新入社員と会長の絵
先日駅付近を歩いていたら、スーツがピカピカな新入社員とおぼしき集団を見かけた。そうか、今日から社会人か…。私にもそんな時期があったなぁ。
そして、この時期といえば忌わしい想い出がある。
私が大学を卒業し、晴れて社会人となった初日、会社主催の新入社員歓迎会があった。それは会社近くのイベントホールを貸し切って、新入社員全員と人事の人達や社長の他、会長も出席する結構立派な立食パーティーだった。
新入社員は所属部署と名前が書かれた名札を付け、一ヶ所に固まって真ん中のテーブルに集まることになっていて、若干緊張しながらも和やかに先輩社員の皆さんと談笑していた。
と、そこにすでにほろ酔いとなった会長が我々新入社員のところにやってきて、名札を見ながら、
「君がデザイングループに配属された。××君かね。やっぱり美大を出てるのかね?ボクはね、絵を描くのが趣味でたくさん描いては会社に飾ってるんだよ。君はどの絵が好きかね?」
と、私に話しかけてきた。
会長に話しかけられてむちゃくちゃ緊張していた私は、突然聞かれてもまだ会社の中を全部見たわけじゃないし…と焦りつつ、必死で会社に飾ってあった絵を思い出しながら、ふと受付の一番目立つ場所に飾ってあった、女の子の横顔の絵を思い出した。
見た中ではあの絵が一番いいな…。
そう思い、
「受付に飾ってある女の子の絵が一番好きです。」と答えた。
咄嗟に答えた割にはいいチョイスだったんじゃないかと我ながら思った。
実際いい絵だと思ったわけだし。
けれど。
会長は「そうか…。」と淡白な反応をしてまた別の新入社員のところに行ってしまった。あれ?もっと他の絵がお気に入りだったのかな?まあ、いいか…。
そして次の日から仕事に慣れるのに精一杯という忙しい日が続き、絵のことなど忘れていたある日。
受付の例の絵を何気なく見ていると、他の絵と画風が違うことに気がついた。
この絵の時だけ画風を変えたのかな?でもこれだけ妙にレベルが高いな…。
嫌な予感。
先輩にそれとなく尋ねると、
「ああ、あの絵は会長の絵の先生(画家)が寄贈した絵だってよ。」
あは、あはははははは・・・ははは早く言ってよねー!!!
1日目にして会社員に向いてないのが分かったあの日。
※ブログFROG★WORKS雑記帳2009年4月1日掲載「改札」より加筆修正