ことは起きていないのですが、今後恐ろしいことになるかもしれない……という、不気味さを残す不思議な話です。
しかし、例の「灯り」が本当にPに幸運を運ぶものかというと、怪しいですよね。そもそも最初のときは、その灯りに誘われて屋上から落下しているのですから、そんなに良いものでもないのではないか、という気がします。
次に灯りが示したものは到底行けない宇宙ステーションの中だった……ということですが、個人的にはこの恐怖を恐怖として感じるのは、読み手には結構距離と解釈の余地が大きくて難しいのかな……と思いました。
灯りが示しているのは実際に宇宙ステーションという場所なのか、その宇宙飛行士個人とのなんらかの接触を示しているのか、灯りを見てから行動するまでに許された時間はどれくらいなのか、もし即時の行動が必要なら、何も宇宙ステーションじゃなくても、テレビ越しに見た隣県の映像でもアウトではないか……。わたしとしては、情報が多すぎると恐怖を感じにくいと思っています。しかし、これを恐怖というよりも、漠然とよくわからない話だな、と首をひねるような読後感を狙っているのであれば、その目論見は成功していると思います。
41. マルチトラック/マツモトキヨシ
解釈が難しい作品でした。的はずれな感想を言っていたらすみません。
オンライン会議中に、相手の部屋に人間か怪異かよくわからない謎の女が侵入してきた話、と思いきや、実はその時間に相手は自宅にいなかった、という二段構えの怪異が起きます。
しかしそれ以外にも謎の生き物、窓の外の人々、実在しない扉など、不可解な要素が多いです。
タイトルの「マルチトラック」と関連付けると、複数の無関係な怪異が、多重録音のように重ね焼きされて主人公のオンラインミーティングに映し出されていたのでしょうか……?
前の感想とかぶってしまうのですが、個人的には謎が多すぎると考えてしまって、どこに恐怖していいかわからなくなってしまうことがあります。もちろんこれは好みだと思うので、わけのわからないことが畳み掛かってくるのが怖い……ということもあると思います。
作りとしては怪談というよりリアルタイム性の強いホラー小説という印象です。
リモートワークというトレンド性の高い話題を「日中というこれまでいなかった時間帯に自宅にいること」として、そこを怪異の発生場所とするのは、共感しやすくセンスが良いと感じました。
42. 指狩り地蔵/大塚
大塚さんの2作目です。
作りは前作と同じく、弁護士が話を聞きに行った相手の語り、そして最後は弁護士自身の語りとなっています。
いわゆる因果応報の話ですね。呪いを行ったら呪いが返ってきた。現象だけ見ると人為的なものとも考えられますが、死者と対話できるらしい弁護士が「此枝花見は自分の身に何が起きたのかを正確に把握している」というからには、呪いが事実なのでしょう。
それにしても、インフルエンサーになるために(物理的に)指を狩らせた、というのはどういうことなのでしょう……? わたしの読解力不足だったら申し訳ないのですが、他人が指を一本失うことが、北都がインフルエンサーになることの足しになるように思われず……まだ3,000字弱余裕があったので、その辺のイメージがつくエピソードがあると嬉しかったです。
2作拝読して、大塚さんはキャラクターを描くのが上手だなと改めて思いました。少ない字数の中、言葉遣いや仕草などで此枝のキャラクターが十分に描写されています。怪談とキャラ立ちの食い合わせの最適解が、わたしはまだ見つけられていないのですが、もし今後も怪談に挑戦されたら、その新境地にたどり着くんじゃないかな、と思いました。
「いない猫」の朧さんの2作目です。随分タッチが違うので、一瞬同じ作者さんだと気付きませんでした。
一見可愛らしいタイトルとは裏腹に、京極夏彦を彷彿とさせるような筆致で「井戸の呪い」という湿っぽい題材を描いています。
先に「怪談かどうか」の話をしておくと、怪談ではないと思いました。
今回の創作怪談の定義は
としています。本作は「この話は、誰にも語ることはないだろう。」と締めくくられているため、これは「語り」ではない、ゆえに上記の定義には当てはまらないと考えました。
怪奇小説といったところでしょうか。
内容については、わたしの読み解きがあっているかわからないのですが、怪異そのものというより、友人の細君が「友人の誤認を知った上で、あえて放置して呪われるように仕向けたのではないか?」という話かと思いました。子供のくだりは……すみません、いくつか可能性は考えたのですが、これが解だというものにたどり着きませんでした。
個人的には、ヒトコワであるならもう少しクリアな解(少なくとも主人公がどういう解釈をしたのかの共有)があっても良いのかなと思いましたが、単にわたしが読み落としてる可能性もあります。
あまりにも怪異に焦点が当たらないので、実際は呪いなどなく、細君が毒をちょっとずつ盛っていた……みたいな話なのかなあ。
44. 金曜日はカレーの日/白身
白身さんの3作目です。
この話は、明確に怖いことや危険なことが起こっているわけではないのに、怖いと感じました。
イラストを用い集会のポスターという、一見すると無害でかわいらしくすらありそうなものが、薄気味悪さの対象になる、そのギャップがとても良かったです。カレーの匂いというのも、家庭的であたたかなイメージがあるので、それを不気味さで上書きされてしまうのは攻撃力が高いです。
団地のE棟に関するエピソードは結構多く語られるのですが、なぜ金曜の22時にカレーの匂いがするのか、その因果関係は明らかになりません。最初の一家心中した人の恨みがその後の火事や食中毒を引き起こしたのか、カレーの匂いは食中毒で亡くなった人の怨念なのか……ただここはあまりクリアにならなくても良いと個人的には感じます。わかりそうでわからない、なんとなくつながりはあるんだけど確定はしない、そういう塩梅が好みなので、個人的にはとてもツボにハマりました。
45. 0感少女/佐倉島こみかん
「カンザシメ」の佐倉島さんの2作目です。
通常は「霊を見る」ことがイレギュラーですが、それを逆手に取って、「ひとりだけ霊が見えなかったら?」というお話です。
実際には二度の目撃があるだけで、霊障などは起きていないので、上記のひっくり返りの部分が主題だと思いました。
ただそうすると、タイトルと最初の墓参りを目撃する部分でオチが読めてしまうのが少しもったいないなと感じました。
Aちゃんだけが何か霊的な現象に遭っているとミスリードして、最後に霊感が全く無い、ということは……? となったほうがより効果的かもしれません。
「オーシャンビューならぬ墓地ビュー」というフレーズがなんだかかわいらしくて印象に残りました。コミカルに振った怪談にも挑戦してみてほしいです。
ドントさんの5作目です! たくさんの参加ありがとうございます。
因果ねじれ系です。過去に自分をゆすっていたのは、未来の自分の娘だった。
下限ぎりぎりの801字ということで、なぜそんなことが起きたのか、なぜ老婆の声だったのか、そのあたりは一切なし、投げっぱなしです。
個人的にはこういうタイプの話はあんまり怖くなくて、それは娘さんも無事中学生になっているようだし、特に霊障が起きていないように見えるからです。老婆の声なのも、あまりに情報がないので、「その声になるまで無事長生きするのかな〜」とポジティブに捉えてしまいました。
「怖かった」ではなく「気がかり」ということなので、Sさんにとって老婆の声がどう気がかりなのか、どういう想像をしたのか、あるいはどういうエピソードがあるのか、その一点の開示が欲しかったなと個人的には思いました。
5本とも正統派の怪談文体で書いていただけて、とても満足度が高かったです!
47. ワタヌキさん/電楽サロン
珍しいサイコスプラッタホラー(かな?)です。
怪談ではないのですが、怒涛の勢いがある怪作です。
うーん、これ怪談として書くのは難しいですね……一応怪談をレギュレーションで規定しているので、レギュレーションを満たしていないものに関しては「ここをこうしたら怪談になりそう」というのをできる限り書いてきたつもりなのですが、内容的に怪談には向かなそうです。しいて言うなら2ちゃん怪談である「語り手が語りながら発狂していく系」の怪談でしょうか。
家庭訪問以降は全員発狂状態で、何が実際起きていることなのか、加工された人間がどういう状態なのか、なぜ主人公はこの状態で逃げ出さないのか、などを問うのは野暮という感じです。
なんとなく園子温の映画でありそうだなと思いました。あと映画版「魍魎の匣」も少し思い出しました。スプラッタ表現や加工された人間、父の牛刀など、映像に向いていそうだなと思う反面、小説でこういう表現ができるんだなと勉強になりました。
48. 日記/QAZ
「日記を拾ったという日記」と「拾った日記の内容」、「メール」「書き込み」といったあ断片的な情報が羅列された作品です。
今回の創作怪談の定義、
には当てはまらないのですが、最後が何かへの書き込みのようなので、2ちゃん怪談の系譜っぽい印象も受けました。
いわゆる「藪の中」で、誰が真実を言っているのか、客観が存在しないためわかりません。
日記を書いた女が殺人を犯した?→その父親が情報公開を止めるために殺害→だがもとの日記自体が父親の創作である可能性の提示、と話が三転するのが面白いです。ここまで来ると、最後の話もまた嘘かもしれません。
気になったのは「追記」の日付です。「2012年12月24日(本文では14日)」と「追記」は妹によるものと思われますが、「追記」の日付は「2012年1月10日」、つまり兄の書きかけの原稿を見つける12月の1年近く前です。「追記」の内容をもらった時点では真に受けず、兄のPCから「追記」で受け取ったメールと同じ「羽海野」姓の人間の名前を見つけ、メールするに至ったのでしょうか……。
こんな感じでミステリ的に考察したくなるタイプの作品でした。
49. 格安物件/小丘真知
上限字数にかなり近いですが、さっくり読める怪談です。
事故のない事故物件、良いですね。
語り口が軽やかで、不動産屋のおばさんのキャラクターが立っていたり、怪異の裏側も(おばさんの予想ですが)かなり明確に説明されているので、怖いのが苦手な人でも読みやすいのではないでしょうか。
ですが、起きてる現象がかなり派手めなのが良かったです。人死には出ませんが、怪異の表出が悪意を感じるもので、そこできっちりと恐ろしさを押さえています。
霊能力者が出てくる怪談は、個人的には白けてしまうことが多いのですが、祓うわけでもスーパーパワーを持っているわけでもない、おばさんのリアリティの塩梅もちょうどよかったです。
それまで「おばさん」と呼んでいたのに、おばさんが自分のことを「お姉さん」と言った途端に地の文も「お姉さん」になるの、素直でほっこりしました。
素晴らしい。大変滋味のある良い怪談です。栄養価が高い。
とても本格的だと感じました。怪談を書き慣れていらっしゃるのでしょうか?
伝聞調でドライな筆致ながら、現象の表現がとても豊かです。たとえば、
など、地の文とセリフの演出もピリッと効いています。
そして「借りています」という言葉も絶妙。個人的に、因果はある程度わかりつつ、意志のある怪異の場合は、その怪異の意図はあまりわかりたくない派です。怪異への共感可能性は恐怖を下げると思っています。その点、「借りています」は、どういう状況かはわかるが怪異の意図や感情は読み取りづらい、ちょうどよい言葉だと思いました。
奇をてらうのではなく、ひとつのストーリーにひとつの怪異を丹念に描く怪談、こういったものを自分も書いてみたいと思いました。
続けてmituyanagi4さんの2作目です。
こちらもとても素晴らしいですね……とにかく読んでくれという気持ちです。
良すぎると感想が難しいんですが、なんとかひねり出してみます。
本文のこのフレーズが、まさにわたしが怪談に求めるものだなと感じました。なので、僭越ながら作者さんとわたしは恐怖の感性が近いのかもしれません。
うらめしや、とおばけが出るのではやりすぎだし、かといってただの物音では物足りない。この怪異のバランスが非常にわたし好みで、もっと読みたい! と思います。
前作に引き続き、時系列の前後や飛躍がなく、ひとつのシチュエーションでひとつの怪異をしっかりと描く、という芯の強さが作品としての完成度、強度を上げていると思いました。
mituyanagi4さんの3作目です。
本イベントでも何作かあった田舎の風習にまつわる話ですが、その風習自体はあまり邪悪ではなく、起きていることも事件の類と言うよりも超自然的ないわゆる怪異のようです。
作中で言及されているように、娘のNさんではなく、母親の方に異変が起きていたのではないかと思わされます。しかも、同じ風習で同じ現象が起きていなそうなので、実は風習とは全く関係ない、通り魔的な、偶然出遭ってしまった怪異なのではないかとも思いました。
全体的に恐怖度は低めかな、と思ったのですが、最後の
というフレーズでゾッとします。母親が言葉通り「別人」になっていたのであれば、「どちらが」戻ってくるのか、という、ここでタイトルが「Nさんか母親か」「あの日の前の母親か、あの日の後の母親か」のダブルミーニングになっていたと気付きます。ニクいですね。
カクヨムではこの3本しか書かれていないようなのですが、ぜひこれからも怪談を書いてほしいと思いました。
53. ひとつ屋根の下/尾八原ジュージ
ぎゃー!
ジュージさんの5作目です。コミカルなのに怖い! 怪異と蒔田、両方同じくらい怖い!
怪異に張り合う鈍感さ、シンプルに恐怖の対象ですよ……ナイフで刺されまくってるのに平然としてるようなもんじゃないですか……。
彼女が死んでるのにノリが軽すぎるし、正直怪異より蒔田のほうが怖いかもしれません。
こちらもほぼ下限字数で疾走して綺麗にオチる、手腕を感じる作品でした。たくさんのご参加ありがとうございます!
54. ななにん/シメ
シメさんの3作目です。
形式は怪談ではないかなと思いました。過去の怪異について当人/第三者が振り返って語る、というのを怪談の定義としていますが、語り手は怪異の認識がなさそうなので。
というか、これ怪異なんでしょうか……? すみません、わたしは怖いポイントがあまりわからず……事故による記憶の混濁、精神疾患、あるいは薬物摂取などによって混乱している人間の話の聞き取りという印象を受けました。
とくに病院での聞き取りなので、上記の可能性を強く感じてしまいました。
たとえばこれが聞き取りを行った医師視点や、退院後に話した友人の視点などで、彼にはなんの異常もないと担保した上で「しかしそんな友人はいない」→「ということはその謎の七人も……?」と持っていったほうがわかりやすく怪談になるかな、と感じました。
七人は七人ミサキでしょうか? 七人ミサキはひとり死んだらひとり成仏するんだったと思いますが、吉田と井上は実在しないし、彼は死んでいないので違うでしょうか……。
55. 禁足地/江川太洋
江川さんの3作目です。
ここまででおそらく初のクリーチャーもの。語り口がウェットな怪談ですが、語られているのは洋画のクリーチャーホラーといった趣があります。
これは予想をしていなかったのでちょっとポカンとしてしまいました。おかげでOさんの小指の話だということをすっかり失念してました。
禁足地にクリーチャーがいるというの、とても面白いと思います。その先の展開からするに実際にクリーチャーがいるというより、呪いの概念に擬似的に姿が与えられている(あるいはOさんのイメージ)という感じだと思いますが、ビジュアルがなんとなく彼岸島っぽくて好きです。
その他にも、鳥居をくぐったら寒気がするのではなく「熱帯夜並みに湿っぽく」なるとか、亡霊がめちゃくちゃそのへんに普通にいるのとか、定番からズラした表現が独特でした。
56. 地の底へ/一志鴎
邪悪な「考える人」のお話です。
「考える人」の由来から逆算されたと思われるお話で、この発想は面白いです。「考える人は地獄の門の上にいる」→「考える人が覗く先は地獄」ってわけですね。
事故にあったみんながみんな、考える人によじ登ったとは考えにくいので、地獄を見たのは主人公だけなのではとわたしは思いました。
あの姿勢が実は笑いをこらえていた、というのもいいですね。
場所が日本だと鬼がいる日本の地獄になるんだ、というのもユニークでした。怖いというよりは面白い、軽妙なショートショートという印象でした。
57. 誤呼/御調草子
御調さんの怪談だー! と思ったのですが、これ、怪談ではなかったですね……笑
今回の「創作怪談」の定義は
としているので、1にも2にも当てはまらない本作は怪談というよりホラー小説、というか、現在ドラマかもしれない、と感じました。
というのも、「お母さんと呼ばれた先生が死んだ」という怪異の部分よりも、その前の新人イジリや、それに対して声を上げたときのひりつく空気などが、本作の最もおいしい部分だと感じたからです。正しいことを言ったのに場が気まずくなるの、身に覚えがありすぎて……。
ここがあまりに鮮やかなので、続く怪異の部分のインパクトがやや薄れているかな、と個人的には思いました。「お母さん」と呼んでしまう、というのは定番ネタなので、怪異の発動フックとしてはかなり弱いというか、難しいなと感じます。笑ってた顔が同じというのも、まあ新人の方は飲み会で笑うしかないというのも容易に想像ができるので、坂下の考えすぎじゃないかなと……これが怪異である、恐怖すべき対象であるという「恐怖の説得力」に関して、もう一手ほしかったな、と思いました。
しかしこれ、怪異というのが比喩で、前半の鮮やかなイジリについての問題を風刺したものかもしれません。イジリを行う人間が辿る末路が悲惨であってほしいと、わたしなんかは思ってしまいますね。
58. みがわりのまつり/百舌鳥
田舎の儀式系の中でも、攻撃力高めの話でした。
名前を名乗っちゃいけない、と、のっけからヤバがフルスロットルです。変なもん食わされるし、明らかになんかの儀式に参加させられてるし、完全にアウトです。
これ、最初は死んだ人を受肉=復活させるのが目的かと思ったんですが、国交大臣はこの村の出身ではなく、この村のダム計画の決定者なんですよね(また「雛見沢か!」と思ってしまった)。ということは、この村に害をなした人を受肉させて、その後復讐する、とかなのでしょうか……?
もしそうなら、そのまま受肉していたら殺されるまでありえるわけで、ちょっと邪悪すぎます。ですが「身代わり」と言っているので、その可能性は高そうですよね……。
ヤバ度が高いとリアリティが薄れてコントロールが難しいと思うのですが、お面をつけての儀式がカルト教団っぽかったり、ギリギリのリアリティを保ってマックステンションで駆け抜けた印象がありました。
運転手が「どうしよう」と言っていたのが気になりますね……儀式に失敗すると村人になにかあるのか……。
59. 事故物件の事務所/ナツメ
自作二本目です。
ちょっと語るに落ちた感じがあります。
草さんの2作目です。
サゲマンってそういう文脈でも使うんですね(肉体関係があるときに使う言葉だと思ってました)。
怖がるのもなんだか気が引ける、みたいな話でした。Aさんが悪意を持ってやっているならまだしも、本当になんとなく、ただ周りが勝手に不幸になってしまうんだったら……Aさんに幸せになるなとは言えないし、うーん……とモヤモヤした気持ちが残りました。
まあそれを気に病まずに「なんとなく」で生きて行けているAさん自身については心配ないのかな。結婚相手が無事だといいなと思いました。
61. 七人/@dekai3
内輪ネタだ!
創作怪談イベントに小説を出すため、というメタ的な本作。内容としてはいわゆる降霊術をやってみた、というものです。
ディスコードを使った降霊術というのが今っぽくていいですね。昨今、ZoomやFacebookをモチーフにしたホラー映画がちょいちょい作られていますが、その系譜という感じ。
ナナコさんは言い出しっぺなのになぜ途中でディスコを見てしまったのだろうか……。
しっかりひとり増えて、それに気づかないまま終わるという、定石を外さない、読みやすい怪談になっていると思います。
内輪ネタは良し悪しだと思いますが、七人と人数が多く、名前も個性的で、かつ誰が誰だかセリフだと判別がつきにくいので、思い切って名前を出すのをナナコさんと太巻きさんだけにしてしまっても良かったかな、と思いました。
あとURLは実際に冷凍チャーハンの動画だったので後で見てみます。
62. 叩く者/白木錐角
「視える先輩の話」の白木さんの2作目です。
「入ってます」が「部屋に入ってます」ではなく「この肉体に入ってます」ということだったんですね。言われて引き下がるなら素直なおばけなのか……?
中盤に、
というくだりがあったので、鍵の有無は関係ないのかと思っちゃいました。扉が開放されてたらこないのに、閉じてあって鍵がかかってないと来るのか……。
この辺は結果を知っている新田が話す内容としてはややミスリードになっているかなと感じました。
クライマックスはAの「はいっていまァす」で、これは笑顔も合わせて不気味でした。
63. メイクライン/坂崎かおる
不思議な二人組と出会ったお話。
この二人組のビジュアルや存在感がいいですね。男女だけど似た容姿、同時に喋る、異様な雰囲気だけど話し方は穏やか。小学生時代の夏休みという特別感と絶妙にマッチした、不思議な存在感がありました。
プールから一緒に帰った友人の死が果たしてこの二人の「線」と関係あるのか、という点については、主人公やTがなぜ関連付けて考えたのかは、ちょっと読み取れませんでした。
また「線を越える」というのはA地点からB地点への移動という動きそのものを指すと思うので、主人公たちが「越えていた」のではないか、というのはやや疑問でした(プールへの行きに「越えた」ということ?)。
とはいえこの考え自体、主人公の想像でしかなく、実際の怪異の発動条件とは違うのかもしれません。
いずれにせよ、主人公たちになにかの非があるとは思えないので、友人の死が本当に彼らのせいだったら、実に理不尽な怪異ですね……。
64. K田/三谷一葉
怒りと勢いがすごい!
「あれ、これ怪談のイベントだよね……?」となるほど、前半部分は怒涛の怒りが繰り広げられます。
で、後半の展開で「え? え?」となってしまいました。
K田、実在しないん……?
いや、実在しないんだったらコンプラ窓口の対応おかしくないか? そんな社員は実在しない、と主人公の精神状態を懸念して産業医面談になる、とかならないとおかしい気がします。
となると、K田という社員は実在して、しかし「つきまとってくるK田」という存在は、いわゆる生霊ってこと……?
「K田から逃れるためには、ちゃんと断らないといけない」ということですが、主人公は序盤でちゃんと断っているにも関わらずつきまとわれてますよね……うーん、謎が多い……。
謎自体は残ってもいいと思うのですが、前半でセクハラに対する怒りを描写したのに比較して、実は怪異でした、という後半部分の言葉が少なめで、わたしは主人公と同じ理解には至れませんでした。すみません。
相手が実在しないからの対応かもしれませんが、尻触られてセクハラじゃないという会社は今どきヤバすぎるので早く転職したほうが良いと思いました。
ピックアップ10選
では、上記64作品からナツメの好みだけで選んだ偏愛作品10本をピックアップ!(投稿順です)
勝手に開く/淡海忍
一番槍にして正統派! まさに怪談といった作品でした。
ともだちの実家/ドント in カクヨム
何も説明されていない、なのに怖い。ひねりの効いた匠の一品。
いない猫/朧(oboro)
すべてをひっくり返すラストが最高にクール。
彫像/@rarara_brahmin
あまりにも完成度が高すぎました。創作怪談の可能性を見た。
未知の先/草食った
一人称怪談の旨味がぎゅっと詰まっている。自分の意志を乗っ取られるのが一番怖い。
耳が見えるよ/蒼天 隼輝
ビジュアル賞。一度想像してしまったら脳にこびりついて離れない。
乗客/尾八原ジュージ
あまりに端正な怪談。800字の芸術。
回転/川谷パルテノン
もしこれが小説大賞だったらわたしは大賞に推してました。五億点。
金曜日はカレーの日/白身
忌々しいものも、知らなければ微笑ましく見えてしまうというのが恐ろしい。
【怪談】百余物語/@mituyanagi4
とにかく怖い。読みたい怪談がここにありました。
こうしてみると、シンプルで短め、怖いポイントが一つに絞られている、というような共通点のあるピックアップになりました。
しかし、「怖い」という感覚は人によってとても大きく異なります。
ナツメの好みが万人の好みではないと思うので、みなさんもぜひ自分の怖い感覚にマッチする作品を探してみてください!
ファンアートの紹介
イラスト:ジュージさん
作品:カンザシメ/佐倉島こみかん
PDF本について
まだまだ目処は立っていないので、進捗を随時Twitterで報告します!
PDF本に掲載したくないという方はナツメまでリプorDMでご連絡ください。
また、こちらである程度の校正(字下げなど)させていただこうと思うのですが、それも不可などありましたらナツメまでご連絡ください!
【2022年7月3日更新】
PDF本、ついに完成しました!
550ページの合本版と、上下分冊版でご用意しております。もちろん無料配布です!
書籍版は実費で頒布しますので、ご興味ある方はGoogleフォームからお申し込みください。
(申込締切:2022年7月17日)
おわり
初の自主企画の主催ということで、色々と不備もあったかと思いますが、たくさんの方にご参加いただき本当にありがとうございました!
第一回と銘打ったので、いつか第二回もできるといいですね。
それではまた!
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